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ゆらぎ

作者: 外海 茂寿
掲載日:2016/01/10

 年の離れた兄から宅急便が来た。

 普通の茶色いダンボール箱で来た。

 宅急便のお兄さんは普通にインターホンを押して来た。

 ただし玄関に向かい、靴を履き、ドアを開けた瞬間、冬の冷たい隙間風とともに、彼の微妙な苦笑いが見えた。

 普通じゃなかったのは、宅急便の受付票だ。「中身:揺らぎ」。

 ついでにダンボール箱とは別に手紙もついてきた。

 「お疲れ様でーす。」ととりあえずな返信をし、ドアを締め、ダンボールを玄関に置く。

 ブロロと宅急便のトラックの低重音が響くのを背中に感じつつ、靴をはいたまま便せんをビリッと開ける。

 兄は詭弁を弄するのが好きだ。

 例えば子供の頃のこと。鳥は飛んでいる、鳥が飛ぶのは飛びたいと思うからだ、だから飛びたいと思うものは飛べる。さぁ。お前も飛びたいと思え。といって、二階のベランダの外、青空を指さした。

 もちろん飛ばなかったし兄もおふざけ半分だったが、そんなかんじの詭弁ふざけをすることが、よくある。だから彼の癖に慣れていれば、「中身:ゆらぎ」、それを見た瞬間に、ああ詭弁遊びだとピーンと来る。

 さて、兄のイミフな手紙の文章を以下に全文を晒す。

 「この箱の中身は揺らいでいる。シュレーディンガーの猫は知っているかい。二分の一の確率で死ぬ装置がついた箱に閉じ込められた猫は、死んでいるのか生きているのか、観測者によって観測されるまで確定されない、っていうパラドックスだか何かだ。最近本で読んで知った。この時、猫は「ゆらぎ」の状態にあるらしい。それと同じ理屈で、この箱の中身は揺らいでいる。観測者たるお前が開けてみるまで箱の中身は分からない。浦島太郎の箱かもしれない。サンタの箱かもしれない。」

 と、意味深なことを書いてある。

 中身は普通にカニ缶だった。

 そういやお中元の時期か。

 兄は詭弁を弄するのが好きだ。詭弁を詭弁と分かるように話す。詭弁と普通を分け、詭弁をピエロのように使う。常識人だから、ふざけるのだ。

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