We are believer 前編
入学式──
「本日はお日柄もよく──」
ロイヤーは講堂の壇上に居た。
首席合格者として、入学の挨拶を任されていたのだ。
壇上では特に変わったことを言うでもない。無難なスピーチを続けていたロイヤーだったが、退屈そうに自分の話を聞かれるのも心外だ。
そもそも出すぎた真似をするなと言われていたのでこの原稿を作ったが、そんな平凡な原稿は読んでロイヤーは退屈だ。
成功と失敗の境をチャレンジする。その美学を貫いてこそだろう。
決まりだ。
ダンッ──
ロイヤーが原稿用紙を持つ両手を壇上に突き立てた。
「最後に、僕の抱負を述べたいと思います。僕は──」
講堂がざわめきで溢れかえる。
喧騒が頂点に達したと感じた時、ロイヤーは高らかに宣言した。
「僕はこの学校で最強の魔法使いになります」
ざわめきは一段と強くなった。
「ここにいる全員を圧倒するような、そんな魔法使いに僕はなる。もし、同じようなことを考えている人がいるなら──」
そしてロイヤーは力強く言い放つ。
「僕が相手になります。空き時間ならいつでも」
ロイヤーはいたずらっぽく笑顔を作る。
彼が壇上を降りるまで、ざわめきが収まることはなかった。
「学校の歴史に名を残す天才と聞いていたが、これほど素行に難があるとはな」
彼にスピーチを依頼した教諭は頭を抱えていた。
「すみません。なにせ、生徒がつまらなさそうにしていたので」
「スピーチとはそれでいいのだよ」
「つまらないやつだと思われるのは心外だったんです」
「はあ……もう行ってよろしい。次は慎みたまえよ」
「わかりました」
ロイヤーが職員室を後にしたその時だった。
「よお、首席」
「君は……」
「マイケル・レイズ。一年。お前、いつでも相手するって言ってたよな?」
「ああ、そういう感じですか」
断る理由もなかった。
「いいでしょう。僕も、体を温めたかったところです」
二人はコートに出る。
ロイヤーがこのコートに足を踏み入れたのは、理事長にリベンジを果たしたあの日以来だ。
「スリーカウントだぜ?」
「それは二で攻撃しろってことですか?」
「なにいってんだ三で攻撃に決まってんだろ。それより先に攻撃したら問答無用で負けだ」
この手の人間でルールをしっかり守るのかと、ロイヤーは感心した。
「いくぞ?」
「どうぞ」
「一……」
「二……」
「三!」
刹那、二人は振り返りざまに杖を抜いて、魔法を放った。
タイミングはほぼ互角。
マイケルはロイヤーのいた位置をめがけて光線を放った。
しかしそれは僅かに逸れていてロイヤーが回避するには十分な隙だった。
一方、ロイヤーの魔法は抜群のコントロールでマイケルを目掛けていったものの、彼の高い身体能力が命中を回避。ロイヤーの光線が彼を追おうとするも、その範囲外に逃げられてしまった。
だが二撃目で差が出る。
ロイヤーの二撃目が彼の地面への着地際、足元を捉える。牽制には十分だ。
動きが鈍ったマイケル相手にロイヤーはすぐさま次の矢を放ちに距離を詰める。
しかし、マイケルもただではやられない。
体勢を崩しながらも、彼は踏ん張って魔法をロイヤーに向けて放つ。
光線はロイヤーの右へ外れるかと思いきや、彼の体の寸前で僅かに変化し、掠るような形でロイヤーに当たった。
だが勝負はあった。
ロイヤーは体勢を崩したマイケルの頭に杖を向けていて、いつでもトドメを刺せる状態を取った。
マイケルが息を飲んでから、杖を捨てて両手を上げる。
「負けだ。さすが首席だな。大口叩くだけあるぜ」
「いえ、僕の負けです」
マイケルはその発言に驚いた。どう考えても自分が負けたのは明白だったからだ。
「は?何言ってんだよ」
「一撃も当てさせる気はなかったので。一撃与えた君の勝ちです」
「……ハハッ。だいぶ舐められてたんだな、俺」
「褒めているんです。君は僕の想像より大分強い」
「そうか……褒めてるのか?」
「褒めてますって」
マイケルは複雑な笑みを浮かべた。
「それよりあんなに曲がる魔法初めて見たぜ!どうやってるんだ?」
「それはですね……魔術を両側にかけて──」
「そんなの出来んのかよ。すげえ!」
「やってみたら意外と簡単ですよ?」
お互いに談笑している時、突然校舎から声が聞こえた。
「何してる!」
それは先程ロイヤーに注意をしていた教諭だ。
「教室に戻らんか!」
明らかに怒っている。先程注意したばかりだと言うのに、もうこのような独断行動を取っているその協調性の無さと、それでも首席という実力が、教諭の鼻について仕方がなかった。
「これで、僕ら二人とも問題児ですね」
「入学式で全生徒煽るようなやつと一緒にすんなよ」
そして二人は共に教室へと戻るのだった。
一年Aクラスには二人の問題児がいるというのはすぐさま話題になった。
特にその二人が入試の首席と二位ということもわかっていたので、彼らに挑む者は後を絶たなかった。
時には上級生が彼らに手解きを教えようとして、返り討ちに会ったりした。
そして、最強のこの二人の模擬戦は人気を博したが、いつも僅差でロイヤーが勝利した。
二人は高め合いながら、学校で最強の二人として成長していき、三年生を迎えた。
廊下を歩きながら、二人は自分たちの将来について語り合う。
「なあロイヤー。お前はどのキャンパスなんだ?」
「僕?僕は……マイケルと一緒がいいです」
「えー、やだよ」
「やだって酷い言い方ですね」
「お前が来たら俺が一番になれねえじゃん」
「……ああ、討伐院の就職の話ですか。マイケルなら取ってもらえますよ」
「どうだかなぁ。俺は自信ねえよ」
討伐院に入れるのはその大学でも選ばれた一部だけ。
特にケンブリッジ、ポーツマス、リヴァプール、バーミンガム、マンチェスター、ヨークシャーのカレッジそれぞれの首席卒業予定者は、討伐院に高待遇で内定することが決まっていて、それ以外の就職戦争からは一足先に抜け出す格好となる。
「お前はいいよなぁ。父ちゃん、討伐院なんだろ?俺は遥々アメリカから来たから、縁なんてなんにもないぜ」
「バカ言わないでください。あの人はコネとか一番嫌いなんです」
「お前の父ちゃんらしいや」
「ええ、私の目指す魔法使いですから」
その言葉に影響を受けたからか、マイケルは宣言する。
「よし、決めた!俺、お前を超えるよ!」
「なんですか?急に大声出して」
「一緒のキャンパスでお前を超えて、討伐院の推薦を勝ち取る!これはロイヤー、お前への挑戦状だ!」
その挑戦状は、ロイヤーの心にも火をつけた。
「いいでしょう。全力であなたを潰します」
「相変わらず大口叩くじゃねえか」
そして、二人は息があったようにコートへ向かった。
また彼らの決闘が始まる。
問題児とはいえ、彼ら二人は常に学年の首席と次席だった。
なので彼らが進学の意向を示せば、大学は問答無用で彼らを受け入れる。
それが、絶対の実力主義を謳う名門、王立魔法使い学院大学の方針だ。
「ねえ、本当に来れないの?」
「すまないな。ロイヤーの入学式だと言うのに……」
家の玄関口ではジャスティンとローラが話し合っていた。
今日はロイヤーの晴れの舞台。自らと同じ王立魔法使い学院大学の生徒になる日。
にも関わらず、ジャスティンの元には仕事の依頼が来ていた。
「これを君からロイヤーに渡しておいてくれ。俺からの入学祝いだと伝えてくれ」
そしてローラにほうきを預けた。
柄まで立派な大きなほうき。それは魔法使い専用の高級なほうきだった。
「……本当に気をつけてね」
「ああ、この街を守るのが魔法使いの仕事だが、家族を守るのは父の仕事だ」
そうすると二人はハグを交わし、ジャスティンは扉を開けて仕事に向かう。
風が強く吹いていた。
まるで波乱が彼に降りかかると言わんばかりの唸りを上げて──
「見ろよ。あれがロイヤー・ウィリアムハートじゃね?」
「ほんとにイケメンだ……」
「でもかなりのワルだって聞いたぜ?」
「マジ?優等生っぽいけどなぁ」
「魔法すごいんだよね」
「確か彼が首席合格者だよ」
「じゃあ隣にいるのはマイケル・レイズ?」
大学に来るやいなや、ロイヤーは自分が有名人であることを知ることになる。
ロイヤーを見るなり、同じ学び舎に通う学生たちが自分をコンテンツとして話題を広げる。
すっかり名の知れた魔法使いの原石だったのだ。
「まるでスーパースターだな」
マイケルがニヤニヤしながら見てくる。
「君の方こそ。次席で合格だなんてすごいじゃないですか」
「首席に言われても嬉しくねえよ」
「じゃあなんて言えば良かったんですか?」
しばらくすると、ロイヤーは新入生代表挨拶を任されることになっているので二人は別れた。
「今度は人を煽ったりすんなよ?」
いたずらっぽく笑ってマイケルが念を押す。
「あれは若気の至りですから」
ロイヤーは照れを隠すように、あのような行動には出ないことを示唆した。
マイケルと別れたあと、ロイヤーは空を見上げた。
どんよりとした空は、嵐の来訪を感じさせる。




