指輪
カティはこれで日の高い内に帰れると安心したのが悪かったのか、いろいろ寄り道をしてしまい、結局行きの倍の時間がかかって畑に辿り着く頃にはすっかり日も暮れていた
「つっかれた〜!!」
ラボに入ってすぐ荷物を下ろすと近くのソファにバタンと倒れ込む。目を閉じると今日あった事が頭に浮かぶ。
「えへ…ビニールハウス…」
新たに育てられる植物の事を考えるとカティの頬が緩む。しかも自分で手に入れようとすればとても20日では無理だったはずの魔草も手に入りそうで、全てが順調に行っていて怖いぐらいだとカティは考える。
そんなカティの思考を打ち破る様にラボの扉が乱暴に開けられた。そこにはカティが見た事も無い表情のテロが立っていた。
「テ…テロ!?え…ど、どうしたの?」
「何処に行っていたんだ…」
カティはあっという間にテロの胸の中に抱え込まれる。苦しいほどに抱きしめられた中でカティは苦しさの余り、テロから逃れようともがくと力が強められる
「ちょっ、テロっ!苦しいっ!」
「カティ…天界でお前の波動を見失った瞬間、どんなに心配したか…」
そういうとテロに更にぎゅうっと抱かれる。
「そんな事言ったって、魔草取りに行かなきゃ『魔薬』作れないでしょうが!」
「魔草?…という事は魔の森に近づいたのか?…これは?」
カティの右手の指輪を見て、テロがハッとする。
「主従の指輪…?」
「主従の指輪?そんな大層なもんじゃないよ…これは」
カティは魔の森からの顛末をテロに語る。途中ユホに首を絞められた所を話す時にはテロが『殺す』と言って出て行こうとしたのを必死で止めた。
「…というわけで、協力してくれるらしいです」
「…カティ、この指輪がどれほどの事かわかってないのか…」
「え?単なる通信機の魔具でしょ?」
その答えを聞いてガクッとテロが落ち込む。ソファで頭を抱えるテロにカティは首を傾げるばかりだった。
「これは魔具ではない。古の道具だ…。しかも…魔の弟帝と怒帝の契約なんて…」
「えぇ!これ魔具じゃないの?ネ。ネストリ嘘ついた…でも何で?」
「……」
『主従の指輪』の契約、それは神族・魔族共に自分が『主』と認めた者にだけ行う特別な契約で、その契約は長い生涯の中でも一度しか行われない。どの種族とも交わせる契約だが『帝』クラスの者がそれを結ぶ事はほとんど無く、五帝がカティとの契約を望んだがそれをテロはカティの精神的負担になると遠ざけていた…だがそんなテロの気持ちを知ってか知らずか、勝手にどんどん自分の価値を高めてしまうカティにテロは溜息を漏らす
その事をカティに説明するとさすがのカティも「ど・ど・ど・どうしよう。破棄って出来るの?」と蒼い顔をしてパニックに陥っている。
「破棄は出来ない。もう指輪も外れない。諦めろ。それに魔の森にカティが近づけないのはどうしようもないのだから、協力して貰えるのならして貰えばいい」
「う…い、いいのかなぁ…」
「せっかく結んだ契約だ有効に使ってやれ」
「う…うん。じゃあ…遠慮なく…」
項垂れるカティにテロは顎に手をかけ上を向かせキスを落とした。そして突然の事に驚くカティの目を見ながら、
「ただし!私を差し置いてカティと契約しているというのは気に入らない」
と言うとテロは今度はカティの手を取り、ネストリ達と同じ様に指輪に詠唱しようとする。一瞬ぼぉっとしたカティだったが、ハッと何をされるか気付き、慌てて自分の手を取り戻した。
「な、何してんのっ!?」
「私の名も刻む」
「刻まなくていいっ!!」
「それでは私の気がすまない」
「知るかっ!!!」
この時はテロの詠唱を逃れたカティだったが、翌日起きた時にはしっかりと指輪の細工が変わってるのを見て、カティは「うぅ〜〜〜〜〜〜」とうなり声をあげたのだった
一日ぶりです。
カティちゃっかりネストリの罠にはまってた事が判明(笑)