3話 ---女主生誕---
御当主様に長女アルフィーニ様がお生まれになりました。
残念なことに奥様は、産後の肥立ちが悪く亡くなられたそうです。
それを機に私は屋敷に戻ってまいりました。
長女アルフィーニ様の教育係としてですが、なぜか屋敷の皆からは『ラーヤ様』と呼ばれています。
『ばあや』と呼ばれることに憧れはあったのですが、皆の意見は
「容姿的に無理」
と言うものでした。
おいたをした時に思わず叱ってしまい彼女を大泣きさせてしまったのですが、御当主様は
「其方の母を思い出すなぁ。あれに叱られるのが最も怖かった。が、あれに叱られたからこそ、当主をやって行けてる。其方も『当主の娘』ではなく自分の子のように育ててはくれぬか?」
それからは単なる教育係以上の愛情をもって彼女を育てました。
アルフィーニ様はすくすくと成長され言葉を話されるようになったある日の事です。
「ラーヤをワタシの専属にしたいのだけれども、なってくれる?」
いきなりの事にびっくりしました。が、これでも私はベテラン侍女です。うろたえた態度など取る事はできません。
「ありがたき言葉にございます。しかしそれには御当主様の承認がいります。何故に私を専属に希望されるのですか?」
「だって。ラーヤはあくまでも教育係として父に雇われているのでしょう。そうなると解雇権は父にあるわけで、いきなり辞めさせられたら私が困るもの。私に意見できる母のようなラーヤにはいつまでもそばに居てほしいもの。」
早熟とは思っていましたが、幼いのにここまで理解し、自分の意見を述べられるなんて。
御当主の許可を得てから
「ラーヤ。今後私の事を『お嬢様』ではなく『アル』と呼んでください。『アルフィーニ』より呼びやすいでしょ。」
「はい、アル様」
これで本当の意味で絆が出来たように感じました。
アル様は淑女へと成長されました。
そんな中、公爵家からの縁談話が舞い込みます。
実は貴族院(貴族子女の学校)時代から親交があった方です。
そのころからアル様よりご相談を受けており、私の持つ侍女ネットワークを駆使し、その人となりを調べ上げておりました。
軍役時代は数々の武功を挙げられ、将軍の補佐を務められた方です。
部下だけでなく、敵からも人徳を認められていると報告を受けています。
家柄を抜きにしても、文句のつけようもない紳士です。




