呪い屋⑥
「随分お優しいこったね。わざわざ話を長引かせて、逢魔ヶ時にあたらないようにしてやって。それだけじゃなく守の呪いまで。」
金色の目を細めて、それは言う。
そこに含まれる感情は蔑みと嘲笑
「やだなぁ。そんなふうに言わないでよ。私だって、親友を心配する少年の手助けくらいするさ。それに感じただろう?あの子は逢魔ヶ時と相性が良いみたいだね。名前のせいかな?あのまま放って置いたらあてられてしまっていたかもしれない。何にしても縁は大事にするべきだよ。人生において小さな変化にどう対処するかで、大きな確変をもたらすこともできる」
人は見たいものだけを見て、感じたいものだけを感じる。見ないふりがとても上手な生き物だから。
何かに執着するのはとても難しい。それが長ければなおのこと
「変化を望んでいると?あんたが?」
鼻で笑いながら、しかしやはり目は一切笑っていない。
見た目は可愛くても台無しすぎる
「まったく。どうして君はそう...。ヒナタを少しは見習ったらどうだい?君は愛想や愛嬌が無さすぎるよ。子供達が触ろうとすれば威嚇をするし」
「あんな腐れ馬鹿を、このあちしに見習えと!?ふん、犬畜生は犬畜生らしく尻尾を振って精々媚びてりゃいい。あちしは餓鬼共に媚びへつらうなんてまっぴらごめんだぁね。」
抗議するように尻尾でたしたしと畳を叩くヒカゲ
毛を逆立てるのはいいが、爪で台をガリガリするのはやめてくれないかな。
「そんなに不変が嫌なら、さっさと此方側に来てしまえばいいことさね。あちしは歓迎するよ。心からね」
にぃんまり、という表現そのままに口を三日月のようにして笑い誘うかのように囁く様はやはり色々台無しだ
「本当に意地が悪い。それを私が出来ないことを知っているくせに」
「ふん。それはあんたが決めること。出来ないのではなくて、しないのだろうさ。まことニンゲンというのは面倒な生き物さね。柵、理性、役割。感情に縛られすぎて動けないなんて理解できない。したくもないね。」
...本当に可愛いげのない、辛辣な奴だ。何気なく人の心を抉ってくれる
「ヒカゲだって役割は果たさなくてはいけないだろう?今だってそうじゃないか」
「あちしはあちしの為に役目を果たしているだけ。ある程度勝手が出来るから役目を貰ったまで。あんた達ニンゲンは、他人からの評価やら何やらのために大きな役割を背負って小さな物を得る。割りに合わない。馬鹿馬鹿しくて話にならない」
「...そうかな?ヒカゲには小さくとも案外当人にすれば大きいものかもしれないよ?そんな気がするんだ。」
別段おかしなことがある訳じゃないのに小さく笑いが漏れる
そうすればやはり愛想がない猫は、呆れたようなどこかつまらなさそうな顔に戻った
「あーんな餓鬼にそんな価値があるとは到底思えないけどね。あちしは。」
話は終わりというように、ヒカゲは台から飛び降り店を後にしようとする。自分からふっておいてなんて勝手な猫だろうか
「まだヒナタが来ていないけどいいのかい?」
そう問えば、不機嫌そうに鼻を鳴らす
「あいつなら、もう近くまできているよ。犬臭くてたまらんわ。あんな奴の臭いがうつされたらたまったもんじゃない。まあ精々餓鬼と戯れてりゃいいさ」
「なにかが変わる気がするんだ。直感は信じなくちゃね。ふふふ、楽しみだ。じゃあまた明日ね。」
闇に溶けそうな猫の背に声をかけ空を見上げる
まんまるい月がうっすら照らす店には、性別不詳の店主が一人。
それには不思議な事に影がなく、それを知るものはいない。