1話 ---珈琲試飲---
「今日はキャルフの種を加工しましょうか」
市へ行った後日、出入りの金工職人に焙煎機を依頼しておいた。
そんな特殊な物ではなく、径1シャックン(約18㎝)の銅缶の片側にハンドルをつけたものとその受け台だ。
これを薪ストーブの上に置いて、缶には種を入れハンドルを回す。
「何か香ばしい香りがしてきましたけど、ナカミ真っ黒です。私の仕事の成果が炭になっちゃいました。シクシク。」
「イリス。これでいいのですよ。それに黒くはなってますが炭にはなっていませんよ。」
見た目は『俺』の記憶どおりの出来だ。
「ガーリィ。これに弱い『ドラマル』をあてて小さなごみを分離してください。」
「はいヒロ様。」
小竜巻に巻き上げられるチャフ。
豆の薄皮などが焦げたものだ。
これを取り除かないと雑味が残ると聞いている。
風が当たり種の粗熱も取れるので一石二鳥だ。
次に粉砕だが『プロセッサー』にかけるには硬いので石臼を使う。
用意したのは、粗目の物だ。
「ドコデ、モドア。これを石臼で粉にしてください。」
兄弟に筋力強化術を習わせた後で助かった。
軽々と準備してくれて、やすやすと作業してくれる。
〈ゴーリ、ゴーリ、ゴーリ…〉
「お湯は沸いてますね。ではポットの上にドリッパーとネルをセットして出来た粉を入れます。」
ドリッパーも、職人に依頼した特注品だ。『穴の開いた陶器なんてどうするんですか?』と心配顔されたが。無言で押し通した。
1つ穴って『カリタ』だっけ?『メリタ』だっけ?
こちらでは上質な木紙はつくられていないのでペーパーフィルターは没だ。
生成りの布でネルを作っておいた。
「お湯で少し湿らせてから少し待ちます。」
蒸らして、ムラして、ムラムラして♪
調子に乗ってしまった。ムラムラしてはいけない。
「お湯をゆっくり回しながら注ぎ入れます。」
〈ポトポトポト〉
黒い液体がポットに溜ってゆく。
〈ポトッポトッ、ポトッ…ポトッ〉
「これをカップに入れて下さい。みんなでお茶にしましょう。苦くて口に合わない場合もあるので、果実水も用意しておいてください。」
工房での試食や試飲は皆と一緒だ。
もう定番なので今更『侍従矜持』『侍女矜持』を持ち出す者はいない。
「ヒロ様、ホントにお飲みになられるんですかぁ?真っ黒ですよ。」
「せっかくイリスが剥いてくれた成果を飲まないわけにはいかないでしょう。では」
「「「「「「「「いただきます。」」」」」」」」
一口、口に含む。
うん、この苦みと酸味。まさしくコーヒーだ。
「「「苦~~い」」」というのは侍女姉妹+ベティ。
[うん、悪くはないわね]の顔はラーヤとガーリィ。
[ちょっと遠慮]はモドアで
[フムフム、イケる]はドコデだ。双子でも好みに違いはあるようだ。
「紅茶と同様、お菓子をつまみながら飲んでもいけますし、砂糖や乳を混ぜて飲んでもいいでしょう。」
早速、苦手組はめいめいに砂糖と乳をいれて調整している。
「ラーヤ。どうです?貴族受けしそうですか?」
「そうですね。ご婦人向け、というより旦那様向け、と言ったところですか。『優雅にお茶をする』ではなく『お茶の後は頑張ろうか』て気にさせます。」
「ラーヤの意見は的確ですね。
ドコデ『新しい飲み物でお茶でもいかがです』と父上に連絡を入れて置いて下さい。騎士団長にもお願いします。」
「はい。ヒロ様。では早速行ってまいります。」
「ヒロ様。この飲み物の名前ってなんですか。」
「イリス。僕が呼んだ書物(嘘)では『コーヒー』と紹介されてましたが、キャルフの種でできた飲み物ですので『キャルフィー』とでも名付けましょうか」




