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フレイザル様、逃げる。

式典まで、あと五日。

誰か、助けてください。

現在、僕はある危機に陥っています。


「さぁ、フレイザル様、観念なさいませ、その鬱陶しく伸びた御髪とお別れいたしましょう……ね?」


いつになく優しげに笑い首を傾げ、にじり寄ってくるリリフ、その手には僕に向かって構えられた鋏の刃がキラリと光っている。


「いやだぁぁッ!!」


僕は前髪を両手で抑え後ずさり自室の扉を盗み見て逃げ道を探した。


「お兄様!!、何をしてらっしゃるの!?、フレイザル様をしっかり捕まえてくださいな!!」

「すまない、フレイザル、これもお前の為っ」

「うぅ、やだぁ」


グラフィン兄様が僕の後ろから抱きついてきた。

抱きつかれ身動きが取れない逃げられないぃ、せめてもの抵抗を思いつき頭を振る。


「フレイザル様、もう無駄な足掻きはお止めになって、このままでは手元が狂ってしまいますわ」

「ひっ、やだ、やだぁぁ」

「そんな駄々を……可愛いな、フレイザル」


前髪を切られてしまったら目があっただけで怖がられて、また……なんて気持ちの悪い目なのかしら、本当に国王の子か、幼い頃から聞こえてきた陰口が蘇る。


「ほら、あぶないぞ、恐いことなんてないから」

「離してよぉ、グラフィン兄様の、ばかぁ」

「な……」


泣きたくなんてないのに涙が……。

突然、兄様の腕が緩み僕は咄嗟に走り出して、そのまま自室から飛び出した。


「ちょ、お兄様!!、バカといわれたぐらいで動揺してどうするのですっ!!」

「フレイザルを泣かせてしまったッ、嫌われ……」


どこかに隠れなきゃ。

母様の所に行けば強制連行で父様の所に行ったらリリフに消し炭に……駄目だ。

弟たちのところへ行こうかと思ったけど母様のことを考えると控えた方がいいしなぁ。

はっきり言って母様同士の仲は険悪だけど弟たちは僕を慕ってくれてる。


「いくとこない」


兄様にバカって言っちゃった……怒ってるかな、リリフは絶対怒ってる……憂鬱だ。


「けど戻りたくない」


憂鬱な気分で歩いていると、いつの間にか中庭にまで来ていた。


「少し休もう」


中庭にある大きな噴水の縁に座り前髪に触れる。


エルドクル国はアルケテロス大陸の中心にある大国。

エルドクルの他にフレイムルド、アクアミリウム、サンドロイ、ウィンガルドの四つの国がある。

四つの国々はエルドクルと同盟と忠誠を誓っていて、エルドクルの王になるということは……。


「それに僕は……」


アルケテロス大陸に住む人々は火、水、土、風いずれかの四属性の魔力に目覚め力を使うことが出来るはずなのに僕はまだ力に目覚めていない。

目覚める属性の可能性は血筋が関係しているらしい。


フレイムルドの血筋は火属性で髪や瞳が赤色。

アクアミリウムの血筋は水属性で髪や瞳が青色。

サンドロイの血筋は土属性で髪や瞳が茶色。

ウィンガルドの血筋は風属性で髪や瞳が緑色。


両親が混血だった場合はどちらかの属性を受け継ぐ。

だけど僕は紫の髪と瞳の色、どの属性にも当てはまらず、父様と母様の髪と瞳の色を受け継いでいない。


エルドクルの王になる者には四属性とは別の属性に目覚めるはず、しかし弟達が目覚めた力は、四属性の一つだった。

母様は兄弟達の中で僕が力に目覚めないないのはエルドクル国の王つまり父と同じ属性の為、目覚めるのが遅いだけだと言い張っている。


「!?」


この僕が父様と同じ力なんて……そんなことを考え憂鬱なっていると背後から嫌な視線を感じ先日、届いた三通の脅迫文を思い出した。

今はグラフィン兄様もリリフもいない、僕一人だ。


「……」


もし襲われたら逃げ切れない、力のない僕には応戦も出来ない、けれど気配からして相手も一人だ。


「……!!」


このまま相手に気づいてないふりをして人のいるところまで走り続ける、それしかない。

僕は座っていた噴水の縁から、そっと立ち上がり走った。


「ひっ!!」


しかし、走り出してすぐ何か冷たいものが首に巻きついたのを感じたと思ったら後ろへ強く引っ張られる。

引かれたせいで首が締まり尻餅をついてしまう。


「ぐっ、かは」

「まさか、無能な第一王子に気取られるとは思いませんでしたわ」


逃げなきゃ、僕は首に巻き付いた物を剥がそうと手を伸ばすと見知らぬ女性が見下ろしている。

青い髪と瞳、アクアミリウムの……。


「私の力程度、退くことが出来ないとは……あの方が嘆くのも無理はない、このまま沈めてさしあげます」

「かはっ、ぐ」


苦しい、息が出来ない。

巻き付いた水の縄が僕の首を締め上げていく。

あの方が嘆く、アクアミリウム……。

僕の中で女性が言う、あの方が誰なのか想像できた。


「ダ、めだ」


もし僕の思った通りの人物だったとしたら……絶対に殺されるわけにはいかない。

どうしても逃げなきゃ、でもどうやって……。


「我が声に集い、我が心に答えよ、その姿を変え我が手に集え!!」


息苦しさと首に絡み付いた冷たい感触が消えた。

これは詩歌(しいか)……。

詩歌はより強い力を使う場合に用いる物だとけど誰にでも出来ることじゃない。

それに、この声……。


「マ……リアル」

「貴様、よくも私の大切なフレイザル兄上をッ」


第二王子、マリアル・ロード・エルドクル、青い髪と瞳、見惚れる綺麗な顔立ち、僕の自慢の弟。


「な、何故……マリアル様が邪魔を」


詩歌によって生み出しだ水の剣、それはマリアルのように綺麗な剣。

マリアルによって縄は切られ、僕は解放されていた。


「後悔させてやる、死よりも深い底へ沈めてやる!!」


マリアルの冷たい眼差しと水の剣が戸惑った様子の女性へと向けられている。

このままでは女性は捕らえられ……あの方が誰なのか知られてしまう。


「マリアル様……兄と慕って?、しかし、これは貴方の為、この(めい)は……」

「黙れ!!」


マリアルに父様や母様に知られてはいけない、絶対。

咄嗟に出た声が思ったよりも大きくて喉が痛い気がした。


「何もなかった、何も起きなかった……誰にも何も話すことを許さない!!」

「兄上……」

「マリアル、ぼ、僕に恥をかけさせたいのか?……女に殺されかけ弟に助けられたと知られたら……僕は第一王子なんだぞ」


マリアルは、そんなこと思ったりしない。

こんなこと言いたくない、だけど……。


「お前とは立場が違うんだ!!」

「よくも兄と慕うマリアル様の、お心を利用して」

「黙れ!!、お前が僕の兄上を語るな!!」

「っ、マリアル様……」


女性は悲しげにマリアルの名前を呼ぶと僕を睨んで姿を消した。


「兄上、お怪我は……!!」

「マリア、ル、ぅ」

「……兄上」


怖かった、苦しかった、首が喉が痛いよ。

マリアルに謝りたい、さっきのは嘘だよ、助けてくれてありがとうって言いたい、でも……。


「フレイザル兄上、泣かないで」

「泣いてなぃ、よ」


マリアルを傷つけた。

僕が泣いてたら駄目だ。

僕はマリアルの兄上なんだから。


「泣いてます」

「ふっ、なぃ、て……なぃ」


僕は泣いているのを隠そうと俯いた。


「私のせいですね」

「っ、違」

「違いません、兄上は嘘が下手ですから……有難う御座います、また私を救ってくれました」


また?。

それはなんのことかわからなかったけど。

マリアルは頭のいい子だから気づいてしまったのかもしれない。


「私はなんと言われようと兄上が王に相応しいと思います……将来、国王となった兄上を一番、近くで支えたい」


僕はマリアルの言葉に驚き顔を上げる、驚きすぎて涙も止まった。


「……許してくれますか?」


マリアルは頬を染め、綺麗な顔で微笑んでいる。

僕が国王に相応しい?、そんなバカな……。

僕には無理だから何言ってるの、マリアル……憂鬱だ。


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