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2話目の名前の間違いを修正しました。

たくさんの評価があり驚いています。

今週は金曜日と日曜日の更新になります。

もう少しだけ、続きます。

 物語は、終盤を迎えた。

 ティエラは、着々とイベントをこなし、アトラスの攻略では、警戒していたが、同じ転生者であるはずの、レーネット公爵令嬢のいじめ攻撃があった。

 レーネット公爵令嬢がティエラと同じ転生者であることは、本人が自ら名乗った。

 そのはずなのに、レーネットは、はじめこそ傍観していたが、物語通りに動きはじめたことに、ヒロイン、ティエラこと、三浦香苗は不審に思っていた。

 香苗は、日本で高校二年の時、バスの事故で、この世界に転生した。

 昔からオタクだった香苗は、つまらない、己の人生に、乙女ゲームや漫画を読むことで、いつも現実逃避していた。

 いじめられてはいなかったが、ボッチ生活をしていた。

 見た目は普通、引っ込み思案で、誰か、話しかけてくれても、受け答えがあまりできず、友達ができなかったのだ。

 そんな香苗を慰めてくれたのが、漫画や小説であり、乙女ゲームだった。

 ヒロインに転生した時は、不安半分、喜び半分だった。

 悪役令嬢、レーネットに転生すれば、原作とは違う結果になるだろうと思ったが、香苗は憧れのヒロインとして転生することができた。

 ヒロインというものは愛されて当然、というのが基本であり、この学園に入学するまでも、両親や周りに可愛がられていた。

 それは、以前の香苗にはなかったことだった。

 悪役令嬢の方が、原作を変えるということができる楽しみもあるが、よく考えたら、貴族のしきたりとか、面倒なことを覚えなくてはならないと香苗は思った。

 ヒロインだと、何もしないで楽に、あのイケメンたちに会える。

 当時、ひそかに乙女ゲームで流行っていた「あなたと恋する法則」は、香苗が好みの男性ばかりが登場し、ゲームを全部クリアした。

 いちばん難関だったのが、アトラスのルートであったが、逆ハールートを目指せば、アトラスはあっけなく、ティエラに心を寄せてくれた。

 逆ハールートを目指して、5人の男性と、素晴らしい人生を送る、という現実に、香苗は浮かれていた。

 レーネットが転生者であり、忠告を受けた時は、原作が違うものになるのではないのか、と警戒したが、レーネットは最初はおとなしくしていたものの、やがて、ゲーム通りに、アトラス登場シーンから、数々ないじめをティエラにしてきたのだ。

 レーネットが最初に忠告したことを、頭には入れていたティエラだったが、ゲーム通りに、麗しき少年たちが次々と、ティエラに近づいてくる。

 レーネットが、原作を変更することなく、悪役令嬢を演じきっているのを実感して、ティエラはこのまま、逆ハーエンドになると確信していた。

 レーネットという悪役令嬢は最後の場面で、悪事を暴かれるところで終ってしまい、その後、どうなるかまではゲームのなかにはなかった。

 たいていの場合、卒業パーティーでのエピローグになる乙女ゲームであったが、この「あなたと恋する法則」は、一年の学園祭でのエピローグとなる。

 ティエラは、その後、5人と一緒に楽しく過ごし、卒業後は、見目麗しい5人のなかの、誰かと結婚することになるだろうと考えていた。

 逆ハーエンドを迎えた後も、彼らの求婚は続き、彼らのなかから、ティエラはひとりを選ぶことになるだろう。

 ティエラこと、香苗は、「あなたと恋する法則」のなかでは、寡黙でありながら、ループリア王国ではいちばん優秀である、アトラスが第一候補の結婚相手だった。

 その次に好みなのは、第二王子である、ハラットであったが、王族になって堅苦しい思いをするのは面倒である。

 貴族になるからには、豪華に暮らしていきたい。

 他の攻略者も貴族であるが、いちばん身分がよいのは、ストイラ伯爵家だった。

 ティエラは、学園祭の盛り上がりイベントで、誰もが豪華なドレスを着ることができる、最終際という名の、舞踏会を楽しみにしていた。

 この学園は制服であるのが、ティエラにとっては残念なことだったが、大きなイベントの最後には必ず行われるという、舞踏会に夢を見ていた。

 学園側が用意してくれるというドレスのカタログを見て、実際に、届いた豪華な衣装を身に纏ったティエラは、完全なる令嬢になって、浮かれた。

 同じ転生者でも、常にドレスを着こなすレーネットを妬んだが、どのルートを選んでも最終的には、レーネットと同じ、社交デビューだってできる。

 ティエラは、可憐なる容姿に見合った、桃色で、ふんだんにレースをあしらったドレスを身に纏い、鏡の前で、微笑んだ。

 後は、ゲームのラストを飾るだけ。

 ティエラはそう信じて疑うことなく、会場へと歩いた。

 しかし扉を開けると、そこには、いるはずの生徒のひとりもいなかった。

 ティエラは、生徒がいつも集まる場所の大広間に、誰もいなかったことに、脳裏が一瞬、ついていけなかった。

 輝くシャンデリア、舞踏会の用意が整っている、ゲームで見た場面。

 最後のシーンは、少年たちの告白と、悪役令嬢の、断罪。

 それは、たくさんの生徒たちが集まる場所で、今、この時に行われるはずだった。

「ごきげんよう、ティエラ様」

 呆然としている前に、現われたのは、美しく着飾った、同じ転生者である、レーネット公爵令嬢。

 派手な顔立ちに、きつい眼差し、金色の髪を結い上げ、青色の瞳で、ゆっくりとティエラを見据えるその視線は、まるで己を哀れんでいるようだった。

 レーネットが纏っている衣装は、悪役令嬢そのもの。

 赤と紫のドレスは、見事なまでに、きつい顔立ちを際立たせている。

 ティエラは、あまりにも上手くいきすぎていたこの世界でのゲームが、ここで変わるのか、とぐっと唇を噛んだ。

「あんた、何かしくんだわね」

 いつもは無邪気で、天然を演じているティエラの仮面が崩れた。

 あんなに上手くいっていた、現実にあったゲームは、この女に仕組まれていたのだと、今になって、ティエラは感じた。

「そちらが素顔でしたのね、ティエラ様。ええ、仕組ませていただきましたわ」

「せっかくの現実でのゲームを変えるなんて、ありえない!」

 ティエラは、激怒して、叫んだ。

 考えるべきだったのだ。

 あの忠告で、この悪役が何もしないなんて、あるはずがない。

 ただ、現実でのゲームを、ただ、満喫したいだけなのに。

 悪役令嬢は、保身のために、巻き込んだ。

「現実・・・あなたは、本当にそう思っているのかしら?ティエラ様・・・いいえ、ティエラ様のなかの、誰かさん?」

 攻略者たちがいる前で、レーネットは、静かに、その言葉を発して、レーネットは、己が転生者であることを、この世界の人たちに知らせたのだと、ティエラは、ようやく、理解した。

「現実がわかるかって?あたりまえじゃない。目の前に、憧れていた世界があるのよ。それを満喫して何が悪いっていうのよ!」

 理解したものの、ティエラは、邪魔をしたレーネットが許せなかった。

 甘く囁くボイス、美しい少年達。

 目の前に広がる、ヨーロッパ風の、独特な雰囲気。

 あちらではありえなかった魔法。

 すべてが現実で、目の前にあるのに。

「憧れていた世界がある・・・その言葉だけで、あなたが本当の現実を知らないということが充分理解できましたわ」

「ふざけないでよ・・・!!」

 ティエラが叫ぶと同時に、誰かがやってきた。

 その人たちは・・・全員。

 ティエラが攻略してきた美少年たちと、ゲームに関わりがある人物たちだった。


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