第一話 間違えた座標
sideイリア
王の間は騒然としていた。かく言う私だって驚いている。なにせ召喚されるはずの勇者がいつまでたっても召喚されないのだから。ふと私が魔法陣を見てみると召喚するための魔法陣をつくり上げ、大規模な召喚儀式を行うオーディオ魔法隊の筆頭であり、オーディオ随一の魔法師でもあるレイナ・フォールデンがいつもは私と同じだと称される凛々しい顔を久々にオロオロとさせていた。
「一体どうなっているのでしょうか。」
私の後ろで列を成していた四騎士の一人である真面目で実直な性格の剣の騎士、クリス・インバルトがそう聞いてきた。
「ハッ…大方失敗しちまったんだろうよ。珍しいこともあるもんだ。ウゼェ勇者がいねぇのならそれでいいがな。」
私がクリスに言葉を返そうとすると、四騎士最強の双剣の騎士、ゼイド・バッカスが割り込んでくる。
「言葉が過ぎるわよゼイド、レイナ師は私達より身分が上だって何回言えばわかるの。この脳筋バカ。レイナ師が失敗なんかするわけないでしょうが。」
「あんだとッ、舐めてんのかクソリーゼ。そんなもんわかんねぇだろうが!」
「わかるわよ!そんなの!っていうかクソっていうな!クソゼイド!」
「テメェだって言ってんじゃねぇか!殺されてぇのか!クソアマ!」
「やってみなさいよ!バ~カ、バ~カ!」
「テンメェ!殺す!!」
ドッタンッ!バッタンッ!バキィッ!メキョッ!
また始まったか…はぁ~ 何故ゼイドとリーゼは話すといつもこうなんだ。今はそんな場合ではないというのに、リーゼは本名はリーゼルト・フエルノ、四騎士の鞭の騎士だ。ちなみにさっきから一言も発しない最後の騎士は鎌の騎士、エルモ・ディーゼルという名だ。気にするな、寝てるだけだ。
「お前たち少し落ち着け、このような場で四騎士の恥を晒すな。」
「あっ!す、すみませんイリア総長」 「チッ、めんどくせぇな」
私が一喝すると2人は黙る。いつもどおりなのはいいことだが、さすがに王の間だからなここは。
「済まないクリス」 「いえ、いつものことですので」
「確かにな、さて、私の推測だが召喚儀式じたいは成功している筈だ。」
「では、何故?」
「まぁ見ていろ、レイナはもう答えを出しているようだ。」
sideオーディオ
「どうした、レイナ・フォールデン。何が起きた。」
私は玉座から立ち上がり、そう聞いてみる。
今日、新たな勇者を呼び寄せるはずだった。魔族との戦い、そして他国との政治に有効に使う都合のいい道具として…我が国は勇者輩出数が最も多い。それはとても難しく失敗する確率の高い召喚儀式をいとも容易く成功させる天才がいるからだ。
それがレイナ・フォールデンという魔法師。世界にも数人しかいないゴッドマジシャンという称号を彼女は持っている。そのほとんどが魔導大国からの出身者がなりうるものなのだから出身者でない彼女の特異性と秀才さがよくわかる。そんな彼女だからこそ失敗などするわけがないと思っていたので、なにか別の原因があるのではないかという思いからの先の言葉だった。
「王様、召喚儀式は成功しております。」
「ならば何故勇者が出て来ないのだ。」
「なにやら召喚する際に謎の圧力が魔法陣にかかったようです。なので召喚に成功したことは成功したのですが、おそらくこの国の近辺に飛ばされてしまった可能性があります。」
「そうか……その場所はここより近い場所なのか。」
「はい、幸いそこまで遠くへは行っていないでしょう。兵を率いて探せば特徴のある容姿なのですぐに見つかるかと…」
そのレイナの言葉に心底安心した。もし間違えて他の国の領地にでも飛ばされてしまっていたら手が出せなくなってしまう。そうなってしまえばただの損害だ。
「そうであるのならば何も問題はないな。イリアよ!」
「はっ!」
「今の話を聞いていたな。隊を率いて勇者を探してきてくれ。」
「分かりました。ただちに」
「あの…王様」
レイナが小さな声をかけてくる。
「ん、どうしたレイナ」
「わ、私になにか罰をお与えにはならないのですか?」
「何故罰を与えねばならない。ただ勇者が出てこないだけだ。召喚には成功しているのだろう?お前でもわからないなにか特別な圧力がかかったとするのならそれは不測の事態だ。お前のせいではない。」
「あ、ありがとうございます!」
レイナが凛々しい顔を嬉しそうにほころばせる。うむ、これが見たかった。
私は気づくことはできなかった。この出来事はきっと予兆だったのだ。 だが一体誰が気づく? 新しく来た勇者がまさか世界を滅ぼせてしまう飼い犬だったなんて……
「おいっバカをやっているな!早く行くぞ、お前達」
「ほれっ見たことか!やっぱり失敗だったじゃねぇか!マヌケリーゼ!」
「うるっさいわねぇ!不測の事態だったっていってるじゃないの!失敗じゃないわよ!耳聴こえないの?ウスノロゼイド!」
うん、そこ、うるさいんだけど……
side???
なかなかにすげぇなぁ、あれは…
今俺は横に巨大な崖から広大な荒野にポツンとあるこれまた巨大すぎる国を見下ろしていた。荒野に落ちてからもう3、4時間経っている。そんななか俺はただひたすらに心地の良い風が来る方向へ足を進めていた。
ありえねぇ、マジでありえねぇ、俺を殺す気か!くそやろうめ!と思いながら必死に歩き続けた結果、俺は崖に面した凄まじいデカさの国を見つけたわけだ。
俺が感じた心地の良い風はその崖に建てられた国の後ろ、つまり、さらにその崖の下に見下ろせる地平線まで続いているような森から漂ってきていたらしい。
なんの風かは分からないが、まぁいいさ、今はとりあえず人のいる場所を見つけることができたということだけでよしとしよう。
俺がどうしてここにいるのかをわかるやつがいるかもしれねぇ。それどころか俺を呼びだしたやつがあの国にいるかもな。とにもかくにも行ってみないことにはなにもわからねぇ。
「まっ、行ってみますか!」
そして俺は意気揚々と巨大な国へ足を進めた。
とりあえず1話目です。次回主人公の名前と最強っぽさが出ます。これからは5000文字前後で書いていきたいので、少々投稿が遅れます。プレイステーション3は打ちにくいなあ。