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続けて最終まで投稿します。


レーネットは、同じ転生者であるはずの、ヒロイン、ティエラがゲームの場面だけしか考えていないことを、忠告した時に知った。

乙女ゲームに各場面だけにしか出てこない、麗しき少年たち。

 ここは現実であり、ゲーム以外でも、彼らや、他の人々は生きている。

 そのことを、気づかないまま、ただ、夢心地で、彼らを縛りつけられたら、ループリア王国が崩れることは確実だ。

 そのため、レーネットは、己が転生者であることを、公にした。

「将来なんて、卒業してから、いくらだって思いつくわ。それなのに、何邪魔しているのよ、悪役令嬢!」

「卒業してからでは遅いのです」

 レーネットが、低い声で言うが、それでもティエラは気づいていない。

「ティエラ。わたしたちは、ゲームの駒ではない」

 もはや呆れたように、ハラットが言うが、ティエラは、なおも、レーネットをきつく睨んだままだ。

「ゲームとか、何を言っているのか、わからないわ。レーネット令嬢に、何を吹き込まれたのですか、ハラット殿下!あんなに、わたしのことを想ってくれたのに・・・!!」

 ティエラはここに生徒たちがいない時点で、諦めてもよさそうなのに、まだ、奮闘している。

 レーネットは、食い下がるティエラに、眉を寄せた。

 転生者という立場であるのに、この状況に気づかない。

 攻略者たちが、レーネットの報告で、自分たちが別の世界の駒であることに、すぐ気づいたのに、ティエラは、認めない。

「ティエラを想っていた?では聞くが、おまえに愛の言葉を囁いたことはあったか?」

 ハラットは、ティエラに言った数々の台詞をそのまま使っているということをレーネットによって、知っていた。

 ティエラは、今更何を、とばかりに、顔を上げた。

「ハラット殿下は、わたしにおっしゃってくださいましたよね?わたしのおかげで兄と向き合える、わたしがいなかったら、自分を変えられなかったと・・・」

「確かにそれは言った。しかしその後、ティエラに「愛」という言葉を、囁いたことはあったか?」

「!!」

 ハラットが、言うと、はじかれたように、ティエラが顔を上げた。

 この乙女ゲーム、「あなたと恋する法則」では、愛とか好きとかを囁く台詞が、どの攻略者ルートにもない。

 ゲームを進めるたびに、ヒロインと攻略者の距離は縮まっていくが、ゲームのどの場面にも、さらには最終的な告白にも、彼らが愛の言葉を囁く台詞が入っていないのである。

 レーネットは、転生者として記憶を取り戻した時、覚えているかぎり、攻略者たちの言葉を書き映していた。

 そこで気づいたのだ。

 乙女ゲームなのに、「恋する君との法則」には、愛を囁く言葉が、誰ひとり発言していないことに。

 それは、このループリア王国に、大きく関わっていることだった。

 レーネットは、ループリア王国について学んだ時に、それに気づいた。

 そして、転生者であることを第一王子、マクレーンや、兄、レーベルに打ち明ける時に、書き映していたものを見せ、攻略者たちには、これからティエラが取る行動と、彼らが言ったと思われる言葉の数々を告げたことにより、ここが、乙女ゲームの世界であるということを、レーネットは示した。

「そ・・・それは・・・」

「ティエラ。わたしたちは、レーネット令嬢により、ここが「乙女ゲーム」とやらの舞台であることを知った」

 言葉にようやく詰まったティエラに、ハラットは、淡々と語った。

 攻略者たちである、ハラットや、他の人物は、誰もレーネットの言葉を信じようとしなかった。

 しかし、ティエラが進む筋書き通りに、レーネットが書面に記されていた通りのものが実際行われた。

 乙女ゲームの攻略者たちは、ティエラに出逢った時から会話した内容が、全部、レーネットが記したものと一致していたことをそれによって、信じた。

 レーネットが何故、動いたのかを話すと、ティエラは、呆然としたように、顔を上げた。

 何も言えなくなったティエラ。

 彼女は今、何を考え、思っているのか。

「僕らは、ティエラの夢を現実にしているだけの男ではない」

 そう静かに告げるのは、ディフラー。

 彼もまた、はじめは、ティエラに癒されたことにより、レーネットの忠告など無視していた。

 しかし、極秘に行われた、アトラスとの剣での勝負で、ディフラーもまた、ティエラに、夢を見させるだけの存在であったことに気づいた。

 他の攻略者たちも同じように、ティエラの心優しい姿は仮初めだったことに、落胆の表情は隠せなかった。

「どうして・・・どうして、全部ばらすのよ!!悪役令嬢!そんなに、己の身が大事なの?人の邪魔をして何が楽しいのよ・・・!!」

 発狂するように、叫ぶティエラに、攻略者たちは、本当に残念そうに、悲しそうに瞳を伏せ、レーネットはただ、まっすぐに、いつまでも夢から覚めないヒロインを見つめた。

「あなたが行っていることは、ループリア王国にとって、混乱を招くことだからですわ」

 レーネットだけに被害が及ぶのならば、レーネットは、原作通りに動いていただろう。

 ゲームのまま、進んでいれば、レーネットだけの被害があるとはとうてい思えない。

 家族も巻き込むとなると、それと同時に、王族にまでも危険が及ぶ。

 それを、ティエラは知らないのだ。

「何よ、ただの公爵家じゃない!」

 ティエラが貴族というものはどんなものであるか、知らないのは、勉強していないから。

 頭はゲームのことで夢中になり、現実を目の前にしていないから、攻略者たちに近づける。

 ティエラの行動によって、他の貴族たちや、庶民たちが、不信感を見せはじめたのは、ハラットにティエラが近づいてきた時からだった。

 その不信感は、ラッセー、ウィリアムのふたりが、ハラットと一緒に、ティエラが共に行動しはじめてから、大きく広がった。

「君は貴族というものを知らない。貴族は、古くから、ループリア王国にとって、重要な役目がある。ただ、金持ちの令嬢と令息だけではない」

 どう説明するか、しばらく思考していたところで、意外にも、アトラスが、射抜くような視線をティエラに向けながら言う。

 その視線は、アトラスが仕事をしている時の真剣な眼差し。

 ティエラは、今までに見たことのない、アトラスの視線に、怯えたように、思わず一歩、後に下がった。

 それほどまで、彼の視線は、人を揺るがす。

 レーネットは、そんなアトラスの、ループリア王国を護ろうとする、忠誠心が何よりも、好きだった。

「ティエラに悩みを打ち明けたのに、台本通りの言葉を言うだけで、本当の僕たちの中身を知ってもくれなかったのだね・・・」

 悲しみを見せたまま、ラッセーが呟くと、呆れきったような眼差しをティエラに向ける、ウィリアム。

「俺たちの中身にはまるで興味なし、ということだね」

「わたしは・・・」

「少しでも、現実の僕らに、興味を持ってくれたら。ティエラ、君も何かが変わったかもしれないのに・・・」

 ティエラの言葉を止めたのは、ラッセー。

 現実にはいない、ヒロインは、ただ。

 すっかり変貌している攻略者たちを呆然と見ているばかり。

 こんな結末になるとは、思ってもいなかったのだろう。

「もし、僕がティエラとこのまま恋に落ちれば。間違いなく、僕とティエラは、国外追放になっていただろう」

 ディフラーの言葉に、ティエラは、大きく瞳を見開いた。

「ど、どういう、意味・・・」

 ティエラは、ここでようやく、現実を見はじめたようだ。

 攻略者たちは、もはや、ゲームのなかの少年たちではないということに、ティエラは今、感じている。

「ループリア王国は、庶民があるからこそ、貴族、王族がある。それが、この国の在り方です、ティエラ様。その均衡が崩れると、途端に、崩壊します。今まで、この王国で、庶民が貴族や王族になった前例はありません。それは何故か。一度許すと、混乱になるからです」

 レーネットは、ようやく現実に戻ってきた、ティエラに言うと、すっかりさっきまでの強気な態度がなくなって、唇をかみ締めて、うつむいた。

 今まで、すべて、思い通りになっていた、攻略者たちが、生身の人間であることに、ようやく、ティエラは気づいた様子だった。

 本当なら、もっと早く、ティエラに現実を教えるべきだった。

 けれど、ゲームがはじまって、それに夢中になっていたティエラには、何を言っても無駄だと、レーネットは、実感していた。

 レーネットは、一度、ティエラに忠告してからも、たびたび、ゲームと同じ台詞を、ティエラに告げていた。

 この乙女ゲームの悪役令嬢は、定番のいじめなどはなく、悪役令嬢、レーネットは、いつも肝心な時に、現われ、ヒロインを呼び出し、忠告する。

 それが、ヒロインにとってのいじめだった。

 前世では、ただ、貴族に近づく庶民に嫉妬している、悪役だったが、現実にいると、当然のことを、レーネットはティエラに言っているだけだった。

 ただ、ゲームのなかの悪役令嬢は、取り巻きを連れていた。

 レーネットは、現実のこの世界では、一人で全部、ティエラにゲームのなかの台詞を言った。

 少しでも、ここがゲームと同じではないということだと、感じてもらうために。

 しかし、ティエラは最後まで気づくことはなかった。

「君は、この世界に存在している、ということを忘れていたようだな」

「・・・・ここはゲームの世界よ!ヒロインのわたしが、好きにして何が悪いっていうのよ!生で体感できる憧れの世界に、せっかく転生してきたのに、意味ないじゃないの!」

「最初から、間違えているのですよ、ティエラ様」

 ハラットの言葉に、叫んだティエラを見据えて、レーネットは、言い切った。

 ティエラが、現実の世界として、このループリア王国にいることを受け入れていたなら。

 レーネットは、兄たちに、己が転生者であることを話すことはなかっただろう。

 ティエラが、この世界を現実として、受け止めていてくれたら。

 その上で、行動してくれたなら、もっと違うやり方があった。

「何をよ・・・!!」

「あなたは、ここで、今、息をして生活して、魔法を使っています。その意味を、少しでも考えていらっしゃいますか?」

「!!」

 レーネットは、ハラットや、攻略者たちの言葉で、ようやく、現実を見てきている。

 今しか、ないと、レーネットは考えた。

 転生者であること。

 それが、この世界にどう影響を及ぼすかということ。

 この物語が、ファンタジーでも乙女ゲームでもないこと。

 この認識をしないと、全く関係のない、この世界にいる人物たちが巻き込まれてしまう。

 レーネットや、ティエラの行動で、この世界は、どんなことになってしまうのか、ループリア王国がどう、変化してしまうのか。

 少しでも、ティエラが考えていたなら。

 違う結末は、いくらでもあったのだ。

「国王からの書状も届いている。ティエラ、君を連行する」

 きっぱりと言った、ハラットの最後通告に。

 ティエラは、ようやく、置かれている立場を思い知ったかのように、諦めたかのように、大きなため息をついて、ただ。

 その後、何も言わず、おとなしく、他の騎士たちに連れていかれた。

 現実での、結末。

 乙女ゲームは、現実で成立は不可能。

 何故ならば、ここは。

 逆ハーレムを男性と築くことすらできない場所なのだから。


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