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【8】 ギルド

 ――冒険者ギルド。

 

 冒険者ギルドとは、その名の通り”冒険者”と呼ばれる職業に就くの者達の互助組織だ。ギルドは各町村に支部が置かれており、そこに所属する冒険者は人々や町、果ては貴族や王宮から依頼を受け、その報酬に金銭を得る。依頼内容は「モンスターの討伐」、「尋ね人の捜索」、「未知の遺跡やダンジョンの調査」と多岐にわたるが、そのどれもに共通して何らかの危険が付きまとっている。だからこそ冒険者と呼ばれる専門技術を持った人物たちは人々から英雄視されているのだ。




 「……そう聞いていたのだけどねぇ」

 

 セリアは周囲を見回して嘆息した。

 その呟きには明らかな落胆の色が含まれている。


 現在セリアの立っている場所は、数十名の人間が集まってもまだ余裕のありそうな広さの室内、その入口だ。フロアには机が数台並べられてあり、その奥には横長のカウンターが設置されている。武装した男女数名が幾つかのグループに別れ、何やら議論や雑談を交わしていた。カウンターには統一された制服を着た女性数名がにこやかな笑顔を浮べて立っている。


 ディナトールの街に着き、観光したいという気持ちを無理やり押し込めて、ここ「冒険者ギルドディナトール支部」まで来たのだ。

 全てはギルドに所属するというクロードを探すため。

 観光できないのは残念だったが、冒険者ギルドというロマン溢れる単語に心がときめいていたのも事実だ。


 「……小汚い」


 ギルド入り口で佇むセリアは誰にも聞こえないようにそう呟くと、冒険者達を品定めするように視線を投げた。


 そこに居るのは英雄というよりも山賊や海賊という言葉が似合いそうな男たちだ。

 一言でいうのであれば"マッチョ"。

 モンスターとの戦闘などをこなすのだ。筋骨隆々になるのは仕方無いことだが、セリアのゲーム慣れした感覚はどうしてもそれが受け入れられない。

 確かに身軽な女性戦士や魔法使いと思われるローブを着た細身の人物が居ることは居る。しかしそれはごく一部で、戦争映画に出てきそうなマッチョがほとんどだ。心なしか汗くさい気すらしてくる。


 (セフィロトオンラインのギルドはもっと何と言うかもっと……スマートだったのにっ)


 “クロードを探す”とフローラに明言した以上、今更それを翻すわけにも行かない。背後で佇むフローラに視線を向けると再びセリアは嘆息する。


 「私はセリア様のように残念なお顔ではありません。人の顔を見て露骨な溜息は止めて下さいませ」

 「……訴えるわよ」


 フローラと言う名の圧力を感じながら、セリアは後退りしそうになる脚を無理やり止めるとカウンターに向かって歩き出す。


 (なんか汗くさい臭いが服につきそうだけど気にしちゃだめだよね、うん)


 嗅いだ事無いと思うんだけど、きっと運動部の部室の臭いもこんな感じなんだろうなぁ。

 こんな事ならアルミロに宿を取らせるのを後回しにすれば良かった……。


 セリアは僅かに嫌悪感で歪んだ表情を浮かべながら、胸中で何やら酷いことを考える。


 (と、とりあえずクロードの居場所を聞いてさっさと出ちゃおう)


 無論モンスターの中には嗅覚の強いモンスターも存在している。

 その為、冒険者と言う職業は他職業と比べても臭いに気を使う職業なのだ。実際にそれほどの臭気ではないはずなのだが、男達の見た目と人間以上に発達した嗅覚で誤魔化されていた。


 セリアは極力周囲を見ないようにカウンターまでたどり着くと、こちらに向けて笑顔を浮かべている受付嬢に声をかけた。


 「貴女、クロード=ディアリーの居場所を知っているかしら?」











 「――何者だ、あの少女たちは?」


 その日、冒険者ギルドディナトール支部は突如現れた2人の女性の登場で騒然となっていた。

 いや、騒然としたと言う表現は正しくない。周囲の冒険者達は談笑や会議を続けながらも少女たちの一挙一動を一瞬たりとも見逃すまいと、さりげなく意識を向けていたからだ。


 普段ギルドに通っている人間であれば誰でも気付くであろう、意図的に作られた朗らかな空気。その原因となっているのは、ギルドのカウンターに立っている銀髪のドレスを着た少女と、その従者と思われる女性だった。

 銀髪の少女。その初雪のように白く傷一つ無い肌。従者一人だけを共につけ、武器や防具を身につけていない格好。そして余りにも異様――人間離れした美しさを持つ二人。

 明らかにこの冒険者ギルドに居るべき人物では無い。


 「従者連れにあの服装、貴族か?」


 冒険者の一人が仲間の冒険者に小声で尋ねる。


 「……いや、ありえないだろ」


 男の疑問に同じ仲間の一人が返答した。

 

 確かに冒険者ギルドに依頼を出す貴族は少なくない。しかしそれはギルドへ手紙を出すか、従者に依頼内容告げさせるかという方法が一般的であり、貴族自らが依頼に来るという手段は滅多に取られない。

 しかしそうだとしても、大商人や貴族でなければ従者を連れ立つことは無い。その矛盾が冒険者達を困惑させていた。


 「じゃ、何者なんだよ?」

 「そんなこと俺が知るか。……まぁカウンターに居る以上、依頼人だとは思うが」

 「もしかして王族か?」

 「それこそあり得ないだろ」

 「いや、あの服装見てみろよ。あんな豪華なドレスは一介の辺境貴族にゃ買えないぜ」

 「今のうちに媚売っておけば顧客になってくれるかもな」

 「銀髪の子可愛いすぎ」

 「いや、俺はメイドさん派だな」


 周囲でひそひそとそんな会話が飛び交う。




 「貴女、クロード=ディアリーの居場所を知っているかしら?」




 そんな中、少女が受付嬢に放った一言によりギルド内は静まり返った。

 

 冒険者達は誰も言葉を発することができずに、ぽかんと口を開け少女を見つめている。それは接客慣れした受付嬢も例外では無い。先ほどまで少女の存在に動揺一つ見せることなく笑顔で対応していた受付嬢だが、今ではその笑顔が引き攣っている。


 クロード=ディアリーといえば超一流の冒険者で、王族や国家からの依頼を受けることもある、文字通り此処に居る冒険者とは桁違いの冒険者だ。

 確かに彼はこのギルドに在籍しては居るものの、姿を見せることは殆ど無く、ましてや貴族ですら気軽に依頼できる存在ではない。まさに英雄の中の英雄、冒険者からすれば神話の中の人物と肩を並べてもおかしくない存在だ。


 「……で、ディアリー様ですか?」


 静まり返ったギルド内で一番初めに口を開いたのは受付嬢だ。

 平静を装おうとはしているが、その表情は未だに引き攣ったままだ。


 「多分そのディアリーよ。何処に居るかはギルドが把握していると聞いたのだけど?」

 「も、申し訳ありませんが、一般のお客様に冒険者個人の居場所をお教えすることは出来ないと規則で定められていますので」

 「……あら、そう。それは残念ね」


 冒険者の最高ランクである"白光"の称号を持つクロード。

 そんな人物を探している正体不明の少女は一体何者なのか。

 先ほどまで冒険者達を包んでいた”驚愕”。その中に”未知への恐怖”と”好奇心”という二つの色が混じる。


 「それじゃ、誰なら教えてくれるの?王様の命令でもあれば聞けるのかしら?」


 まるで王様に命令をさせることが出来るかのような少女の言葉。余りにも浮世場慣れした少女の冗談に周囲の冒険者達は少しずつ落ち着きを取り戻していく。


 「もしやディアリーさんの親戚か何かか?」

 「……なるほど」

 「いや、愛人かもしれんぞ」

 「あぁ、ディアリーさんクラスなら従者を愛人につけるかもしれないな」


 静寂から先ほどのざわつきに徐々に戻っていく。

 動揺から立ち直れないのは少女を目の前に対応する受付嬢だ。遠巻きから眺める第三者と少女と直接会話している受付嬢では未知へのプレッシャーが異なる。むしろ動揺しながらもここまで会話できるのはそれだけ受付嬢の技量が高いことを示していた。


 「お、同じ冒険者様であればお教えすることも出来ますが……」

 「あら、私が冒険者であれば教えてくれるの?」


 銀髪の少女がクスリと微笑を浮かべ受付嬢へと尋ねた。

 同時に何かを察したのか背後のメイドが今までに一切動かすことの無かった表情を変え、口元を僅かに歪める。


 「はい。冒険者の方々には依頼をスムーズにこなす為に、当ギルドではそうした支援もさせて頂いています」


 受付嬢が申し訳なさそうに答える。

 「冒険者への依頼を誰にこなして貰うのか」、「誰なら成功できるのか」、そうした判断を下すのはギルドの仕事であり、一部の王族などを除き冒険者の居場所を教えてはならないというのは昔からの規則だ。

 心苦しくはあっても冒険者の依頼を直接行う者が出ないように、定められた規則を破るわけにはいかない。


 「……なるほど。冒険者であれば、ね。」

 「――セリア様、まさかとは思いますが」


 少女の背後で無言を貫いていたメイドが恐る恐ると言った様子で銀髪の少女の表情を伺う。

 そんなメイドを無視して、銀髪の少女は受付嬢に再び微笑を浮かべた。




 「なら簡単ね。私も冒険者になるわ」






大変お待たせいたしました。

何とか落ち着いてきて投稿できた第八話です。


……あれ、ギルドのシーンは半分くらいで終わるはずだったんだけどなぁ。

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