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昔話 その2

カティと同様にアウノも自身の話に引き込まれているのか、今はカティの方へ意識は無かった。カティは話に引き込まれながらも、必死にアウノに感じた違和感を突き止めようとしていた。何かが…何かがおかしいのに貧血によって霞んだ頭ではそれが何かわからない。そしてアウノは話を進める


 「神族の容姿は基本的に男女問わず優れています。男に会いにいった娘を見て、男も一目で恋に落ちました。人族の男に触れ、初めて娘は他人の目を通さない人族のほんとの姿を見ます。そして自分たち神族が波動の恩恵を怠慢で返し、神族同士の虚栄世界の中でいかに傲慢であったかを知ります。その後、娘は男に進められても天界に戻る事を拒み、地上で生活する事を選択するのに何の迷いもありませんでした」


 娘の最初の印象は『最悪』、だが話を聞き進むと『無知』だっただけだとわかる。カティはもっとその娘の話を聞きたかった。カティ自身は地上を捨てて天界で生活する事を選んだ。カティは世界こそ逆だが、今まで生活していた空間を捨てるという共通点を娘に見い出すと娘の未来が自分の未来に見えた。


 「どう…なった…の?むす…め」

 「男と夫婦になった娘は他の神族からすれば鼻で笑われるような小さな小さな幸せにも心が満ち足りていました。波動を使う事なく、自給自足の生活に満足し、日々自分たちの手から生まれる物に泣いて感動していました。ただそんな生活を永遠に続ける事は出来ませんでした」


 少し険しくなったアウノの表情に、カティも息を呑み、顔がぐっと引き締まる


 「その頃娘の実家では娘が家出をしたと噂になっていましたが、外聞を気にした当主が娘は病気になり屋敷に籠っていると嘘の言葉で対外的には対処し、必死に裏で娘の行方を捜していました。そんな緊急事態だったので誰も水鏡を見ず、そこに映る愛しい娘が汗をかきながら畑を耕している姿など知りもしなかったのです。天帝や五帝ほどではないにしても娘も神族、自身の身体から流れ出る波動に対して何の対処もせずにいると、10年の年月を掛け少しずつ地上のバランスに影響を及ぼし始めました。」

 「…影…響って?」

 「天帝の縁者であった娘の波動は天の属性、つまり万物に対して影響が出始めました。どれほど当時の天帝が万物の均衡を測ろうとも、水は豊かになりすぎ水害を生み、地は栄養を貯蓄しすぎて作物は弱くなり、力を持った風は突如突風となり人々を襲い、火は自然発火し森を焼き払いました」

 「…千年前の未曾有の天災」


 それはカティが学校で習うような歴史の中の出来事だった。地上の各所にその文献が残されており、地上世界で同時期に起こった未曾有の天災だと習った。


 「違和感を感じた天帝は地上に降り、天災原因ーー年を重ねた神族の娘を捜し出します。どうしても天界には戻りたくないという娘の話を聞き、ならばと天帝は娘の波動に制御をかけ地上で暮らす事を許可しました。しかしそれに黙っていないのは娘の家でした。家出どころか地上におりて人族の男との結婚など、人族嫌いの家主にとっては屈辱以外の何物でもなかったのです。家主は地上の娘の元へ降り、激情に任せた波動によってそこにいた男と男の家族、10年培って来た娘の家族を皆殺しにします」

 「…ひどい」

 「娘は泣き叫びました。ですが天帝によって波動に制御を掛けられた娘は父に対して何の抵抗も出来ません。夫と共に死のうにも娘には死ぬ事が出来ないわけがありました」

 「わ…け?」


 アウノが視線をカティに戻す。その瞳は何の感情もないガラス玉のようだった


 「娘のお腹には男との間の子が宿っていたのです」


 カティの頭に天界の医者の言葉が蘇り、心臓が掴まれた様にぎゅっとなる


 「天妃様も聞いたでしょう。神族と人族が子を生す確率。そんな物はこの時まで存在しなかったんですよ?」

 「まさ…か…」

 「100億分の『1』は娘が宿した子」


 カティの頭の中で数字の羅列でしか無かった物が、突如人の形になる


 「実父に夫を殺されても、娘が残した『1』」


 そのアウノの言葉はカティに向かってではなく、呟く様な声だった

まだまだ…まだ…まだ…

あぁ…先が長い…


アウノ…話長いよぅ…

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