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初投稿です。

あまり長くはないです。

 何やら流行っている様子の、乙女ゲーム、「あなたと恋する法則」という世界に、転生、というものをしたのに気づいたのは、つい先ほどだった。

 ループリア王国の、魔法学園は、魔力がある人物だったらどんな生徒でも入学できる、という設定である。

 ファンタジー魔法学園、乙女ゲーム、というのが流行っていて、庶民である、主人公が学園に入学してから、物語がはじまるのも定番だ。

 そして、何故か流行りの悪役が、乙女ゲームの主人公と攻略者を最後のシーンで断罪されそうになるが、大逆転する、というものがネット小説などで流行していた。

 佐竹夏美は不慮な事故にて、流行通りに、悪役令嬢、公爵家、レーネット・ガシュールという人物に転生したことを、この物語のヒロイン、庶民で聖なる魔力を持つ、可憐な少女、ティエラを視界に入れた時に、意識を失い、知った。

 夏美は、乙女ゲームをプレイしたこともなければ、ネット小説もあまり読むことはなかった。

 当時、高校二年生で、仲の良い女子たちの話題についていくために、「あなたと恋する法則」という大流行の乙女ゲームをして、ひとりの友人に、面白いネット小説がある、という理由で、悪役令嬢ものを読んでいた。

 どの悪役令嬢も、死亡フラグを回避するために、奔放したり、乙女ゲームの悪役令嬢というものをやらなかったりと、いろいろなネタがあって、夏美は転生する前は、乙女ゲームよりもネット小説をよく読んでいた。

 いつもの学校帰りに、スマホで今度はどれにしようと悩みながら、歩いていた時、スピード違反の車によって、レーネットに転生したのだった。

 それはいいけれど、問題なのは、ここがネットの世界でもなくゲームの世界でもなく現実であるということだ。

 現実のこの世界は、悪役令嬢が、別なことをすることにより、己のフラグを変更するだけでよい、という甘い世界だけではないのだ。

 ネット小説のなかでは、幼子から悪役令嬢の記憶を持ったりするが、夏美の場合は、物語のヒロイン、ティエラは入学してしまっている。

 悪役令嬢に必ずあるという、婚約者がいるということもない。

 誰かの婚約者になるということは、このループリア王国では絶対的なものであり、契約書には、その掟に背いた場合、国外追放、および、爵位の剥奪は逃れられない。

 愛を確たるものにした者たちや、貴族の厳重なる約束のもと、婚約した者たちは存在しているが、レーネットは、いろいろな事情から、誰かと確たる約束を結ぶ、ということはこの学園を卒業するまでに決めることになっていた。

 ガシュール公爵家は、王族に深く関わりがあり、故に、王族たちとの接点も多かった。

 公爵家には兄、レーベル、妹、ラーネラが存在しており、兄は学園を卒業し、第一王子、マクレーンの側近になっている。

 レーネットは兄と同じように、王族に関わる者としてさまざまな教育をされており、現在、10歳になるラーネラも領地にて、教育中である。

 レーネットは、幼い頃から、アトラス・ストイラ伯爵家の長男に、想いを寄せていた。

 ストイラ伯爵は、ガシュール公爵家が表とすれば、影であり、参謀でもあった。

 ストイラ伯爵家の長男、アトラスは、父親譲りの頭脳を持ち、いくつかの王家に危険をもたらす存在を、ガシュール公爵家とともに、排除していた。

 その素晴らしい手腕と、王国においての忠誠に、レーネットは憧れ、やがて彼の隣に立てるような存在になりたいと、努力を惜しまなくなった。

 学園に入学し、あまり普段話すことのない彼とようやく、話せるようになる、と浮かれていた矢先に、乙女ゲームの主人公、ティエラの登場で、彼もまた、攻略対象であるということを知った。

 乙女ゲーム、「あなたと恋する法則」の攻略対象は、5名。

 第二王子、ハラットは、夏美の前世でいうカリスマ性を持つ人物であり、女性的な容姿を持ち、生徒たちを正しく導く少年である。

 しかし、第一王子、マクレーンの才能あふれる能力によりコンプレックスを影で持っている、という設定である。

 二人目は、ひそかに、レーネットが想いを寄せている、アトラスである。

 寡黙で、第二王子の側に常にありながらも、影で王族に害なす者をガシュール公爵家と協力しながら、動きまわり、凄腕の剣術を持つ。

 影で目立つことのない才能が、ヒロインにより、学園に広まることになる。

 三人目は、ラッセー・ビローグ伯爵家の次男。

 彼は、隣国に近い領土を持つために、さまざまなものを学ぶがこれといって、秀でる能力がないため、長男の足をひっぱっているのではないか、と悩む少年だ。

 四人目は、ウィリアム・ローファ男爵家の長男。

 ローファ男爵は、農作物に関しての知識が豊富であり、ループリア王国にとってはなくてはならない貴族であるが、地味な功績のために、一旗挙げたい、と思っている熱血型の少年。

 五人目は、ディフラー・ロペス伯爵家の長男。

 医学を専門とするロペス伯爵家は、その技術を学ぶため、ロペス伯爵家は代々、各国に留学し、専門知識を身につけ、ループリア王国の医学を高めている。

 その医学に興味はあるものの、剣術が好きなディフラーは、次男に爵位を本当は譲りたいが、それができなくてまたジレンマを抱えている。

 何かを抱え、少年たちの傷を癒やしながら、乙女ゲームの主人公は、少年たちと恋をしていくのが、「あなたと恋する法則」のありがちな設定である。

 この設定に、レーネットは戦慄を覚えたのだ。

 五人の誰もが将来を担う重要な役割を持ち、もし、ヒロインが逆ハーというルートを辿れば、この王国はとんでもないことになる。

 ティエラが、誰かのルートを選んでも、庶民であるため、ループリア王国は、混乱を極めるだろうと、推測できた。

 庶民と貴族が恋に落ちる、というのは稀にあることであるが、その誰もが幸せになれるというエンドはない。

 結局は、恋に落ちた過去のふたりは、手に手を取り合って、別国に、流れる、というのが、ループリア王国の常識である。

 恋愛結婚は、貴族同士でならなんとかなるものの、庶民と貴族では大きく違う。

 乙女ゲームのなかでは、庶民と貴族の身分を越えて、誰かと結ばれるが、現実は、そうなることはまずない。

 だからこそ、どのルートに、ティエラが進んでも、ループリア王国は混沌してしまう。

 入学してから、数ヶ月経ち、しばらく様子を見ていたレーネットは、ヒロインが、悪役令嬢役である夏美と同じように、ヒロインの転生者であることを確認した。

 何故確信できたのかというと、数々のイベントで、故意に、ティエラが、五人の攻略者と親しくなっていったからである。

 ティエラは、庶民設定なので、ループリア王国と貴族としての恋愛の難しさを知らないのだろう。

 そう考えたレーネットは、まず、本人に確認することにし、裏庭に呼び出した。

 これが、悪役令嬢の初登場だとわかっていても。

「あなた、転生者ではありませんこと?」

 現われたティエラに、率直に問い正すレーネットに、ヒロインは、わかりやすく表情を変えた。

 それは、同意と同じだった。

「何を言っているのかわかりません」

 しかし、ティエラは、レーネットと同じ転生者だとは感じても、同意をしないつもりらしい。

 レーネットは、彼女の決断に、非常に残念に思った。

「あなたは、どちらのルートを目指すおつもり?いいえ、はっきり申し上げますわ。どのルートを目指しても、現実でのハッピーエンドはありえません」

 食い下がるレーネットに、ティエラの顔が歪んだ。

 そこには、可憐に、少年たちに触れ合おうとしている少女ではなく、ひとりの少女の欲望がただあった。

「何をおっしゃっているのですか、レーネット公爵令嬢。あなたの言葉には傷つきました」

 一瞬の顔の歪みから、ティエラは、ひどくか弱い少女を、レーネットに演じてみせた。

 レーネットはこの時点で、同じ転生者であるはずの少女に、現実を解き伏せても無駄だと理解した。

 ティエラは、完全に、乙女ゲームのヒロインとして、美貌ばかりが集う少年たちに酔っていた。

 転生前のティエラがどんな女性だったかわからないが、同じ転生者である、レーネットとティエラには大きな違いがあった。

 乙女ゲームのなかでしか映らない現実、ここは乙女ゲームだけの世界ではないという、レーネットが感じる、現実。

 ティエラは、夢心地で、乙女ゲームだけを満喫するつもりなのだろう。

 その先に、何が待っているのか、どれだけループリア王国がティエラの動きにより、破滅に繋がるのかを、考えることもなく、ただ、目の前の夢に酔いしれるつもりであることを、レーネットは、確認した。

「そう・・・。これだけは申し上げておきます。ここは画面の前でプレイするゲームではありません。ループリア王国の現実は厳しい。それでも夢に酔いしれるのならば・・・覚悟はしてくださいませ」

「あなたのいじめになんか、負けません!」

 ティエラは、すっかり同じ転生者でも、悪役令嬢として別なことをレーネットはしてくると思っているらしい。

 睨むように、言い放ち、去って行く可哀相な少女を見送り、レーネットは、仕方なく、次の行動に出ることにした。

 すべては、ループリア王国の混乱を防ぐために。


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