呪い屋⑤
「あの、呪い屋って何をしているお店なんですか?」
店内を見回せばやはり、用途のよく分からないものや雑貨、よく見ると色のついた石なんかもおいてある。
入ってすぐは気が付かなかったがハザマさんのかげに天秤とおはじきが沢山散らばっている。天秤の皿にはおはじきが乗せられ綺麗にバランスをとっていた
先程の女の子と遊んでいたのだろうか
「ん?ああ、ここはいろいろな呪いの品を売っているんだよ。例えば、好きなひとの名前を書いて誰にも見られずに使いきれば恋が叶う消しゴムとか、テスト勉強するときに使えば成績が上がる緑色のペンとか」
...一昔に流行った子供だましのまじないで生計をたててるのか?この人は。
だいたいまじないなんてあてにならない
呆れたような俺の心中を読んだようにハザマさんは小さくわらった
「あ、その顔は信じていないでしょう?君は嘘がつけないんだね。顔に書いてある」
「いや、その、すいません」
ばれているようなのですぐに謝る。昔から大地にもウソはすぐにばれたし自覚している
そんな事を今さら思い出してばつがわるくなり目をそらす
「いいんだよ。正直お客さんもさっきのような小学生やお年寄りが多いからね。趣味のようなものさ。気にしていないからそんな顔はしなくていいよ。責めているわけじゃないんだ。こちらこそ勘違いさせるような言い方をしてしまったね。」
ハザマさんは逆に申し訳なさそうに形の良い眉を下げた
「いえ、それでもすいません。軽率でした。」
「いいや、私は嬉しいんだ。君位の年の頃の子がくるのは珍しいからね。時間に余裕があるならば、話し相手になってはくれないかい?」
別に急いでもいないし、断るのも何だか先程のこともあり悪い気がした。
結果、ハザマさんはすごく聞き上手だ。相槌や表情も本当に楽しそうに聞くのでどんどん話が進む。たぶん子供やお年寄りもハザマさんと話すのが楽しいから来るのではないかと思う。
「それで、幼なじみが怪我をして今は入院してるんです。事故の割には酷くは無かったんですけど、最近怪我をすることが多くて。あいつ運動神経も良くて、今までそんなことなかったのに。」
「そう、日暮くんはその幼なじみの子が大好きなんだね。」
一瞬何を言われたか理解できず頭の中かが真っ白になり、その後カァァァと顔があつくなる。
「い、いやあいつとは腐れ縁で、たしかに気がきくしいいやつで、だけど!好きとかそんな言い方をしなくても!」
別にそんなに否定しなくても、と冷静になれば思うがそんなストレートな表現をされると照れる
べつに、ピンク色なやましい好意ではなく友情だ。だがストレートすぎる
「ふふふ、咄嗟にその子の良いところを思い付くのは、それほどその子が大切で信頼しているという何よりの証拠だよ。それにとっても心配なんだね」
心配。それはそうだ、あいつはなにも言わないし俺はエスパーじゃないから何もわからない
「じゃあ、日暮くんにこれをあげる。これを彼にあげてね。きっと悪いものからその幼なじみの子を守ってくれるよ」
そういって渡されたのは、和紙の折り紙で折られた白い鶴と亀
ハザマさん曰く鶴は正しい道にその人を導き、亀は悪いものから守る役割があるらしい
「これも、まじないですか?」
初めて聞いたがそんなまじない。
「そうとも言えるし、そうでないとも言えるかな。それは私のオリジナルだからね」
目を細めてハザマさんは鶴と亀を見る
オリジナルってハザマさんが考えたってことか!?大丈夫なんだろうか。
「信じる事が大事だよ。日暮くん。おまじないとはそういうものさ。昔からあるものだろうが、新しいものだろうが関係ない。信じるものは救われる、ともいうし。それに君が渡すというのも重要だよ。その幼なじみの子はきっと事故にあって不安だろうね。怪我が多くなっていたなら尚更。心と体はどちらかのバランスが崩れてしまえばもう片方も崩れてしまう」
ハザマさんは銀製の天秤におはじきをじゃらじゃらと乗せ片方だけを重くしていく
暫く続けると天秤は重みで異常な程傾きもう一方のおはじきは全て不安定だった為か落ちてしまった
なんだかその光景が恐ろしくなり、なんとなく目をそらしてしまう
「人は、不安や恐怖を一人で拭うのは難しい。君くらいの子は特にね。心も体も成長している最中だから。純粋な子供でもなく、かといって大人でもない。だから気休めでもいいのさ。信頼している君が、子供だましのようなおまじないでも自分の為に何かをしようとしている事を形にしてくれる。その行為そのものがまじないになる。その鶴と亀はより分かりやすく目に見える形にしただけだよ。鶴と亀は縁起物だし、丁度いい」
ハザマさんはにっこり笑って、また良かったら話を聞かせにおいでと言った
丁度暗くなって来ていたし、そろそろ帰るかなんて思ったのをまた見透かされたのかもしれない。
店から出て、折り紙を大地に渡しに明日病院へ行こうとぼんやり考えた
不思議と渡さないという考えはなく、そこに違和感も感じなかった。