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同じ転生者でもある、この少女は、本当の現実が見えていないまま、この世界でゲームだけを楽しんだのだ。
何度か、少女が、目の前にあるものを見るチャンスだってあったのに。
ティエラの叫びに、レーネットは、ため息をついた。
「・・・ここまでだったとは・・・」
ティエラに関わってきた人たちのなかで、残念そうに呟いたのは、ループリア王国の第二王子、ハラット。
「これでおわかりになれたでしょうか、ハラット殿下」
「何を・・・この人たちに言ったの!?違うんです、ハラット様。全部この女が・・・」
「黙れ!」
レーネットが言うと、ずっと固まっていたティエラが言い訳をはじめたが、今までにない、ハラットの様子に、驚いたように、ティエラは瞳を見開いた。
第二王子、ハラットは、優しげであるが、どこかカリスマ性があり、人が集まってくる人物である。
金色の髪をゆるやかに伸ばし、水色の瞳は常に、穏やかであるが、心の内には、ゲームと同じように、第一王子、マクレーンとのコンプレックスと闘っていた。
それをヒロインにより癒やされ、マクレーンとハラットは和解する。
そこまでは、ゲームのなかにあった。
しかし、ティエラは、その先を見ていない、現実で見ようと思えば、できるのに。
マクレーンと和解したことで、ハラットが変わるのは、当然だ。
ハラットは、レーネットの助言で、ティエラのことを話すと、ループリア王国の未来を考えはじめた。
目の前にある、コンプレックスが解消されれば、王子として、どう在るべきかを、マクレーンとともに、ハラットは学んだのだ。
「驚いた?今まで、ハラット殿下は、怒鳴ったことなんてなかったからねー」
呑気に言うのは、熱血型の、ウィリアム・ローファ男爵の長男。
跳ねた赤い髪に、青色の瞳をしている彼は、一旗上げるために、学園でも色々な揉め事を起こす少年だった。
ウィリアムは、ハラットをよく思っていなかったが、彼もまた、変わった。
ティエラが、農作物に関するものだって、立派な仕事だ、というゲームの台詞を言ったからだ。
真剣に、ローファ男爵家の長男として、農作物のことを学びはじめ、揉め事を起こさなくなった。
ハラットへの態度も柔軟になり、ループリア王国のために、尽力しはじめている。
「ど、どうしちゃったのよ、ウィリアムまで・・・」
そんな変化を、目の前で見ていたはずのティエラは、態度の変化がすべて、レーネットのせいにしている。
レーネットを射抜く視線は、燃えるような・・・憎しみ。
「まだ、気づいていないのか。本当に君にとって、僕らはただのゲームの相手だったっことか・・・」
悲しそうに言うのは、ディフラー・ロペス伯爵家の長男。
濃い青の賢そうな瞳、少し癖のある、金色の髪をしている彼は、隣に婚約を解消したはずの、アラート子爵の令嬢、エラットがいた。
ディフラーは、茶色の髪をハラットよりも短く伸ばし、青色の瞳をした、精悍な顔立ちをしている。
筋肉質でもあり、その理由は、医学よりも剣を嗜み、騎士になりたいという夢を持っていたからだった。
しかし、幼馴染のエラットが、常にディフラーの側にいて、騎士になりたいのであれば、ロペス伯爵家は、エラットに任せるということで、婚約者に名乗りあげた。
肩の荷は降りたものの、エラットにすべて任せてもいいのか悩み、医学も学んでいた彼は、騎士と医者、どちらに将来進むべきかと考えていて、どこか影があった。
ティエラは、ディフラーに両方すればいいということを提案し、騎士になった後でも、医者はできると進め、ディフラーは心を動かされる。
そこで婚約者のエラットには重荷を背負わせたくないとして、婚約を解消しようとするのであるが、実際には、婚約解消はしていない。
卒業してから、という思いがディフラーにはあり、ディフラーは、ゲーム内では、エラットに婚約解消宣言をするだけだった。
今のディフラーは、剣の技を磨いたものの、結果、アトラスに勝負を挑んで負けてしまい、己の道は、医学で、剣は、国を護るために使えばよい、と考え、エラットに謝罪して許しを得ていた。
そんなことを知らないティエラは、隣にエラットがいることで、叫んだ。
「どういうこと、ディフラー、エラット様とは婚約解消するって言っていたじゃない!」
ティエラは、まだ、現実が見えてないらしい。
婚約を解消する、ということは、このループリア王国にとって、どれだけ大変なことなのか。
ゲームのなかでは、ただ、ディフラーは、きっと婚約解消をしてみせるから、と言う台詞があるだけだったのに。
「ティエラ。君のしていることは、国に大きく損害を及ぼすものだ」
「アトラス様まで・・・!!」
最後の、アトラス・ストイラ伯爵家の長男。
長身に、金の髪を短くして、水色であり、秀麗さがある。
明らかに近寄りがたい雰囲気をかもし出していて、常にハラットに影のように付き添って動いている。
そのうえ、寡黙なので、攻略がいちばん難しいとされている少年。
何かを隠していて、それを話すことはできない、とヒロイン、ティエラに言うが、彼の有能さを見抜いて、ティエラは、学園内において、彼の才能を、広めて、ハラットと隣に並んで不自然ではないように導く。
しかし、アトラスの場合、ゲームでは、最後まで、ストイラ伯爵家の裏の仕事について明らかになっていなかった。
ストイラ伯爵が王族の直属だということを、最後のイベントで知ることなる。
彼の素性は、エンディング後も知らない。
秘密を持っていても、アトラスを好きでいられるから、とティエラが最後に言うと、攻略できる。
そうなると、「あなたと恋する法則」の逆ハーエンドを迎えることができるのだ。
実際のティエラは、アトラス攻略の手前であり、そのことが、最も、ループリア王国を護るために、必要なことだった。
「ティエラ。君がやろうとしていることは、この王国に、損害を及ぼす。したがって、これ以上、君の好きにはさせられない」
ハラットが、言うと、ティエラはぐっと拳を握りしめて、再び憎悪の視線を、レーネットに向けた。
「皆、騙されているのだわ!この女が全部、しくんでいるのよ!」
「ティエラ様。この方々と共に、将来、どうするつもりでしたか?」
レーネットは冷静に、我を失っているティエラに問いかけた。