天帝の銘
「僕の妃になって貰えますか?」
天帝ではなく、テロ個人として人のカティを望んでくれた事を彼女は喜んだ
「天帝の銘」
それを身体に受入れた時、カティは幸せだった。
「カティの全てを手に入れたい」
初めての夜、全てに優しかった彼に涙した
*
その歯車が狂いだしたのはいつからだったのかカティにもわからない
「人と神との婚姻など…汚らわしい」
「やはり妃が人であるから、子が授からないのではないか?」
「何も持たない人ごときが天界に上がるなど…神域が乱れるわ」
そんな天界人の最初は気にならなかった言葉が、カティの心を徐々に蝕んでいった
地上にいた頃の仕事も天界ではさせてもらえない。
「妃が土いじりなどもってのほかです」
「もっと天帝を支える何かを考えて下さいませ」
「薬学など波動の元には不要ですわ」
ただ天帝に仕えるだけの日々。
幸せだった彼との行為が、いつしか義務になる
かけられる言葉に怯え、多忙な天帝に対しての面会も段々と回数を減らしていき、カティは部屋に籠る日々が続いた
「私は…、何の為に」
ココニイルノ?
ベットの上で何処を見るでもない様子のカティに、侍女が心配して天帝の側近であったアウノに報告した
その時アウノに言われた言葉にカティは逃げ道を見つけてしまった
「『天帝の銘』を返還してはいかがですか?」
「そんな事が可能なの?」
壊れかけたカティの心にはそれは甘美な薬だった。
「議会に承認して頂ければ、少なくともカティ様は地上に戻る事は出来るはずです」
天帝の力で全てを統べていても、賢帝でもあるテロは独裁を良しとはしておらず、天界には五帝を筆頭とした各属性の長老からなる議会があった
カティが天界に来て10年。
その間一度も地上に戻った事はない。
何度か「一度戻りたい」と天帝に申し出たが、いつも受入れて貰えなかった
『帰れる…の?」
「天界はカティ様の帰す所ではないようですので」
「…そうね」
アウノは淡々と語る。
少しでもカティを慰めての言葉だったら、彼女は受入れられなかったかもしれない。
「次の議会の招集はいつ?」
「いつでも。天帝妃としての力をお使い下さい」
「そう…。反対する者がいない時がいいわね」
五帝がカティの事を気にかけている事はわかっていた。
ならば彼らが出席出来ない時が良いとカティは思う
「天帝と五帝が不在の時に招集を」
「御意」
アウノが退出した後、カティはテラスへの扉を開けた。
吹き抜ける風に靄がかかっていたカティの頭が少しずつ動き出す
「テロはきっと反対するわね…」
でも、もうここに留まる事は出来ないと、一度何もかもをリセットするべきだとカティは思う。
「どうやって説得するか…よね?」
強い風がカティの真っ直ぐな黒髪を攫う。
その時その髪の先のベットのサイドテーブルに目が止まる。
彼女が地上から持ってきたものが全部そこに納められている。
「…薬?」
薬学博士だったカティが地上から持って来た唯一の薬。
「魔薬」
それはカティとテロを結びつけた大事な薬だった
少し過去のお話です。もう少しテロとカティの過去を書きたいんですけど…
何だか説明チックになりそうなので詳しくは閑話などで補充していきたいと思います
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