後編
「ほらほら起きなさい三笠」
「ん……後五分……」
「いいから起きなさいッ!!」
「ひでぶッ!?」
早朝から命に叩き起こされた。てか蹴らないでくれ……。
「今、何時だ……」
俺は電池が残り少ないスマホで時間を見ると、時刻は朝の五時半だった。
「二度寝させろよ……」
「駄目よ。今から朝御飯まで掃除をするんだから。はい、箒ね」
命はそう言って俺に箒を渡してきた。まぁ、厄介になっている身だから仕方ないよな。
「何処を掃除したらいいんだ?」
「神社の周りよ。最近落ち葉が激しく落ちているからね」
「はいよ」
俺は命が縫い直したスーツを着て外に出た。外は冬が近づいているのか、少し肌寒いな。
「取り合えず此処からするか」
俺は落ち葉を箒で掃いて一ヶ所に集める。が、時折風が吹くため落ち葉が飛んでいき、また集めないといけない。
「……意外と難しいな落ち葉の掃除は……」
俺は思わずそう呟く。それでも何とか大体は落ち葉を集めた。
「集めた落ち葉は焼くのか?」
「えぇそうよ。今から火を持っていくから」
台所にいた命が火が付いた薪を持ってきて落ち葉に火を付ける。最初は燻っていたが、命が追加の火を持ってくると火は一気に燃えだして焚き火となった。
「ちょっと暖かくなるな……」
「もうすぐ朝御飯が出来るわよ」
もうそんな時間か……ん?
「地震か?」
ズシンズシンと音が鳴っているけど……。
「……違うわ。地響きよ」
「地響き? 何で地響きが……」
「あいつが来たのよ」
「あいつ?」
「よう命。久しぶりだな」
そこへ境内に現れたのは多数の鬼を引き連れた女性がいた。
「また負けに来たのかしら鬼姫?」
「前の傷は癒えたよ。残念だけど今日は戦いに来たわけじゃない。ほらよ」
女性はそう言って命に液体が入った一升瓶を渡した。
「昨日、タゴジを殺したろ? そのお礼だ」
「お礼?」
「あぁ、タゴジを含む十数人の鬼が私から離反して姿をくらましたんだ。あの野郎ども、都にいる人間を食い尽くすとか抜かしよる」
「しっかりと手綱を握りなさいよ」
「それもそうだねぇ……その人間は?」
「外の人間よ。昨日、迷いこんでいたのを私が保護したのよ」
「成る程ね。どうだいあんさん、私らの胃袋にならないかい?」
「……遠慮しとくよ。ところで鬼姫とやら、胸デカイな」
俺は鬼姫とやらを見てそう呟く。何せ胸がデカイ。着ている着物からはみ出そうなくらいだからな。
「テメェッ!! ヒメニナンテクチノキキカタヲ……」
「アッハハハハハ。怒るなゴンジ、お前さん中々の肝を持っているねぇ」
「昨日、鬼に襲われて食われかけたし、俺はもう死人同然だよ」
「成る程ねぇ。お前さん、名は?」
「神崎。神崎三笠だ」
「神崎三笠、覚えておくよ。私は鬼姫だ。楽しくなりそうだね。また来るよ命」
鬼姫はそう言って鬼達を引き連れて去っていった。
「……何なんだあれは?」
「妖の都に古くから鬼達よ。鬼姫はその鬼の頭領なの」
「ふ〜ん」
「あんたもよく喧嘩なんか売ったわね」
「デカイは正義だぞ命」
「喧嘩売ってるのかしら? 頭吹き飛ばすわよ?」
「ごめんなさい」
武器を構えた命に俺はジャンピング土下座を敢行した。その後、朝御飯を食べて焼き尽くした落ち葉は灰となりその灰をやってきた町民に分け与えた。
「灰は畑や田の肥料になるのよ」
「成る程。それで焚き火をね」
晩御飯を食べながら命とそう話していた。
「そういやあの鬼姫ってそんな古くからいるのか?」
「えぇ。私も詳しくは聞いてないけど、平安京が出来た時からいるみたいよ」
「平安京は七九四年だから……千二百年くらい前からいるのかよ……」
鬼恐るべしだな……。
「それじゃあ妖怪退治に行ってくるわ」
「あぁ、気を付けてな命」
命は銃を背負って行った。俺は今日も境内で掃除をしている……のだが。
「……何か嫌な予感がするよなぁ……」
命が行った後、ずっとそう思っていた。
「……俺も行ってみるか」
俺は先日に町民から護身用としてくれた日本刀を持って命が向かった迷いの森へ行った。
「この糞鬼ども……か弱い巫女を虐めてそんなに楽しいのかしら?」
「ダマレッ!! ヤラレテイッタナカマタチノカタキダッ!!」
私の周りには十数匹の鬼が囲んでいる。全く、とんだドジを踏んだわね。身体も右手は折れているし銃も撃てない……。
万事休すとはこの事ね。
「ニンゲンハスベテクッテヤルッ!!」
「……ッ!?」
鬼が振りかざしたこん棒を見て、私は咄嗟に目を閉じた。
三笠は……生きていけるかしら……。
「何してんだテメェらァッ!!」
「ッ!? み、三笠ッ!! 何で……」
「心配になって見に来たんだよ」
そう言った三笠は溜め息を吐いた。
「テメェカァッ!! タゴジヲヤッタニンゲンハッ!!」
「この野郎ッ!!」
俺はこん棒を持った鬼に斬りかかったが、こん棒に弾かれて刃が折れた。
「げ」
「クチホドニモナイワァッ!!」
「グアァッ!?」
他の鬼に殴られて命がいるところまで吹き飛ばされた。てかいてぇよッ!!
「三笠ッ!?」
「心配するな命。俺はまだ生きている」
心配そうな表情をしている命に俺はそう励ました。……ん?
「こいつは……」
左手が命の銃を掴んでいた。これなら……。
「命、鬼退治はまだ終わってないぞ」
「え……?」
キョトンとする命を他所に俺は銃を掴む。すると脱力感があった。多分、銃が俺の身体の中にある霊力を吸収しているのだと思う。
「三笠……撃てるの?」
「分からん」
俺は命にキッパリとそう言って鬼に照準して引き金を引いた。
銃口からレーザーのような光線が出て、鬼二匹の身体を貫いた。
「……嘘……」
「ナ、ナン……ダト……」
後ろにいる命は多分驚いている。俺は後ろを見てないしな。
「コ、コノヤロウッ!!」
他の鬼が襲ってきたが、そいつもレーザーで身体を貫かせた。
「ダ、ダメダ。ヒキアゲルゾッ!!」
生き残りの鬼達は屍の鬼を置いて森の中へと逃げた……ふぅ〜。
「……どうしたのよ?」
「……今頃になって腰が抜けた……」
「……ぷ、アハハハ」
俺の言葉に命は笑った。
「よう二人とも。無事かい?」
「姫」
草むらから現れたのは鬼を引き連れた鬼姫だった。
「あいつらの首は私がはねといたよ。済まなかったね」
鬼姫はそう言って俺らに頭を下げた。
「気にする事無いわ鬼姫。それに……」
命はそう言って俺に視線を向けた。
「ねぇ三笠……その霊力、妖怪退治に使ってみない?」
「ん? そうだなぁ……」
会社で怒られるよりマシかもな。
「使ってみるよ」
俺の言葉に命は微笑むのであった。
「ハッハッハ、こりゃめでたいね。取り合えず二人とも傷の手当てをしないとね」
鬼姫の言葉に俺達は傷だらけの身体を見て苦笑した。それから、妖都の神社に新たに神主が増えるのであった。
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