きらきら光るゴキブリの話
「キャーーッ!!!」
お母さんのでっかい悲鳴が家中に響きわたって、僕はソファから転がり落ちそうになった。
「どうしたの?」
悲鳴がした台所にかけつけると、お母さんがイスの上に飛び乗ってがたがた震えていた。
「どうしたのってば」
「ああ、恭ちゃん。大変よ! きらきら光る、変なゴキブリが出たの!」
お母さんはそう言って壁を指さしたけど、そこにはもう何もいなかった。
それにしても……
「光るゴキブリ? それって、新種ってこと?」
「知らないわよ! ああ、すぐにゴキブリホイホイを買ってこなきゃ」
お母さんは金切り声を上げた。虫に弱いんだ。あんなに面白いのに。
僕は虫が好きだ。足がたくさんあるところも、羽があって空を飛べるところも、柔らかい虫や固い虫がいるところも、面白い。だけど我が家では、カブトムシを飼うことだって許してもらえない。自由研究を虫の観察にしたいと言ったら、怒られてしまった。三つ下の妹も、お母さんに似て虫は大嫌いらしい。お父さんもそんなものに興味はないって言うし、つまらないよ。
だけど、きらきら光るゴキブリが家にいるのなら、ぜひ捕まえてみたい。本当に新種だったら、好きな名前をつけることもできるしね。
その夜、僕はゴキブリを捕まえるための罠を作った。
たまねぎをすりつぶして、ガラス瓶の中に入れた。そして瓶の中にはバターをまんべんなくぬって、蓋はせずに台所のすみっこに置いた。そうすると、タマネギにひかれてやってきたゴキブリが瓶の中に落ちるらしいと何かの本に書いてあった。しかも、バターをぬっておくと、ゴキブリは瓶をはい上がることもできないらしい。
次の日の朝、再びお母さんの怒鳴り声が響いた。
「なんなの、この瓶!!」
台所に置いた僕の罠が、ゴキブリでいっぱいになっていた。僕は瓶を振り、きらきら光ってるやつがいないか調べた。
「恭平!! はやく!! 捨ててきなさい!!!」
「その前にお母さん、この中にきらきらのやつ……」
「いないから!!」
僕はあきらめて、瓶の中身を外に捨てに行った。
その夜僕が子ども部屋で漫画を読んでいると、ブーンとにぶい音がして、何かが僕の漫画に飛び乗った。
思わずはたき落とすと、それはきらきらと金色に細かく輝きながら逃げていった。
「ゴキブリだ!!」
僕は慌てて追いかけたけど、ゴキブリはもうたんすの後ろに逃げ込んでしまった。
漫画を見ると、金のラメが少しくっついていた。何だろう? どこかで見覚えがあるような……。
「あ! ミイのマニキュアだ!」
妹のお気に入りのマニキュア液。それがふとした拍子でこぼれ、ゴキブリにかかった。そして、きらきらのゴキブリが誕生したのだろう。
「なーんだ、新種じゃなかったのか」
念のため、たんすの後ろをのぞいてみたけれど、金のゴキブリはいなかった。
きらきら光るゴキブリは今も、僕の家のどこかにひそんでいる。




