昔話 その3
感情が全く見えなくなり、まるで全ての存在を拒否しているかの様な暗い瞳のアウノに対してカティはかける言葉を持っていなかった。彼が娘の父親の神族に怒っているのか、それとも人の子供を宿した娘に怒っているのかそれすらもわからない。
「娘はその後天界に連れ戻され、子供を宿した事を知った当主によって屋敷の暗い地下牢に幽閉されます。娘の自我を保たせていたのは腹の子の存在のみ…そんな危ういバランスの中で娘は生きていました。そして腹の子が産まれた途端、娘は自分の子供を子供と認識する事も出来ず、ただただ父親への恨み言を口にするかと思えば、5歳児に戻って人の子だと自分の子供を蔑み…、狂い死にしました」
「…っな…んて事」
カティの目に涙が浮かぶ。娘を思って泣いているのか、その子供の為に泣いているのか自分自身にもわからなかった。
「崇高で気高き存在と言われた神族の本当の姿はこんな物です。その子供は神族のそんな汚い部分を一身に浴びて育ちました。何をしても蔑まれ、「人の子」だと罵られ、屋敷の地下から一歩も外に出してもらえず、そんな天界が嫌になり脱走しても波動を上手く扱う事も出来ない子はすぐに連れ戻され、体罰を受ける。何の為に産まれ出たのか?そんな事も子は考えられなかった…それすらも知らなかったからです」
アウノは一度ぐっと唇を咬み、今度は力のある視線でカティを見据え、言葉を発する
「……貴方はそんな哀れな子を…また生むつもりですか?」
「…っ!」
カティはここに来てようやくアウノが自分に何を言いたかったのか理解した。『人族と神族の子供』それはテロと自分の子供にもあてはまる事であり、両親の愛情を与えられても、天界で受ける待遇はこの子供と変わらないという事実に愕然とする
「テロ様は神族でありながら、人族に対して神族と同等、いえそれ以上の感情を持っていらっしゃいます」
「…テロ…が…な…んで?」
「ずっと虐げられてきた子は10歳にして産まれてから何も変わらなかった生活に初めて転機が訪れるんです。ずっと娘の当主がひた隠しにしてきた娘の子を含む事実が全て明るみに出ます。それを知った前天帝はすぐに子を自分の養子として保護しました」
カティの脳裏にある予測が過るが、感情がそれを否定する
「天帝も天妃も自分の息子と変わらず子に愛情を注いでくれました。そしていかに人族を蔑ろにする事が愚かな事か自分の息子に伝えます。子は初めて愛情を注いでくれた存在に戸惑いながらも、徐々にそれを受入れ、成人する頃には必ずそれに対する恩返しをする事を誓います」
「…ア…ウノ…貴方…まさか…」
「今では何故前天帝が人を擁護する事を、テロ様にお教えしたのか…その為に彼は愚かにも人族の天妃を擁立してしまった」
アウノの視線はまっすぐカティに向けられている。それがカティの質問の答えだといわんばかりに…
「私の存在が彼の人族に対する感情の基盤を作ってしまったのだと自分の存在を呪うばかりですよ。ですから私自身の手で軌道修正しなくてはなりません」
アウノの顔には微笑みが浮かんでいた
おしっ!昔話終わり!!
あ…ジャンル登録変えました…
何だか『恋愛』ジャンルに疑問だったんで…(苦笑)『ファンタジー』に変えさせて頂きましたvv
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