魔薬
テロの腕の中のカティの眉間にぐうぅと皺が寄る
魔を体内に入れるなど普通の人間であれば即座に自我が保てなくなる行為だった
自我を無くした人は意味なく流離い朽ち果てる
いくら天妃といえどカティは人間、テロの身体に緊張がはしる
「カティ?」
「……」
「身体に何か異常はないか?」
「……」
返事が無い事にテロの焦りが出てくる
「カティ。今から無理に吐き出させる…辛いが我慢してくれ…」
カティの顔を上向けると、口元を覆う両手を外す
そして口の中に指を入れようとした瞬間、カティの口から声が出た
「うぅぅぅ〜不味すぎる…これ…不味すぎる…。ありえない天才薬師と言われた私とした事が…こんなに不味いものを作ってしまったなんて…」
「カティ?」
「はっ!!テロっ!!『天帝の銘』は?」
カティの眉間の皺が無くなったと思ったら、すごい勢いでテロに向かう。
テロがカティの前髪をあげるとそこに先程まで輝いていた『天帝の銘』が消えていた
「消えている…」
「やったぁぁぁ!!!やっぱり神の波動は魔で相殺出来ると思ってた私の考えは間違いじゃなかったんだわっ!!」
くぅぅと歓喜して躍り上がるカティと、対照的にテロの機嫌は急降下していく
テロは躍り上がるカティを無言で抱え直すと額に手を翳す
「わっ!!ちょっちょっと…何してんのっ!!!」
カティにはわからないが、テロはカティの身体の中から微かにまだ波動が出ているのを感じていた
自分の考えが正しいか試すようにテロは翳した手に自分の波動を纏わす。
「あ…あつ…熱いっ」
カティがテロの手を退けようとするが、彼は許さない。
すると、消えたはずの『天帝の銘』がゆっくりと再び浮かび上がった
「なるほど…」
「熱いから離してっ!!何が「なるほど…」なの!!」
カティが手を退けるのを今度は止めなかった
テロの手が額から離れると、『天帝の銘』もすぅっと消える
カティの『天帝の銘』は消えたわけではなく、彼女の体内に鎮められただけでテロの強い波動に包まれるとすぐに浮かび上がる。
テロは一先ず銘が消えたわけではない事に安心した………が、怒りは収まらない
「『魔薬』を飲むなんて…何を考えていた?」
「あ…」
テロの腕の中のカティが目を伏せ気まずそうにしている
「下手すれば廃人になってたかもしれないんだぞ…」
「ちゃんと分量を計算したし、ならないわよ。あたしを誰だと思ってんの?天才薬師カティ様よっ!!」
「どうしてそんな事がわかる…」
「だって作った時にいろんな人で実験……あ……」
テロは彼女と天界で過ごした長い間に忘れていた。
カティが結婚で天界に上がる前に地上でつけられていた名を…
彼女は
『ミライナのマッドサイエンティスト』
と呼ばれていたのだった。
ミライナとはカティの村の名前です