天帝降臨
「ふぅ〜」と息を吐きながらカティは曲げていた腰を伸ばす。
目の前に広がる畝の仕上がりに納得し、ここに植える薬草を考える。
「アルメアの在庫が減っていたからなぁ…」
薬学師の研究といっても元手が必要で、カティは簡単な傷薬などの薬草を調合しては街の薬師に卸していた
アルメアとは細胞再生を活性化させる薬草で、傷薬や回復薬として重宝されておりカティの大事な収入源だった
アルメアは成長速度が早い薬草としても有名で一ヶ月ほどで収穫出来る葉をつける、しかしその反面育成がとても難しい薬草とされていた。
「よし!アルメアにしよう!」
カティは薬草を調合する技術も素晴らしいのだが、薬草自体を育てる技術も一流だった。
野草を手に入れては自分の畑で育てており、周りの学者には一目置かれていた。
考え事をしていると周りの見えないカティだったが、背筋にぞくりと悪寒が走る
「げっ…」
感じたそれはカティがよく知っている明らかに『彼だけの』波動で、カティは畑仕事に夢中になっていた自分に叱咤しつつ、慌てて周りの波動を探る
思いのほか身近に感じられて、慌てて逃げようとした所を後から抱きとめられる。
「カティ」
そういうと天帝テロは後から抱きしめたカティの首筋に軽いキスを落とす
「!!!???」
カティは軽い舌打ちをしてテロから離れようとするが、背後からしっかりテロに抱きしめられておりすべては無駄な努力となる。
カティが背後から感じる波動はそこにいる五帝の波動などとは比べ物にならない物。
普段神族は天界から地上に降りる際に自分の波動を抑えて降りるのだが、どうみてもテロの波動は天界での波動のままだった。
先程とは違った意味で舌打ちを打つと、ウーゴに向かって叫ぶ
「ウーゴ!!早く私ごと結界で覆って!!!」
突然現れた天帝の存在に五帝は茫然としていたが、カティの言葉にハッとウーゴが動く
それと同時にカティとテロの周りに空気の揺れが生じ結界が張られた。
テロは一瞬それを見たが、どうでも良い事のようにカティに意識を戻す
「テロ!!離してっ!!!」
「却下だ。どうして逃げる?」
一向に腕の中に落ち着かないカティに少し機嫌が悪くなったテロが低い声で答える
カティは暴れるのを止めて、顔だけをテロの方へ向けた
「そんなに波動を纏って地上へ下りて来て何も影響が無いとお思いですか?」
「ウーゴがすぐに対応しただろ。それにここは私自身の結界で覆われてるから地上に問題はない」
「すぐ側に五帝の従者達が居ります」
五帝は天帝の波動を受けても平気だが、従者はそうはいかない。
それでなくても五帝が揃った波動で少なからず影響がある所に天界での天帝の波動など受け止められるはずがなく、人で言うところの脳へ莫大な情報量が一気に流れ込むような感覚に気を違えてしまう。
カティが心配そうに農道の方を見やると、すぐにウーゴに結界を張る様に言ったので見た所大丈夫な様子だった
カティはその代わり目の前に異様な光景を見る事になる。農道に全ての神族が五帝も含めて全員跪いてる姿。
「テ…陛下」
「そんな呼び方はよせ」
「そうはいきません」
カティは農道の神族と同じように天帝に対して跪かなければならない。
しかしテロがカティを離す気配は一向にない。
だんだんとカティの額が熱くなる。
「くっ…はっ…早…く離して…」
手で額を抑えて意識下にそれを戻そうとするが上手くいかず、徐々に額に輝く紋章が浮かび上がる。
カティが天帝の波動の中でも平気な理由
「駄目だよ。愛しい我が妃」
「も…『元』妃です…から」
カティの額の紋章。
それは天帝妃の証『天帝の銘』だった
おっ!やっと天帝登場!
そして実はカティは元『妃』(テロにとっては『妃』)なのでした!
『元』妃なので五帝に対しても下手に出ていたのです