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勇者の手がかり

 暗い部屋に運ばれた。

 船の揺れが酷い。海の波が酷いのだろう。

 これから何をされるのか、想像できるとすれば血気盛んな輩の玩具。抵抗する気などなかったのだが、厳重に椅子に縛られるということはあのアンという船長が忍びというものに警戒しているのだろう。

 実際間違っていない。部外者が信用されるのは非常に難しい。

 この場合利害の一致か、向こうが欲しい情報を持っているか、仲間となって信用されるだけの貢献をしなければならない。


「船長、あいつどうするんですか。殺して海にでも沈めちまいやしょう。所持品は全部没収しましたしこのまま置いといても利用価値ないですよ」


「・・・私の勘だが・・・・」


 声の大きい下っ端の話が聞こえて物騒なことを言っている。

 船長と話しているのか。

 さて、一刻も早くここから抜け出し勇者を探さないといけない。所持品は全て没収したと言っていたが、服の重みから察するに運よく黒曜石だけは没収されなかったようだ。黒いから目立たなかったんだろう。

 これを無くせば勇者の手がかりが無くなってしまう。

 扉が開き中に入ってきたのはアン・ヴァイキングだった。


「どうだ、気分の方は」


「良くない。寝ることしかできなかったよ」


 おかげで少しは元気も出てきたしいつでも忍術を発動することは可能だ。

 

「あまり恐怖を感じていないようだな。泣く子も黙るを歌っている海賊としてこれはこれでプライドを傷つけられるところだが」


「それで何か用か?」


「忍び、お前に聞きたいことがある。お前の任務とは何だ、あのクズと関係があるんだろう」


 アンの目が真っ直ぐにユーシャを見ていた。鋭い目をした猛禽類を思い起こさせる。さっきは感情的になっている節があったが、今回は真顔で何の感情も無い。ユーシャにはこの顔見覚えがある。顔というよりも目だが、暗殺任務を遂行するときの忍びの目だ。

 尋問においてこの目は相手を萎縮させるのに効果的な目だ。大抵の人間は死を恐れる。死を恐れる要因にも色々あるが、獲物を狩る獣の目を目の当たりにするとかなりビビる。

 最もユーシャ・イガは幼い頃から訓練で耐性がついている。

 今更だが、ユーシャ・イガは忍びの一族出身だ。忍びの一族は地図にも載っていない秘境の土地で里を作って暮らし、秘伝の力である忍術を駆使して暗殺、情報屋、スパイ活動などを生業としていた。

 ユーシャ・イガの使える忍術属性は影。戦闘力ゼロの最弱忍術属性と言われているが、戦闘以外のことにおいてこれほど多様性が効く属性は無いとも言われている。戦闘用忍術を使える忍びも少なくないが、派手なことを忌み嫌う気がある忍びの一族において、陰ながら一番忍びらしい忍術とも言われている。

 忍びは幼い時から過酷な訓練をする。重要なのは体の身軽さと柔軟性、強靭な精神力、慎重かつ冷静な判断な選択をできる頭脳、忍術の多様性である。

 ユーシャ・イガが若くして故郷の里を出れたのはこれらをこなせたが故の優秀さにあったからである。

 世間を知ることは仕事や任務において重要なことだからある程度は里も許容している。最大限目立たず矢面に立たず家系を知られないことを条件としてそれを成せると思われたからユーシャ・イガは許された。

 実際本人も目立とうとしたわけではない。だが世間に対する知識の欠如が招いてしまったこと、つまり名前と実績が周囲の過大評価により大いに目立ってしまったのである。これは忍びとして失格の烙印を押される案件である。

 実際故郷にユーシャの話が伝わっていないわけがない。まだ忍びであるということが知られていないだけマシだったかもしれないが、故郷からの追放はやむを得ないだろう。

 

「一体何の話をしているんだ。クズとは誰のことだ」


 額に銃口が突きつけられた。これ以上無駄なことを言えば迷わず弾を打つのだろう。目に殺気が出ている。


(せめて心の臓とかに突きつけて欲しいな。額は昔から敏感で何か突きつけられると変な痒みを感じるんだ)


「分かった分かった。任務は人探しだ。それとクズというのはどこのクズなのか分からないから答えようがない」


「詳細を聞かせて貰おう。お前が探しているの誰だ」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 腹の虫が返事したようだった。

 そもそもユーシャ・イガはここ数日何も食べていない。いい加減集中力に限界がきた。


「おい」


「あー、すまんがもう何も話す気がないよ。銃で打たれる前に飢え死にするんで」


 ユーシャは目を閉じた。いよいよやばそうだ。


(任務は失敗に終わり、真の勇者も見つからずに世界は滅びる。申し訳ない、社長。俺はここまでのようだ。任務を全て任せてしまって申し訳ない。あ、でもこの黒曜石がなければ勇者の方角分からないんだったか。これじゃどうしようもないな)


「・・・・・・・・・・・・・・」


 アンが踵と返し扉の取手に手をかけた。


「・・・・・?・・・・・・!」


(体が・・・動かない!)


 体が痺れたわけでも、凍りついたわけでもない。体が固まったかのように動かない。


(口すら動かない。一体どうなって・・・)


 考えられることは・・・・。

 背後に気配を感じ振り返ろうとしたが首も動いてくれない。

 

「無駄だよ。あんたは動けない」


(くそ!よくも私を欺いたな)


「空腹なのは本当だよ。椅子にきつく縛り付けたのもあんたの力自慢の部下たちだ。縛られた状態から抜け出す方法は訓練によって習得済みだ。そしてやばい状態に追い込まれた時の方が迫真の演技ができる」


 最もこんな演技は追い込まれた際に鞭を打って強靭な精神力で耐える必要があるため、半ば無理矢理体を動かしているようなものだ。あまり体にも良くない。

 彼女の腰から銃を抜き取り、頭に突きつけた。


「お前もこうしたんだ。ならこちらがしてはならないという話はない。予め言うが、助けを呼んだと判断したら迷わず撃つ。今度はこちらが質問させてもらう番だ」


 ユーシャはアンの影を踏んでいた。対象の影を自らの足で踏むことで行動を制限できる忍術、影踏みの術。暗い部屋で光源はドアの小さな窓ガラスから入る僅かな光のみ。アンの影がユーシャの足元まで伸びていたのでいつでも踏めた。変な動きをすれば即座に撃たれる可能性を考慮して彼女が背後を向くか視線が逸れるのを待っていたが、うまくいってくれた。


「口の動きは解除した。さあ、質問に答えて貰う。俺のユーシャという名前に反応したってことは過去に会ったことがあるのか?」

 

「ぐ・・・分かった。だがお前が何を言いたいのかも私には分からん」


「俺の名前はユーシャ・イガ。アン・ヴァイキング、あんたがユーシャに反応した時点で気になっていた。お前はクズだの何だの言っていたが、真の勇者について何か知っているんだろ」


「・・・名前がユーシャか、ご大層な名前つけられて哀れなだな。親のネーミングセンスが問われるぞ」


 里から出る前ならいざ知らず、今のユーシャなら分かる。確かに世間からしたらこの名前はご大層だ。故郷では勇者と英雄の概念は存在しない。あるとしても忍びの里の長が代々影という称号を引き継ぐことになっているが、英雄というよりも王に近いかもしれない。


「生憎と故郷ではユーシャは夕暮れに生きる者の意味でな、俺は気に入ってたがね。言葉というのは意味の違いだけでかなり歪曲する」


「は、それもそうだ。それで真の勇者についてだっけ?悪いけど大した情報はない。ただ、私は勇者に戦いを挑んだだけだよ」


 勇者に戦いを挑んだ、これが意味することは大きい。


「会えたんだな。どこでだ」


「どこって言われてもねー、海のど真ん中にある名もなき無人島だったよ。上陸して軽く休憩していた所に突然現れたんだ」


 ようやく掴めた。幾日かかって勇者の手がかりの末端をこの海賊は持っている。方角は把握してても、道中で何をしていたのかその目的も知る必要がありそうだからな。


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