表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神殺しの叛逆譚  作者: 一式鍵
13. エピローグ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

49/49

13-x: あなたと一緒なら――。

 レヴェウスは西方から駆け付けたエクセン将軍と共に、ラガンドーラ帝国を立て直すことを宣言した。ニーレド王国とは再び敵対する日が来ないとも限らないが、それは今ではない。


「ま、万事うまくいったというべきかな」


 ナーヤはすっかりいつもの調子で言った。ニーレド王城の広間である。銀杯に蜂蜜入り葡萄酒を注ぎ、ガレンとザラに掲げてみせる。


「ガレンたちは、本当に今日出発するの?」

「大陸南部にね」


 ガレンはこともなげにそう言ったが、大陸南部といえば、魔神や魔竜がひしめく暗黒領域である。人の踏み入ることができるような場所ではない。


「本気でザラも連れていくの? ニーレドにいたら十分豊かに暮らせるのに」

「レヴェウス将軍の下でレイザは幸せにやっているみたいですし、だったら変なわだかまりが発生する前に、私はこの国を離れるべきだと思うのです」

「ふうん。悪くない判断だと思うよ」


 ナーヤは頷いて、銀杯を揺らす。


 ウルが唸る。


「ありったけの情報は集めたつもりだけど、わからないところが多すぎるぞ」

「ウルには感謝しています。あれだけ情報と物資をいただければ十分です」


 ザラはそう言って頭を下げ、晩秋の風に髪を遊ばせる。ザラの視線の先には、大きな革袋が置かれていた。その中には旅の道具が満載されている。


「春まで待つわけにはいかんのか?」


 ネフェスが葡萄をつまみながら尋ねる。


「いえ、南部のジャウェタ公国で冬を越して、春になったら暗黒領域へ行く予定でいます」

「そうか。そこまで決めているなら、私はいまさら何も言わん。ただ、そうだな。お前たちほどの手練(てだ)れをみすみす手放すのは惜しいというくらいか」

「恐縮です、女王陛下。しかし、ラガンドーラとの戦端は十年は開くことはないでしょう。レヴェウスがうまくやってくれれば」


 ザラが確信めいた口調で言う。ガレンも頷く。ネフェスは頬杖をついてガレンを見る。


「魔神殺しが魔神の友人、か。面白いものよな」

「さて、名残り惜しいけど」


 ナーヤが立ち上がる。


「そろそろ儀式の時間だ。人々も大勢集まっていることだろうし。今回、敵も味方もあまりにもたくさん死んだからね。さ、ウル、行くよ」

「あ、ああ。ガレン、ザラ、元気でな。時々は便りをよこせよ」

「わかってる」


 ガレンはそう言って、銀杯を置いて立ち上がった。隣のザラもそれに倣う。


「ではな、異界の騎士」


 ネフェスも立ち上がり、ナーヤに促されてウルと共に広間を出て行った。


「俺たちも行こう」

「はい」


 ザラは小さくため息を吐く。


「どうした?」

「これがあっても――」


 ザラはウルが集めてくれた荷物から、一枚の羊皮紙を取り出した。ウルたちが何週間もかけて情報を集め、集約してくれた大切な地図だ。


「これがあっても、私は正しい道を歩けません」

「方向音痴だからな」

「地図も読めません」

「……知ってる」


 ガレンが言うと、ザラは「もう」とガレンの脇を軽く肘打ちする。


「私が迷った時、すがれるのはあなただけなんです」

「お、おう?」

「私が迷った時、助けに来られるのもあなただけなんです」


 ザラはそう言って、右手をガレンに差し出した。ガレンは少し間をおいてから、その手を握る。


「私を絶対に置いていかないでください」

「あたりまえだ」


 ガレンは頷いてザラを抱きしめた。


「暗黒領域では」


 ザラは呟く。


「いったい何が待っているんでしょうね」


 大陸南部、未開の土地。力ある人外たちの棲む場所だ。


 この無限世界(メビウス)の、遠からずなくなってしまうという未来を変えられるかもしれない。世界の秘密を知ることができるかもしれない。


「ガレン、不安?」

「いや」


 不安はない。魔神たちが再び「魔剣」を託してくれたこともある。そこにはきっと意味がある。


「でも、長い旅になる」

「平気」


 ザラは頬を赤らめる。


「あなたと一緒なら、平気」


 循環歴はまもなく三百七十一年を迎えようとしている。


 長いようで短かった旅は――教皇を打倒する旅は、終わった。


 ベレク大聖教は文字通り、一夜にして瓦解したが、信者たちが各地で新たな宗派を次々と作り、大陸は荒れ始めている。


 しかしそういった問題については、ネフェス女王や、あるいはレヴェウスたちがうまくやるだろう。ガレンたちの出る幕はもうない。


「ザラ」

「はい」

「俺から、離れるな」


 何があっても――。


「はい!」


 ザラは満面の笑みを浮かべた。


このエピソードで本編は完結です。

いわば「教皇編」です。

続きがあるかどうかは……どうなんでしょうね。


とにもかくにもここでガレンたちの旅は一段落。

ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ