地上、実家へ
地上に降りたカティを最初に迎えたのは荒れ果てた畑だった。
天界と地上とでは時間軸が違い、天界での1年が10年となる、カティは天界で10年過ごしたのでほぼ100年地上から遠ざかっていた事になる
もちろん地上にいた頃のカティの家族・知人などはすでにいない。
「…家、まだ残ってたんだ」
目の前にはカティの記憶よりは廃れたかつての実家。
今は人の気配がない。
カティの母が亡くなり、父がそれを追いかけるように亡くなったのは地上の時間で30年前。
それ以来この家には誰も住んでいない様子だった。
まるで、不法侵入するようにびくびくしながら玄関に向かう。ドアノブに手をかけると鍵がかかっていなかったのかガチャッと音を立てて開く
部屋はカビとホコリの匂いの中、微かに懐かしい香りが漂う。
その香りに地上で生活していた頃の記憶が蘇った。
「またここで暮らす事になるなんて思わなかったな。…あの時きちんとケジメつけたと思ってたのに…」
天界に向かう時に割りきったはずの心にヒビが入る。
「感傷に浸ってる場合じゃないや。片付けないと…」
アウノは天帝が帰ってくるのは明後日だと言った。
という事は地上ではおよそ20日後、それまでに地上の生活を最低限の物にしておかなければテロは直ぐさまカティを天界に連れ戻すだろう
「とりあえず…寝る場所と、台所…かな?」
2階への階段は所々穴があいており、カティの頭の中に大工仕事も加えられる。
この調子だと屋根も穴あいてるかもなぁ…と考えながら階段の穴を避けて自分の部屋だった場所に向かう
「テロの波動で『えいっ!』てやったら壊れそうだ」
くすくすと笑いながら2階の廊下を歩いていると、『ズガァァァン』と一階から凄まじい爆音が聞こえてきた
「…え?」
カティの目の前にモクモクと上がる粉塵。
突然の事にカティはその煙を思いっきり吸い込んでしまって「コホッコホッ」と咽せた。
階下にドカドカと聞こえる複数の足音に「まさかこんな空き家に盗賊なんて…」と、カティは迫り来る恐怖に身を縮ませてしまう。
「陛下。落ち着いて下さい。天妃様に怪我があっては…」
聞こえてきたのはここに居るはずの無いウーゴの声。
「人の気配などすぐにわかる。1階に人はいない」
聞こえてきた声と、煙の向こうに微かに見えるブラチナブロンドの髪。
カティは首を左右に振りながら思わず吹き抜けの手すりから壁際まで後ずさる。
「テ…ロ?」
カティの思考が停止する。
テロはその呟きすらも聞き逃さなかった。すぐに2階の廊下へ視線を向けると身体を宙に浮かべた
今の状況でテロと会うわけにはいかないと、早く逃げなくてはいけないと頭ではわかっているがカティの足は動かない
テロは2階の壁際にカティの姿を見つけると静かに側に足を降ろした
「カティ?」
「な…んで?だって…テロの帰りは明後日だって…」
カティの声が震える。
「そう?…私は一時でも早く愛しい妻に会いたくてね。なのに、帰れば訳のわからない議会によって妻が地上に帰ったと報告された」
静かにテロは話を続けているが、カティは彼がかなり怒りを抑えている事がわかった
カティは冷静に説明をしなくてはならない事はわかっているが、喉に何かが詰まって声が出ない。
「カティ。これは?」
「……」
「『ちょっと』した悪戯かな?」
テロは少しずつカティに近づき、壁に凭れるカティの顔の両サイドに手をつく
近づくテロにカティは怯えてしまいそうになる気力を必死に保つ。
先程気管に入った煙がまだ気持ち悪いが、「…ぁ」と声が出る事を確認して目の前に迫った顔に視線を向ける
カティは思い切り息を吸い込んで一気に話そうと声を出した
「あの!」
「離縁して下さい」と言おうとした途端、階下から凄まじい火柱・水柱が上がった
「ちっ」と軽い舌打ちをするとテロはカティに聞こえないほどの声で何かを呟き、カティを抱きこんでその炎と水からカティを守る
あっと言う間に消し去られた実家の屋根に、ばくばくと口を開閉させるとカティはまた言葉を無くしてしまう
テロとカティの耳に階下からアデライドとカンデラの言葉が聞こえてくる
「「カティィ〜〜・お姉様ぁぁ〜〜〜」」
しかしカティは突然起こった全ての事に頭が追いつかず、ここ数日の睡眠不足もあってテロに抱えられた腕の中でゆらりと意識をなくした
「…カティ!?」
「ウーゴ!!そいつらを結界で縛り付けておけっっ!それと医者だっ!!」
テロは腕の中で気を失ったカティを一度強くぎゅっと抱きしめると、すぐに横抱きにして浮き上がりあいた天井部分から外へと向かった
カティがその腕の中で安らかな顔で眠っていた事には気付かなかった
カティの実家なのに…(苦笑)
なんと!お気に入り登録がどんどん増えていって(感涙)
やはり自分の愛しいキャラ達なので皆様にもそう思って頂けると嬉しいですvv