Ⅱ▲① 強制発動前
「……つまらない」
生まれた時から何も感じたことがない。
組織の偉い人間から全てを管理されて育ち、それが壊滅したら一般人になった。
「はよ~」
「ショウコはいつも明るいね」
すぐに笑ったり怒ったり泣いたり、感情がくるくる一変する。
私とは正反対で、まったく違う人間だ。
「こんくらい普通だって~」
「お前の普通は普通じゃないだろ」
ショウコの幼馴染の小鳥遊が淡々と言う。物静かだが、ちゃんと感情はあるようで何も反応しないような私ほどの酷さじゃない。
「こんな時期に転校生だってさ」
なら逆にどんな時期なら転校生が来る?
「永久ノ木エイミです」
美少女で背が高く、髪は薄茶色のストレート。どこかの組織にいてもおかしくないハニトラ要員だわ。
「席は小鳥遊の隣があいてんな」
「よろしくね」
「え、ああ?」
「……!」
私の右斜め前のショウコは、左下の小鳥遊に眉を潜めている。
そして、私は永久ノ木と目があった。
「ふふっ」
私に笑いかけているのだろうか?
「今の俺にかな……」
「いや、俺だね」
美少女に微笑まれて、私の近くの男子たちはにやけている。
「ね、二人とも一緒にかえらない?」
「え、なんで?」
「まだ友達できてないから、それに最近物騒じゃない?」
たしかに事件が頻繁に起きている。
「あ、鉄くんだ!!」
ショウコが男子アイドルのポスターに嬉々している。
そしてその近くにはうろちょろする少年がいた。
「げっ」
彼はこちらを見ると、嫌そうな声を出す。
「なによ自称人気アイドル」
永久ノ木は少年を頭のてっぺんから鷲掴む。
「鉄ちゃんこと、豪導テツオです」
「え、マジで!?」
アイドルが昼間の街中にいたら大変なことになるので、人気のない公園があって助かった。
「てか永久ノ木さん知り合い?」
ショウコがぐいぐい行く。
「腐れ縁よ」
「そうそう」
どうやら犬猿の仲らしい。
「へーそっか……よかった」
そう言って笑うショウコは、何にたいして安堵したのだろう。