雨の日に拾った犬
その日は、最悪だった。
朝から天気予報は外れ、夕方になって突然の豪雨。
傘を持っていなかった私は、コンビニまで全力疾走し、仕方なく高いビニール傘を買い、結局全身びしょ濡れになってアパートへ向かっていた。
そんな帰り道だ。
道端に置かれた、少し潰れた段ボール箱。
中から、かすかな動く気配。
私は足を止めた。
「……まさか」
胸がざわつく。
こういう展開、知っている。
物語でも現実でも、運命はいつだってこういう形でやってくる。
段ボール箱の中を覗き込むと、小さな生き物が丸くなって震えていた。
濡れた毛。
小さな体。
頼りなさそうな背中。
「……犬だ」
私は、即座にそう結論づけた。
顔を上げたそいつは、細い目で私を見た。
じっと、疑うような視線。
短く、低く、「ニャ」と鳴いた。
……鳴き声の個体差だろう。
「こんな雨の中、ひとりで……」
私は段ボールごと抱え上げた。
腕の中の犬は、驚くほど軽かった。
(……え、人間?)
腕の中の犬は、心の中でそう思った。
(しかも、距離感が近い)
アパートに着き、タオルを取り出して体を拭いてやる。
「ほら、犬は濡れると風邪ひくからな」
犬は無言でこちらを見つめている。
目が合う。
逸らされる。
(犬って、こんな扱い受けるんだっけ)
私は気にしない。
「名前、どうしようかな。ポチ……うん、ポチだ」
犬は、はっきりと嫌そうな顔をした。
次の瞬間、軽やかに床を蹴り、テーブルの上に跳び乗る。
「あ、元気だな! 運動神経いい犬だ!」
(それ、完全に猫の跳躍力だからな)
犬は心の中で静かに訂正した。
こうして、
犬だと思っている人間と、
猫だと分かっている猫の、
奇妙な共同生活が始まった。




