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奇貼捨録  作者:


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氏没埋(しぼつまい)開催案内

(提供:30代女性/関東在住)


「私の地元で、毎年桜が咲く前に行われる行事があります」


そう言って投稿者が差し出したのは一枚のチラシでした。


時期は毎年一月下旬。

場所は、市内を流れる川沿いの古い桜並木。


行事の名称は――


氏没埋しぼつまい


聞き慣れない言葉です。


■ チラシの内容(原文まま)


上部には淡い桜色の背景。

まだ花の咲いていない枝の写真。


中央に、大きな文字。


氏没埋 開催のお知らせ


本年も、桜の花が美しく咲きますように皆様とともに祈願いたします


下部に、説明文が続きます。


「桜の下には死体が埋まっている」という言葉を聞いたことはありませんか?

氏没埋は、古来より伝わる“うじ”を鎮める儀式です。


桜の花が咲く前の木に埋まっている氏に今年も赤い、赤い花が咲きますようにと願いを込めて根を斧で傷つけます。


“傷つけます”という表現が妙に直接的です。


■ 行事の流れ


チラシには詳細な進行も記されています。


一、集合(午前五時)

二、清祓い

三、氏名読み上げ

四、斧入れ

五、黙祷


参加費は無料。

事前申込不要。

どなたでも参加可。


ただし、「斧入れは当番制」とあり地区ごとに順番が決められているといいます。


■ 斧入れ


投稿者は子どもの頃、父に連れられて何度か参加したそうです。


まだ暗い時間帯。

吐く息が白い。


桜並木の一本の前に白布が敷かれる。


その木は毎年同じ。


幹の根元に過去の傷跡が幾重にも残っている。


当番の人が前に出て静かに斧を振り下ろす。


ゴッ、と鈍い音。


一度では終わらない。


三度。


樹皮が裂け内側の淡い色が見える。


その瞬間周囲の大人たちが小さく唱える。


「今年も、赤い花を」


■ “赤い”花


桜は本来、淡い桃色。


しかしチラシには、なぜか「赤い、赤い花」と強調されている。


投稿者は言います。


「満開のとき、少し色が濃い気がするんです」


写真を見せてもらいました。


確かに、並木の中央にある一本だけやや赤みが強い。


加工ではない。


毎年そうだという。


■ 氏とは何か


チラシには小さく補足があります。


うじとは、土地に眠る名もなきおやを指します。


埋められた氏が静かである限り花は咲き続けます。


“名もなき祖”。


しかし、進行の中には「氏名読み上げ」とある。


名がないはずなのに名前を読む。


投稿者は、その場で読み上げられる名前を今でもいくつか覚えていると言いました。


知らない名字。


だが、毎年少しずつ増えている気がする、と。


■ 開催案内(今年)


投稿者が持参した今年のチラシには、昨年までなかった一文が加えられていました。


※本年より、参加者の皆様にも斧入れ後、根元に手を触れていただきます。

ぬくもりを感じましたら、静かに目を閉じてください。


ぬくもり。


一月の早朝。


外気温は零度近い。


それでも、根元は“あたたかい”と昔から言われているそうです。


■ 投稿者の違和感


今年、投稿者は参加していません。


理由は単純です。


「斧を入れた翌年、その当番の家で必ず誰かが亡くなるんです」


事故や病気。

高齢者が多いとはいえ、偶然とは思えない頻度。


だが地元では“順番だから仕方ない”と受け止められている。


氏没埋をやめるという選択肢は誰も口にしない。


◆作者より


「桜の下には死体が埋まっている」


有名な一節です。


美しさの裏にあるもの。

命の循環。


氏没埋は、それを隠さずむしろ肯定する儀式のように見えます。


根を傷つけることで花を咲かせる。


痛みと引き換えに色を濃くする。


赤い、赤い花。


それは本当に桜の色でしょうか。


今年も一月、夜明け前の並木で斧の音が響いたはずです。


春になれば、またあの木だけが少しだけ赤く咲く。

そして誰かの名前が、ひとつ増えるのかもしれません。

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