創生
アネルマの思考が記憶をどんどん遡る。それに合わせて白銀の世界が一掃され、次いだ世界は無の世界だった。闇でさえもない感覚、何物にも例える事が出来ないその世界は、何かが存在する事が間違っていると感じさせる。そしてカティは急に自分を取り巻く世界が変わった事に驚いたが世界が移動された時に起こる目の回るような感覚が無かったので、ここが同一の世界だと認識した。
「…やはり、其方は変わっておるのぉ」
「え?」
「ここは、我の初めて降り立った場所じゃ。何も無い世界…架空といえ、この世界に立って自我を保てる其方はやはり少し変じゃのぉ」
「………はは」
褒められているのか、貶されているのか判断し難い状況にカティは苦笑いを浮かべるしか出来ない。
「…まぁよいわ。ここで我らは遊びを始めたのじゃ」
アネルマの言葉と共に変わる風景にカティは目を奪われる。最初に現れた小さな茶色の塊はまるで粘土のようで、それがあっという間に平たく広がった。
「土を捏ね大地を作り続け、眠くなった時に欠伸と共にでた涙によって海が作ったのじゃ。自分の髪を切って、成長という力を与えて大地にさせば、大樹となったわ。せて、ここで問題じゃ、この世界に何が足りぬと思うかのぉ?」
いつの間にか森の中に立つカティ。原始の世界を目の当たりにして圧倒されている彼女にアネルマは問うた。それは今の世界と同じようで、何か違和感のある世界
「生き物…生物が………いない?」
「そう。正解じゃ」
アネルマが手を『パンッ』と高らかに打つとそこに奇妙な物体が現れた。
カティにとって突然現れたそれは何とも形容し難い、足がたくさんあり、顔は熊のようで…ただ目などがはっきりしない不気味な存在としかわからなかった。カティがちらっとアネルマを見ると何故かキラキラと目を輝かせ彼女を見ていた
「……た、蛸?違うな…く…く、熊?せ、生物?」
カティの言葉と共にアネルマの眉間に皺がより始め、それを見てカティの額にも汗が浮かんでくる
「………エイリアン」
「っ!!我の力作に何という事言うのじゃっ!!其方達の祖先やったやも知れぬ我の力作にっ!!」
アネルマの言葉に今度はカティが驚愕した。まさかこのエイリアンが人の祖先だなんて…と言葉にならないカティにアネルマが「ふんっ」と鼻を鳴らした。そして彼女はもう一度手を高らかと鳴らした。
「あ…」
カティの目の前に現れたのは図鑑などで見たことがある、今ではもう絶滅してしまった生物達。
「もう一人の創生神が創ったものじゃ…」
カティはもう一人の創生神の手先の器用さに心の底から感謝した。いつの間にか模型のようだった生物が動き出す。
「長い間、この空間は我達のお気に入りじゃった…。そして我らの言葉を聴ける神族を創ると、ある日我らの声が直接聞こえない人族が生まれたのじゃ」
「人は…偶然の産物だったんですか…」
「まぁ…そうとも言うのぉ。そして我らの声が届かぬ人族は争いを始め色々な物を傷付け出した。困った我らはその力を抑制させる為に魔族を創り、そして神族にさらに力を与え、人を支配させた」
「………なんだか…す、すみません」
争いを続ける人族。耳の痛い話にカティは謝るしか出来なかった。
「別に人程度が傷つけても何ともなかったのじゃが…、問題は力を与えた神族が暴走を始めてのぉ…世界を一度崩壊させかけよってのぉ」
「……」
「今度は神族を制御する為に、グレイアスは天帝を創り、そやつと勝手に同化したのじゃ…」
「グレイアス?」
「…もう一人の創生神の名前じゃ」
その紹介が今!?とカティは思ったが口には出さなかった。
「グレイアスによって世界は安定されたが…我は一人になったのじゃ…。それは果てしなくつまらない世界でのぉ。我も銘となって地上に降りることにしたのじゃ。これが我が銘になった経緯じゃ」
カティはほぉ~と頷いていたが「はっ」と気付いた事を口に出さずにいられなかった
「あの…私が生き返るのと…何の関係が…」
「特に無いのぉ」
その返事にがくっとカティの膝が折れる。だが続けられたアネルマの言葉にカティは今度は背筋が寒くなったのだった