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フレイザル様、はらぺこ。

式典まで、あと四日。

誰か助けて下さい。

先日と同様、僕は危機に陥っています。


「おなかすいた……」


空腹を訴えてくる、お腹を撫でながら僕は昨日のことを考えていた。

許してくれますか、マリアルの問いかけに僕は曖昧に答えることしか出来なかった、僕が王に相応しいはずなんてない。


「僕が兄上だから、そう思うだけだよ、マリアル」


けれど曖昧に答えた僕を見るマリアルは悲しそうで、なんだか憂鬱?……自分でもよく解らない落ち着かない気持ちになった。


「はぁ、おなかすいたぁ」


そして僕はあの後、こっそり自室に戻り部屋に鍵をかけ今に至る。

刺客に襲われたことはリリフとグラフィン兄様に伝えなかった。

でも部屋に閉じ籠って髪を切られる心配と刺客に狙われる心配はなくなったけど空腹という問題が出ている状況……まぬけだ、憂鬱だ。


「うぅ」


昨日の昼から何も食べていない僕は限界を感じ自室の扉の外に聞き耳をたてた。

少し前までまでは二人の声が聞こえてて。


「俺が悪かった!!、フレイザル、許してくれっ、頼む……顔を見せ」

「邪魔です、お兄様……フレイザル様、どうか出てきて下さいませ、私が間違っておりましたわ」


兄様、リリフ……。

どうしよう、僕が扉を開けようかと思った、その時。


「おい!!、リリフ、鋏を構えるのをやめろ!!」

……開けるのやめよう。

「余計なことを……私の計画が台無しですわ!!」

どんな計画だよ、恐いよ。

「とにかく、これ以上、フレイザルを怯えさせるな……妹といえど許さんぞ」

「お兄様こそ邪魔をなさらないでくださいまし、はっきり申しますと日頃のお兄様の行動はフレイザル様のためになりませんわ」

あれ、雲行きが怪しい気がする……。

「っ貴様……場所を変えるぞ、リリフ、ついてこい」

「いいでしょう」

ちょ、二人ともぉ、どこにいくの!?、声が恐いんだけど!!。

「……消し炭にしてやる」

「……消し炭にしてさしあげる」


ぁ、どうしよう……憂鬱だ。

でも今出ていく勇気は僕にはありません。

それが数分前の出来事。

僕は少しだけ扉を開け廊下を覗くと二人の姿は見当たらない。


「……」


また襲われたりしたら恐いけど人が多そうな場所は嫌だけど、そういうところを通れば大丈夫かなぁ。


「よし、行こう!!」


昨日は逃げてたから分からなかったけど、こんなに一人で過ごしているのって初めてかもしれない。

いつもリリフや兄様がいるしなぁ、なんだか城の中を冒険してるみたいな気がして。


「あれ、昔……」


デジャブ?、こうして一人で城の中を歩いたことがあるような。


「……思い出せない」


エルドクル城は、とても大きくて広くて生まれた時から住んでいる僕も行ったことのない場所が沢山ある。

食堂も、その一つ。

いつも食事は自室で食べるし行ったことがなかったけど何かもらうことは出来ると思う、たぶん。


「ここだ!!」


食堂の扉は大きく開かれて食事をしている人や中へ入っていく人も大勢いた。

兵士や使用人たち、食堂の入り口に立つ僕を遠巻きに見ているのが分かる。


「っ」


だから人の多いところは嫌だ、その視線の中に複数の悪意を感じて僕は耐えきれず俯いた。


「もう……いい」


部屋に戻ろう。

身体にまとわりつくような不快感が気持ち悪くて食欲が失せていく。


「フレイザル兄貴ぃ!!」

「うわぁっ!!」


僕は食堂の中に入らず背を向けた。

その時、後ろから勢いよく抱きつかれよろけてしまった。


「久し振りだー、兄貴、会いたかった!!」

「苦し、グランゼ」

「ああ!!、わりぃ!!」


第三王子、グランゼ・ロード・エルドクル、茶色の髪と瞳、勇ましい顔立ち、僕の自慢の弟。


「ごめん、兄貴またやっちまった」

「大丈夫だよ、怒ってないから」


しょんぼりとした様子が可愛くて僕は頭を撫でた。


「うー、兄貴ぃ、強くしねーから抱きついてもい?」


グランゼは、よく僕に抱きつく。

小さい頃はよかったんだけど成長するにつれて力が強くなって……強すぎて命の危険を感じることがある。


「しょうがないなぁ」


だけど弟に甘えられるのは嬉しい。


「やったー、兄貴~」

「ふふ、くすぐったい」


グランゼは僕を抱き締めたまま頭を押し付けてくる。


「ぁ」

「あれ、兄貴も腹へってんの?」


グランゼのお陰で嫌な感じがきえて楽になると僕のお腹が空腹を訴えた。


「うぅ、恥ずかし」

「ん?、なんでだ、俺なんていつも腹なってるぞ」


僕はまた鳴り出してしまいそうなお腹を押さえる。


「でも真っ赤なリンゴみたいな兄貴はうまそうで可愛いと思うぞ、そうだ!!、一緒になんか食おう!!」


うまそう?、可愛い?。

なんだか、よく分からないけど僕はグランゼに手を引かれて食堂に入った。


「俺が頼んでくるから兄貴は、この席とっといて」

「ぇ、うん」


遠目からグランゼの様子を見ると食堂になれている様子で楽しげに見えて微笑ましい。

だけど僕が座って数分も経たないうちに、このテーブルにいた人達はいなくなっていく。


「早く食べて帰ろ」

「兄貴、おまたせー」


また憂鬱な気分になっていると両手に皿をもったグランゼが戻ってきた。


「兄貴の分、はい!!」

「あ、ありがとう」


前に出された皿の上には山盛りの料理……主に肉。

食べきれるかなぁ、心配になった僕は思わずグランゼの顔を見ると何故か、そわそわした様子で僕の顔を見ている。


「?、どうしたの」

「えぁ、わりぃ、それ……サンドロイの料理でさ!!、母さんとサンドロイに行った時、食ってうまくて兄貴にもいつかって思ってて!!、それでなんか気になって」

「グランゼ……ありがと」

「ッ、い、頂きます!!」


グランゼの気持ちが嬉しくて僕が笑うと照れたのか勢いよく料理を頬張った。


「……ふふ、頂きます、っおいしい!!」

「よかったぁ、この料理、じいちゃんが教えてくれてさ、サンドロイの名物だって!!」


グランゼのお祖父様はサンドロイの……。


「じぃちゃん、親父の誕生日に祝いに来るって言ってたから、じいちゃんと兄貴を会わせられるぜ」

「え!?」


あぁ、どうしよ、憂鬱だ。

今更気付いた、父様……国王の誕生際に同盟国の王が来ないはずがない。


「あの!!」

「っ!!」

「ん、なんだ?、お前、何か用?」


頭の中が混乱し始めた時、見知らぬ男、姿からして兵士に声をかけられた。


「えぇ、お二人に声をかけるなんて恐れ多いと思ったのですが実は私、サンドロイからエルドクルに出て来て日が浅くて……」


兵士の髪や瞳は茶色、笑って話しているのに僕を見る眼から不快感、悪意を感じる。


「お二人が祖国の料理を食べておられたので嬉しくて思わず声をかけてしまいました」

「そうか!!、これうまいよな!!、兄貴も気に入ってくれたんだぜ」


グランゼは楽しそうに話しているし人目もある。

この男から脅迫状と同じ悪意を感じたけれど、この場では何もできないだろうとグランゼに僕は小さく頷いた。


「……へぇ、それは俺も嬉しいです……」

「っ!?」


不快感が強くなる。

それは僕への悪意が強まった証拠だ……。


「でも、もっと旨くする方法があるんですよ、コレをかけると」

「ぁ」


そういって男が何か筒のような物を取り出す。

そして僕の食べかけの料理の上へ振りかけた。


「へぇ、俺のにもかけてくれよ」

「っ、申し訳ありません、さっき俺も使ってしまってもうなくて……さぁ、フレイザル様、どうぞ」

「……それ」


毒、そんな……せっかく、グランゼが僕に用意してくれた料理だったのに。


「あれ、兄貴、食べないのか?、なら俺が」

「っ、駄目だ!!」

「!!」


毒の料理にフォークを伸ばしたグランゼに僕だけじゃなく男も焦った様子に見える、男はサンドロイから来たと脅迫状の主は……。


「ぇ……兄貴?」


マリアルの時と同じ、この人はグランゼのことを考えてる。


「ん、駄目だよ、これは僕が貰ったんだから」

「ぁ、わりぃ」


大丈夫、少し具合が悪くなるかもしれないけれど……。

僕に毒は効かないから、でも出来れば遅効性の毒だといいなぁ。


「いただきます、ん!!」


憂鬱だ、速効性だった……。

口の中が気持ち悪い。

噛まずに飲み込め、飲み込め、顔に出すな。

喉が胃が熱い、苦しい。

吐き出したい、汗が吹き出て気持ち悪い。


「あ、兄貴?」

「おぃし、でもさっきのほうが好き……っだなぁ」


この男はグランゼに危害は加えないはずだ。

なら部屋に早く戻って寝てしまえばいい。


「お腹いっぱぃ、残りは部屋で食べる」


僕は皿を持って立ち上がろうとしたけれど足に力が入らずよろけてしまう。


「兄貴、危ない!!」

「っ、貴方もそろそろ、仕事に戻った方が……いいんじゃ?」


僕が来たせいなのか仕事に戻ったのか食堂にいた人々は最初に比べて減り疎らだし席も離れている。

これなら僕らの声は聞こえないだろう。


「そんな、この毒が……きかないはず」


兵士の男が呆然と僕を見ているのに気づく。


「毒……って」

「グランゼ、知ってるだろ?、僕に毒は」

「けど、苦しいんだろ!!」

「っ、苦しくな」

「嘘だ!!」


安心させようと笑うとグランゼが苦しげに叫ぶのが聞こえた。


「許さねぇ、絶対に粉々してやる……」


グランゼの怒気に気圧された男の顔が強ばる。


「我が声に集い我が心に答えよ、その姿を変え我が手に集え!!」


詩歌によってグランゼはガンドレットを生み出し拳を男に向けた。


「お見事、グランゼ様」

「気安く呼ぶな、兄貴にどうして」

「それはサンドロイと……貴方の」

「黙れ!!」


男が言い終える前に僕は声を上げガンドレットに手を置き下げさせる。


「兄貴?」

「ただの兵士の分際で、下がれ」

「なんのつもり」

「下がれと言っている……グランゼの為だ、お前の為じゃない」


僕が睨むと男は背を向けた。


「っ待て!!なんでだよ、兄貴に毒を」

「父様の誕生際が中止になってしまうよ、そうしたらグランゼのお祖父様に会えなくなる」


僕はグランゼの固い手を握った。


「っ、やっぱ兄貴はすげぇな!!」

「え?」


グランゼはガンドレットを消すと笑顔で僕の手を握り返した。


「さすが国王になる男!!、でもさ、俺も強くなるから兄貴の隣にいて恥ずかしくない男になる!!」

「グランゼ?」

「だから……兄貴、兄貴が国王になっても側にいさせてくれるよな?」。


マリアルも似たようなことをいってた、さすが兄弟。

僕が国王になる男?……そんなバカな……。

僕には無理ですから、グランゼまで何言ってるの……憂鬱だ。


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