焼きもち
黒いフードコートを脱いだ二人は天井から床まで辺り一面本と薬草だらけのラボの中を興味津々に見つめている。カティは二人にテーブルを進め自慢のハーブティを入れた。そして自分も椅子に座るとテーブルに置かれたケースを見つめる。
光り輝くディピアルダの蕾にカティは目を奪われていた。透明なケースを色んな方向から見て「ほぅっ」と溜息を吐く
「昔はこの花の美しさがわからなかったのね…」
『そうですね。ディピアルダは魔界の求婚花としても人気ですから』
「そうなんだ。でもわかる!花が咲いてないのにこんなに綺麗なんだもん」
『…』
「求婚花」という部分を軽くスルーするカティに、ネストリは兄を不憫に思わずにはいられなかった
「でも…魔草だから今のあたしが触ったら…枯れちゃうよね?」
カティの頭の中に魔草が凄い勢いで枯れていった魔の森での事が思い出される。それに答えたのはユホだった
『いえ、ケースの中で作業して頂けたら大丈夫です』
「え?ケースの中でって…どうやって作業すんの?」
『こちらの壁面はこのボタンを押して頂くと…』
ユホはカティの持つケース上部のボタンを押し、ある一面に手を触れた。すると不思議な事に壁の中へ手が入り、ディピアルダに触れている。
「えぇ!どうなってるの?」
『この一面だけ特殊な加工がされています。手には1μmmの壁の膜がありますので、直接触れている感覚ですがカティ様の波動も遮断出来ます』
「すごい!!!」
『他にも乾燥や機器も上部のボタンで操作出来ますので』
「不思議ボックス〜〜〜!!!」
カティは改めてユホを尊敬の眼差しで見つめた。
「二人のお陰で『魔薬』の完成にまた一歩近づいたわ!ありがとう!」
『お役にたてて光栄です』
ネストリが答え、ユホが頭を下げる。
『ところでカティ様』
「ん?どしたの?」
『指輪が光ってますが…』
カティが指輪を見ると先程より強い黄金の光を放っていた。何か嫌な予感を感じたカティは二人に謝るとラボから出て屋敷に戻り、意識を指輪に集中する
『…ティ。カティ?』
「テロ…どうしたの?」
『カティ…すまない、指輪の件が五帝にばれた』
申し訳なさそうなテロの声が頭に響くが、カティには何が悪いのかわからなかった
「…?何か問題でもあるの?」
『…自分も契約させろと言って聞かない』
「はぃい!?』
テロとの契約ですら無理矢理だったのに、プラス五帝と契約と聞いてカティは意識を無くしそうになる
「絶ぇ対!天界から出さないで」
『…簡単に言うな。五帝全員が血走った目で前に立ってる俺の身にもなってくれ…』
「何で話しちゃったの!?と、とにかく契約はしないからね!皆にも他にもっと忠誠を誓う相手が出来るとか何とか言って納得させて!」
『…怒帝とは契約したのに何故自分たちは駄目なんだと喚いている』
カティは頭の中に五帝がテロに詰め寄ってる所が楽に想像出来てうんざりする。
「神様が一人間と契約なんてしちゃ駄目だって言って」
『…』
テロは五帝と話しているのか、返答がしばらくなかった。そして聞こえた声はやはり申し訳なさそうで
『天帝がまっさきに契約しておいてそれはない!…だそうだ。しかも天妃に忠誠を誓って何が悪い!と開き直ってる』
「…なら、今あたし邪魔されたくないの。契約しに来たら畑出入り禁止だからねって言って」
『それは俺もなのか!?』
「貴方の件は後で話しましょう。それより早く伝えて!!」
『…皆黙って、受入れたようだ…』
「よかった」とふぅとカティは息を吐いた。五帝の愛はたまに胸焼けを起こしそうになると思いながら…




