五帝
カティの畑は薬草に溢れている。
それは彼女が薬学の研究者だからであって、この畑は決して趣味などという物ではない。
「人が汗水垂らして一生懸命働いてる横で優雅にお茶ってどうよ?」と言いたい言葉も相手が神なので言う事も出来ず、畑には(神の持ち込んだ物が邪魔で)大型の農耕機具は入れれず、先ほどの理由で人もこの畑には近付けないので最終的には一人で畑を管理する事になり、本業の研究が滞りがちになり、カティのストレスは日々溜まる一方なのである。
そんなカティの気持ちも知らず、神の二人は会話を続ける
「カティも一緒にお茶でもいかが?」
「そうだよ。久しぶりにカティのハーブティが飲みたいな」
「申し訳ありません。『仕・事・中』ですので」
「「残念」」
っていうかお前らも天界に帰れっ!!という雰囲気を醸し出すのだが、神二人から見たカティは「可愛いvv」としか映らないのだった
「こんな二人はほっておいて自分の仕事をしよう!」カティはそう心に決めて、タオルを首元にしまうとまた鍬を振りかざす。
「あ〜!!!アデリーにウーゴ!お前達も来てたのか?」
聞こえてくる声にカティの口から思わず「チッ!」と舌打ちが出る
「おぉ〜シルヴォじゃないか、それにマティとカンデラも」
「抜け駆けはずるいぞっ!!」
はっはっはっと農道から笑い声があがる。
シルヴォは雷帝、マティアスは風帝、カンデラは水帝である。
つまりカティの畑に今世界の均衡を保つ五帝が勢揃いした事になる。
5帝が勢揃いする事など大きな議会以外では天界でもめったに見られない珍しい事だ。
彼等の和やかな空気の反対にカティの周りにはブリザードが吹雪いていて、カティは麦わら帽子の下での大きな溜息を吐くが農道の彼等に届く事はない。
彼等がそれぞれに引き連れた従者達の間にどよめきが混じる。
「たかがお茶しに来るだけに五帝が集まるなんて…」
有り得ない。
農道から聞こえた声に、誰の従者かはわからないがカティは「だよね?」と賞賛を送りたいと思った。
「カティ〜!!!」
お茶会に新たに加わった三人が手を振っている
それを視界の隅で見ながらカティは
「まじで…勘弁してよ」
と呟いたが、多分誰にも聞こえていない。
そしてどうしてあんなに人数がいるのに…畑に入ってるのは自分一人で誰も手伝ってはくれないんだろう?という素朴な疑問にはきっと誰も答えないんだろうなぁ…と思ったりしているカティはこれから来るであろう最大の敵に対して、今までの事を座り込んでなかった事にしたい衝動にかられるのだった