10話 ---檸檬凜素---
「最近、ヌシの専属の髪艶が変わったと聞いたが、その薬液の効果かや?」
「はい、石鹸で洗った髪のゴワゴワ感を抑える物です。
最近になってやっと満足のいくものが出来ました。
ガ~リィ~。義母上に差し上げる『リンス』を持ってきてくださ~い。」
脱衣所からガーリィが、義母上用に配合したリンスを持ってくる。
義母のお供の方も一人ほど来てもらおう。
石鹸で髪を洗った後は、酸性の物でリンスすればいい事は知っていたが、どんな原料をどんな配合で、までは不明だった。
例によって実験台はイリスだ。
何度か試検した結果、ライモンの実を皮ごと絞ったものが、少量の油分も含み申し分なかった。
「義母上。髪をお洗い致しますので、一度湯舟にお浸かり下さい。そしてこちらに背中をおあずけください。
供の方。よく見ていて下さいね。」
湯舟の一部が傾いていて頭が洗髪台の部分に出るようにしてある。
「おーこれは楽でいいのぅ」
「義母上。湯舟でなく椅子に座る形の物も別に設けてあります。髪だけをお洗いになる場合でしたらそちらをお使いください。ラーヤ。洗って差し上げて。」
「はい、ヒロ様。」
こちらもラーヤは手際がいい。
「仕上げにこの『リンス』を使います。」
ラーヤは、リンスを溶かしたお湯を義母上の髪に着けマッサージする。
「ん?薔薇の薫りかや?」
「はい。色々な材料を試しているうちに、ラズモンという果物が薔薇の薫りに近い事を知りまして、それを元に、義母上の事を想って作りました。」
「そなたの想いがしみ込んでくるような、いい薫りですねぇ。」
「次に、軽くすすぎます。
後はしっかり水分を拭きとります。
風呂から上がったら風魔法等でしっかり乾かしてください。」
髪がまとめられ、タオルが巻かれる。
「この『リンス』ですが、レシピをお渡ししますので、どこか義母上の贔屓の商会に作成をお願いできないでしょうか?」
「そっくりレシピを渡してくれるのかや?」
「はい。今回は、ライモンとラズモンで作りましたが、他にもいい材料や香料があるかもしれません。今後の開発も含めてその商会にお願いできないものかと。」
「ふむ、石鹸と香料を扱ってる商会がある。そこにお願いするかのぅ。」
「義母上。もう一つお願いが。」
「なんです?」
「新開発商品も含めて、リンスを、僕の部屋に回して貰えませんでしょうか。」
「解りました。その様に取り計らいましょう。」
「ありがとうございます。我々はもう上がります。ごゆっくりお浸かり下さい。ハル、騒いじゃ駄目だぞ。」
僕たちが脱衣所に入ると、入れ替るように残りの供の者たちが浴場に入っていった。
僕の体は、ガーリィが『オンプウ』を使って乾かしてくれる。
ラーヤは『カンソウ』をうまく使って不要な水分だけを飛ばす。イリスだと水分全部飛ばして髪や肌がガサガサになってしまうが、さすがラーヤだ。調整が上手い。
「ラーヤの髪は綺麗ですね。」
ラーヤは真赤になって、
「ヒロ様、それは『お手つき』の際の台詞です。好いた相手にお使いください。」
「僕は、ラーヤやガーリィ達。皆大好きですよ。」
今度はガーリィも真赤になった。
上がってからしばらくして脱衣所から
「わぁ~。サラサラよ!サラサラ!それにこの薫り。うん、これで今度のお茶会注目度ナンバーワンはもらったも当然ね!」
また義母が壊れたらしい。
ラズモン:ライモンの亜種。希少。




