表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/7

海賊との交渉

 あくまで憶測として考えるならば、勇者は災厄と戦う前に己の力を試しているとすれば修行の旅に出たと見ることができる。しかしそうなると世界が災厄に見舞われている今となって何故って思うが。


「私達がアイツに出会ったのは休憩で島に立ち寄った時だ」


 海の上で生きる海賊とはいえ陸が恋しくなるのは自然なこと。目的地に急用でもない限り上陸できる島があるなら探索も兼ねて寄り道する。何か見つかれば獲るし何もなくても隠れ家として開拓する。探索隊を出して報告を待っていると、若い男が海岸からこちらをじっと見ていた。島の住民とは思えない服装だったし、何やらただ者じゃない気配を感じてアン自ら相対した。

 今まで見たことがない目をしていた。ただ歴戦の猛者であるアンの勘が察知したのは、男は何かを欲しているようだった。

 

『僕は、君の持っているものが欲しい』


 この一言で彼の目が濁り、アンも即座に危険と判断した。そして・・・


「私は敗れ、多くを奪われてしまった」


 敗れはしても生きているし見たところ大怪我をしているわけでもなさそうだ。


「奪われた?」


 アンはそれ以上語ろうとしなかった。むしろ固く喰い縛り、全身震えている。行動を制限しているから僅かに動かすことも出来ないはずなのに。


「・・・あんたはどうしたい」


「は?」


「俺はわけあって勇者を探している、そこはあんたの読み通りだ。この海の上で行動するなら船は欲しい。俺も立場としてはあまりいい方じゃないからあんたみたいな立場の人間の方が都合がいい。勇者に負けてそれで終わるような性格もしてなさそうだ」


 言ってみて思うんだが一体勇者は何をしているんだろうか。世界の危機に海賊と戦って(こんな事態でなければそれだけでお手柄だが)る暇があったなら何故肝心の災厄と戦わない。


「真の勇者に何を奪われたのか知らないけど取り返したいんじゃないのか?お互い利害は一致している筈だ。そんなわけで俺をこの船に乗せて勇者の元まで運んでくれ」


 しばしの沈黙。俺が勇者のいる方角を知っているということはまだ秘密にした方が良さそうだ。まずこの船長と協力関係を築く方がいい。

 

「お断りだ」


 銃を持つ手に衝撃が走った。銃弾を発射した時の衝撃ではない、アンの海賊帽が下から突き上がり銃口を真上に向かせた時の衝撃だった。


(何で動ける!)


 するとアンは体を回転させ握った拳を横薙ぎに振ってきた。握られていたハンマーがユーシャの顔面を捉え、水平に通り過ぎた。


(手応えがない。避けた?いや、首から下がまだある!)


「何で動けるんだよあんた、しかもなんだその武器、ハンマーにしては形が歪つだな」


 まるで何事も無かったように頭と首がつながったユーシャがそこにいた。


「私はあんたじゃない、アンだ。そしてお前が言うな、ユーシャ。確実に頭吹っ飛ばしたのに何で無事なの」


 (流石は大海賊団を率いる船長だ。忍術を破って有無を言わさず殺しにくる、交渉の手綱を握ったと思ったがそう簡単にさせてくれない。しかもあんな重い物を片手で振り回せるとかどこにそんなパワーがあるんだ)


 アンは目に殺気が再び宿り、先頭態勢になり武器を構えている。

 

「よくも私の船で、船長の私に対して命令下せたわね。外部の者の命令に従う船長がどこにいる、この船で命令を下していいのは私だけだ。どこに行こうが何をしようがこの船の全てにおいて私が決めることだ」


 銃をまた向けるが、アンは体勢を変えない。この場で普通なら銃を持っている方が遥かに有利な筈なのに、何故動じず構えていられるのか。

 ユーシャは銃を下ろした。


「じゃあ、部下にしてくれ」


 この行動でもアンは構えも表情も一切変えない。


「お前、私を殺して船を奪うと考えないのか」


「あってたまるか。こっちは一刻も早く勇者を探し出さないといけない。任務をこうして話してしまったこと自体も依頼者に対して違反しているが海の上を数日漂って無駄に消費したんだ。任務のために死ぬわけにもいかない、ここであんたを殺してもすぐに部下たちの相手だ。しかも俺は海に詳しくないから船は操れないし悪天候の乗り越え方も知らない。転覆するか永遠に漂流しておしまいだ。こんなことしている間にも勇者との距離がどんどん離されるかと思うと色々焦りが生まれてくるんだよ」


 アンは武器の構えを解いた。

 話が通じたかと思ったが、少し考える素振りを見せた。


「話は理解できた。でも勇者のところまで運ぶのは不可能だ。私も色々な所を探したけど手がかりすら掴めなかった」


「俺は持っている。勇者がいる方角を指し示す物をな」


 アンの目が見開かれた。


「それは本当か」


 この海賊が食いつくとしたら最早これしかなかった。最後の最後まで隠しておきたかったが他に方法はない。


「嘘は言わない。だから・・・」


「だったら私達のやり方で決めさせてもらう」


 海賊流の交渉。ユーシャの知識では陸にいた悪党達が用いていた方法だと賭け事か決闘が常套。

 

「・・・分かった。ただ一つ頼みがある」


「言っておくがハンデはやらんぞ。お互い全力をぶつけ合うのが私の流儀だ」


「・・・言質は取ったぞ。その流儀を崩さないためにも・・・全力を出せるように飯を食わせてくれ」


 こういう己の流儀を重んじる人間に乗っかる形で別に無茶ではない頼みはまあいっかと考える。含みとしてもし流儀に反するという言い方をすると通りやすいのだ。

 そして思惑通り飯は食べさてもらえたのだが海賊料理というやつか、忍びの修行で虫だろうが草だろうが食べれる物なら何でも食べるように体を慣らしていたが、飯の味はスバイスがメチャクチャ濃かった。口の中に衝撃が走ったのは生涯忘れまい。

 ユーシャはアンの言葉からこれから行うであろうことは予測できていた。十中八九決闘であろう。

 数刻後。ユーシャは通りがかった島で降ろされ、遅れてアンも降りてきた。


「それで一体何を行うんだ」


「その前に確認だがユーシャの望みは私達を足にして勇者を追う。お前が勝てば私の判断でその望みを叶えよう。逆に、私が買った場合お前が持っている勇者の行方を示す物を渡してもらう」


「それで合っている」


「海賊同士の勝負は賭け事或いは果し合い殺し合い奪い合いの二つだ」


 前者はともかく後者に関して言えば全部ひっくるめてる。

 そんな会話の合間に気づけばアンの船が島から離れていった。

 アンはそれを尻目にまだ話を続ける。


「勝負は大まかに奪い合いだ。お前の勝利条件は私よりも先に船に戻ること、一足でも先に着けばお前の勝ち。我々はお前をどこへだろうと連れて行こう。私の勝利条件はお前が船に戻る前にその石を奪うことだ。その後のお前は私の次第だ」


 船を奪うが先か、石を奪うかが先の勝負ということだ。


「お互いどんな方法を使ってもいい。正攻法奇策卑怯卑劣は法も決まりもない場では武器と同等だ。私の部下達も勝敗に文句は言わないよう言いつけておいた」


「陸地と船の距離が遠くないか?」


「海の浅瀬半分、泳いで渡れる距離半分くらいだ。あの位置がこの島で常に出航できる最善の位置、陸地で窮地に陥った時に船に逃げ戻るならばこの程度の距離は難なく切り抜けられなければ捕まる。その後の事は大抵どうにもならない」


 これではまるで勝負と称した入団試験だ。だがユーシャには分かる。このアン・ヴァイキングという船長はユーシャの持つ黒曜石を欲しがっているのは当然だが、それ以外にもユーシャに興味を示している。


 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ