10話 ---宿酔解話---
「ここだけの話じゃが、儂とフォーリアスはサシで杯を交わす間柄じゃ。ん?なんて顔をしておる。フォーリアスは御父上の名前ではないか。知らなんだか?」
えっ?父上の名前って『フォーリアス』?
そういえば今まで名前、出てなかったよな。
「元、上司と部下じゃて。普段は騎士団長と御当主の立場じゃが、その場では気兼ねなく意見を交わしておる。昨晩はヌシの事で話が弾み、久しぶりに痛飲してしもうたわい。」
にしては元気溌剌。二日酔いの兆候が見られないが。
そういえば父も顔色悪かったな。
単なる苦渋の表情だけでなく二日酔いでもあったのか。
「ヌシのアドバイスが効いたようでの。ヌシも半信半疑だった様じゃが、その仕組みを教えてくれぬか?」
う~ん、どっから話そうか?
「まず『酔い』ってなんで起きるか解ります。」
「酒を飲めば『酔う』のが当たり前であろう。いやまて。酒精が強いもの程酔いやすいのう。ということは酒精が原因であろう。」
「そうです。酒精が体に入ると、考えたり感じたりする器官の一部を麻痺させます。麻痺する部分は人、時によって異なりますがそれが『酔い』です。」
『不快』に感じている部分が麻痺すると気分がよくなるし、感情を抑えている部分が麻痺すれば『笑い上戸』『泣き上戸』『怒り上戸』になったりする。
「フーム。『酔い』は何となくわかったが、なぜその後に痛みが来るのじゃ?」
「酒精って、体に入ってから時間がたつと毒に変わります。通常なら逐次解毒可能なの毒なのですが、許容量を超えると体に残ってしまいます。この残った毒が二日酔いの原因です。」
実際には酒精も毒の一種であり、解毒の途中工程で出来たアルデヒドが二日酔いの原因である。が、ここでは説明を省こう。
「うむ、そうであったか。して、果実水と強化術については?」
「果実水は解毒によって失った成分を補うため。解毒は右わき腹にある『肝の臓』が一手に引き受けていますので、そこが強化されれば二日酔いもすぐ解消されるのではと思ったのです。ただ『肝の臓』がその位置にあると知っていても自分で確かめた訳でなく、『強化術』も『その部位の機能を強化する』術との推測だったもので、半信半疑だったのです。」
「で、ヌシの推測は当たった、というわけじゃな」
腑分けの本(禁書)を見たので、臓器位置は地球人と大体合ってるらしい。
らしいというのは、見てる途中でラーヤに見つかり取り上げられてしまったからだ。
流石に『禁書』はまずいとの事だ。(父の蔵書にあったのだが…)
「『肝の臓』は何の毒でも解毒可能なのか?対応しているのは酒精の毒だけか?」
「生物系の遅効性の毒なら対応はとれると思います。が、全てに対応可能かは確証はできないですね。」
師匠は急に真面目な顔になり
「して、この術を団員に伝えてもよろしいですかな。」
と聞いて来た。
つまりは臣下として上に許可を貰う態度だ。
「一応、防御強化術と共に、父上に話を通して貰えれば、僕としては使ってもらっても構わないと考えています。ただ教会に知れると厄介なので外に漏れないよう徹底してください。」
神聖魔法の専売特許『癒し』の魔法ととられると厄介だ。
「解毒の強化術については、仕組みは明らかにせず『こうすれば二日酔いになりにくいので必ず行う様に』と、飲酒後就寝時の習慣づければどうでしょう。」
「心得ました。」
と、いたずら爺さんの顔に戻り
「ヌシはまだ色々知ってそうじゃの。これからも楽しめそうじゃわい。」
…
…お手柔らかに願います。
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今後、ルーフィン騎士団はいろんな二つ名で呼ばれる様になる。
元々『不敗(将軍)の騎士団』と呼ばれてはいたがそこに
『鉄壁の騎士団』
『否酔の騎士団』
が加わり、さらには
『否毒の騎士団』
とも呼ばれるようになる。
のは後の話。




