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正体

 カティは口を濯ぎ続けるアネルマにもう一度口直しのお茶を入れなおし、自分の分も入れ椅子に座りなおした。


 「…先ほどのはまさに殺人茶じゃの」


 カティはアネルマが飲んだのはあくまでコーヒーであって、先ほど自分が飲んだお茶の方がよほど殺人茶だと思ったが口には出さなかった。カティはただ静かに入れなおしたお茶を飲み、アネルマが先ほどの会話を続けるのを待った。アネルマも落ち着いたのかお茶を口にし、そしてぼそっと言葉を続けた


 「人では無くなる…怖くないかえ?」


 カティはすぐに返答する事が出来なかったが少し考えゆっくりと首を横に振って言った


 「怖くないと言えば嘘になります…怖いですから」


 カティが一番怖いのは元の世界に戻って自分がどうなるのかを想像出来ない事だった。ただ漠然と人でなくなるという事だけを告げられ、その事に恐怖を感じないわけがない


 「でも…多分私の恐怖以上に怖い思いをしてる人がいますから…」


 今頃カティの遺体と対面しているはずのテロを思う。ただ呆然と目の前の現実を受け止めようと頑張ってる姿を想像すると胸が痛む


 「それに比べたら私の恐怖は何とかなります。で、その人の恐怖も取り除けたら皆ハッピーでいいんじゃないでしょうか?」

 「軽いのぉ…」

 「世の中先を深刻に考えていい事なんてないですよ?今をどうするかです!」

 「科学者とは思えん言葉じゃの…」

 「私、感情と思考は別問題なんで!じゃないと天帝の嫁なんて出来るわけないですよ」


 カティは生き返ると返事した覚えも無かったが、アネルマと話している間に自ずと「どんな状況でも生き返る」という答えが導き出されていた。昔から実験でも考えてる間が長く、実験段階になるといつも行動が早かった事を思い出してカティは自分で苦笑する。今回だって同じ事だとカティは思い、答えが出ると後は実行するのみ!と覚悟も決まってカティの表情はすっきりとし、笑みさえ浮かんでいた。そんなカティを見守りながらアネルマの顔にも同じ笑みが浮かんでいた


 「よしっ!がっつり『生き返り』お願いします!」


 カティはテーブルに手を着くとアネルマに向かって頭を下げた。そんなカティにアネルマは苦笑を浮かべる。これからカティに行う行為に対してアネルマ自身に迷いがあった。本来であれば自分が憑依した体が死んだ時点で天帝の身体へ戻るの通常だった。ただアネルマはカティと過ごす中で今までの天妃とは違う何かを感じ、それが心地よかった。もう少しこの者と共に過ごす事もよいのでは?という思いが芽生えていた。ただし生き返らせる為には自分の力が必要で、それは一個人に対しては余りにも強大な力で、その力を与えていいのかどうか…直接カティと対峙して見極める必要があると感じたのでこの白銀の世界を用意した。そしてアネルマは選択は正しかったと今、カティを目の前にして思う


 「其方はやはり面白いのぉ」

 「…褒められてるんでしょうか?」

 「どうかのぉ?我に好かれて厄介かも知れんのぉ~」


 ふぉふぉと笑うアネルマを見ながら、カティも久しぶりに笑い声を上げた。そして暫く二人で笑いあった後、アネルマが笑いを収め真剣な顔でカティを見つめる。そこには今までの空気と違い凛とした女性が立っていた


 「カティ。我の名前はアネルマ・カステヘルミ・タイナ」

 

 カステヘルミという名がカティの記憶にあった。それは幼少の頃に母親に読んでもらった本に出てきた主人公の名前。この世界の始まりを記した神話


 「……そ、創世記?」

 「創生神カステヘルミ…懐かしい名じゃの…」


 話の中でしか存在しなかった者が目の前にいる現実、そして余りにも想像を超えた存在にカティの思考はしばらく使い物にならなくなった。

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