フレイザル様とリリフ
兄様が行ってしまった……。
「お兄様を追いかけましょう、フレイザル様」
「で、でも兄様は部屋から出て駄目って、ぁ!!」
リリフが僕のかけていた布団を勢いよく引っ張った。
「目通りが叶うまで時間がかかります、けれど陛下の怒りを買う前に止めなくては」
「っ、兄様は僕を心配して父様に話をしてくれるんだよ……それに!!、父様は優しい方だから」
「そう感じるのは貴方が陛下のお優しい面だけを見ておられるからですわ」
リリフの言っていることが理解できず僕は何も言えず俯くことしか出来ない。
「もっとも陛下がフレイザル様にお見せしていないともいえますけれど、ではこう申し上げれば貴方にでも分かるかしら」
「!!」
リリフの言葉に僕は顔を上げると顔を近づけられた。
「あの愚兄を手放したくないでしょう」
リリフの忠告じみた言葉が兄様がどこかに行ってしまうと感じたことを思い出させる。
「私は確かに陛下をお慕いしておりますわ、ですが……そのきっかけを作ってくださったのは貴方」
僕を見つめてるリリフの赤い瞳は兄様に似ているような気がした。
「……貴方がいなければ私たち兄妹はフレイムルドを出ることなく死んでいた」
僕は一度だけフレイムルドに行ったことがある。
その時、リリフとグラフィン兄様に出会った。
「フレイザル様が王位につかず弟君のどなたかが王位についたなら」
「僕たち兄弟は仲がいい……僕なんかじゃなく弟の誰かが王になっても」
「それは弟君とフレイザル様の仲のお話、弟君同士の仲はよろしいとは言えないのではありませんか」
僕なんか王位に相応しくないと思っているのにやめたいと言い出せないのは弟達がいるからだ。
母様や同盟国同士は険悪、あくまでエルドクルに忠誠を誓う形で争いが起こっていない。
もし大切な弟達が争うことになったらと考えないようにしていたことが頭の中で回り始めて、いくつもの嫌な予感が巡り息が詰まるほどの憂鬱感に襲われる。
「リ、リフ?」
「陛下は貴方を王にと望んでいる、私は陛下の望みを叶えたい……それだけ」
リリフの細い指が僕の前髪を退かした。
こちらをうっとりと見つめる赤い瞳には熱を帯びている。
その瞳は僕を通して父様を見つめていた。
「僕は父様じゃな」
「えぇ、でも陛下が貴方を見る眼差しはいつも……それを見ていたいのです、もっとも近くでね」
僕は自分に向けられる悪意を感じてしまう、王になったら僕は下さなければいけない決断を下せない。
「貴方が兄を失ったら、ますます閉じ籠ってしまう……そして王位が遠退く」
陛下のお顔が見られないと憂いに満ちた表情でリリフは僕から離れていった。
「君は……僕が王に相応しいと思うの?」
「私?、ふふっ、お分かりでしょう、陛下が望まれている、それが全て」
父様が兄様に何かするとも思えない、それなのに僕はいつの間にかベットから降りて部屋の扉を開けた。
「良いご決断ですわ、フレイザル様」
「……」
兄様の言い付けを守らず部屋から出てしまった。
グラフィン兄様は、どんな顔をするだろう。
そんなことばかりが気になって満足げなリリフの声に返事を返さず足を進めた。