怒帝 ユホ
立て続けに予想外の事ばかりが起こって固まってしまったカティをここぞとばかりにじっくり観察するネストリ。そこへ少し離れた場所から咳払いが聞こえる。ネストリがそちらに視線を向けると先程から片膝をついたままずっと同じ姿勢でいるユホの姿があった
『…ん?あぁ、ユホすまない。忘れてました』
『いえ…、そろそろ事情をお伺いしてもよろしいでしょうか?』
『そうですね。貴方にも少し協力して頂きたいですし…天妃様?』
ネストリの視線がカティに戻されて問いかける。カティはハッと意識を戻したが、天妃様という呼びかけにすぐ素直に返事が出来ない。
「……」
『?』
「あの…その『天妃様』って止めて貰えると嬉しいんですけど、地上にいる間は何も出来ない普通の人ですし、カティで良いですから…」
普通の人間は魔の森を破壊なんてしないだろ…とユホは心の中で思いつつ、改めて『天妃』と呼ばれた人を観察した。それに気付いたネストリに凍り付くような視線を向けられ、ユホは慌てて俯く。
『…わかりました。ではカティ様でよろしいですか?先程カティ様に失礼をしたこの魔の者はユホと申します。ユホこちらに来て挨拶を許す』
許可が下りた事によってユホは膝をついた場所からネストリとカティの側に歩み寄り、そこでまた膝をついて敬意を示す。
『ユホと申します。この地上との境の魔を統治しております』
「あ…それで…」
何故、自分が彼の攻撃の対象となったのかわからなかったカティは、今のユホの言葉で納得する。カティはネストリの外套から降りると膝をついたユホの高さになるように屈んだ。そしてカティから出た言葉にユホは驚かされる
「ほんとにすみませんでした。まさか自分の力で魔の森に危害が加わるとは思ってもみなかったので…」
そう言うとカティはユホに頭を下げた。カティから出た言葉と行動にユホは驚かされる。今までユホが出会った皇族・貴族達は自分に非が有る無しは関係なく、謝罪をしている姿などを見た事が無く、この場合もユホは先程の自分の行動を咎められる事はあっても、まさか謝られるなど想定していなかった。
『ユホ…カティ様の頭をいつまで下げさせておくつもりだ』
ネストリに言われるまでユホは目の前のカティに何も言う事が出来なかった。
『こちらこそ…申し訳ありませんでした』
その言葉に顔を上げたカティがにっこりと笑顔をユホに向け、手を差し出してくる。明らかに握手を求めるその手にユホの額から汗が流れ出る。
「じゃあ仲直り!」
『お言葉だけで…あの…その…お手を握るなどは…』
「大丈夫だよ!ちゃんと畑仕事の後も手洗ってるし、今日は特に薬品扱ったから綺麗に洗ってるよ?」
全くユホの言葉を理解しないカティに、彼はオロオロとするしか出来なかった。そんなオロオロとするユホを見てネストリが吹き出す。
『ネストリ様…』
『くくっ…怒帝のユホが…くくっ。すみませんカティ様、ユホが困っている様ですよ?』
「何で?」
『さすがに天妃様のお手を握る勇気を持つ物はなかなか居ません』
「…天妃とかで断られるとムカつく。…首締めたんだから…握手ぐらい…」
『ぐっ…』
その言葉にユホは蒼くなり、ネストリはもう我慢出来ないのかお腹を抱えて爆笑し、カティはそんな二人を見て眉間の皺を深くしていくのだった
怒帝ユホです。魔族は生物の感情を扱う者達なので、、、
ネストリは皇族なので特に〜帝というのはありません。