表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/18

6.力の流れ

数日後、学校に到着した祝詞はいつものように席に座った。しかし、すぐに3人組の女子が彼の周りに集まってきた。


「榊君って…その氷床ノ宮(ひょうしょうのみや)さんと…どういう関係なの?」一人の女子が興味津々に尋ねた。


「えっ、え!?」祝詞は驚きと動揺で顔が赤くなり、大きく反応してしまった。


その動揺には理由があった。学校が始まってから、祝詞は古美華と次の修行を始めていたのだ。氷の力を使いこなすための修行は、体の中を巡る力の動きを知らなければならなかった。そのために、古美華は祝詞の体のいたるところをなぞるように触ったり、背後から祝詞を抱きしめて力を流したりした。


それが力の流れを知るためには必要なことだった。おかげで、祝詞は力の流れを理解し、氷を出すことができるようになった。しかし、その過程で、彼は古美華を変に意識してしまうようになった。抱きしめられた時に感じた彼女の胸の感触が、今でも忘れられないのだ。


祝詞は心の中で何度も、あれは修行だったんだと自分に言い聞かせていた。それでも、いきなり変な質問をされたもんだから、動揺してしまった。


「な、なんでそんなこと聞くんだ?」


祝詞は何とか平静を装おうとしたが、声が少し震えていた。


「だって、二人が一緒にいるところを何度も見かけたし、氷床ノ宮さんが君のことを気にかけているみたいだから。」もう一人の女子が言った。


「そ、そうか…」


祝詞はどう答えていいのか分からず、視線を泳がせた。


「で、どうなの?」


「た、た、ただの…とも…だちだ!」


祝詞は慌てて答えたが、その言葉はどこかぎこちなく響いた。


「えー!絶対嘘じゃーん。すっごい動揺してるし、隠さなくていいよー。」


もう一人の女子が楽しそうに笑った。女子たちは祝詞の隣の席に座っている古美華を見た。


「氷床ノ宮さん、榊君と付き合ってるの?」


古美華は「ふふっ」と微笑み、とびきり可愛い笑顔を見せた。


「きゃー!美男美女カップル!」とクラスが一気に騒ぎになった。


祝詞は顔を赤くしながら、心の中で動揺を抑えようと必死だった。その日の昼休み、祝詞と古美華はいつものように一緒にご飯を食べていた。これも付き合っていると誤解される要因の一つだった。


「いいのか?誤解されてるみたいだけど。」


祝詞はお弁当の箸を動かしながら、古美華に問いかけた。


「誤解は誤解だもの。それに私は一言も付き合ってるなんて言ってないわ。榊君こそ、いいの?」


古美華は落ち着いた様子で微笑んだ。


祝詞は少し考え込んだ後、肩をすくめて答えた。

「……どのみち、これからのことを考えると一緒にいたほうがいいし、好都合だろ。」


口ではそう言いながらも、祝詞の心の中には微かな喜びが広がっていた。古美華との近さが、彼にとって特別なものになっていることに気づいていた。


「それにしても、あの笑顔は反則だろ。クラス中が騒ぎになったじゃないか。」


古美華は楽しそうに笑った。


「たまにはそういうのも悪くないわ。みんなが楽しんでくれるなら。」


「神様は随分と、遊びが好きなんだな。」


祝詞は皮肉っぽく言いながら、古美華に微笑んだ。


二人はそのまま昼食を続けた。祝詞は古美華と過ごす時間が、以前よりも特別なものに感じられることを実感していた。


昼食を終えると、古美華は祝詞に手を差し出した。


「さあ、力を感じ取る訓練を始めましょう。」


祝詞は古美華の手を取り、指を絡めて手を繋いだ。この訓練も、二人が付き合っていると誤解される要因の一つだった。しかし、祝詞にとっては、この訓練が自分の力を高めるために必要だと理解していた。


古美華の手は冷たく、それでいて心地よい感触だった。彼女の力が祝詞に流れ込んでくるのを感じながら、祝詞は集中してその感覚を捉えようとした。


「感じる?」


古美華は静かに問いかけた。


「うん、感じるよ。力が俺の中に流れ込んでくるのがわかる。」


祝詞は目を閉じ、体全体でその感覚を感じ取った。


「いいわ、その調子。」


古美華は祝詞の手を優しく握り返し、力の流れをさらに強く伝えた。


祝詞はその感覚に集中しながら、古美華とのつながりを深く感じ取った。彼女の力が自分の中で共鳴し、体内を巡るエネルギーが一層明確になっていくのを感じた。


そして放課後、祝詞と古美華は一緒に帰宅する。校門を出ると、二人は自然と手を繋ぎ、訓練を続けながら歩き始めた。祝詞は、古美華とのつながりを感じながら、力の流れを意識していた。


二人は手を繋ぎながら歩く姿は、まるで恋人同士のように見えた。それがまた、周囲からの誤解を招く要因となった。しかし、祝詞はそのことを気にすることなく、古美華との訓練に集中していた。


氷床ノ宮家に着くと、古美華は祝詞を玄関へは向かわずに庭へと連れて行った。庭は広々としており、美しい草花と緑が広がっていた。


「榊君、飛んでみよっか。」


「え?」


「力を流す応用をするの。足先に力を放出してみて。」


祝詞は戸惑いながらも、古美華の指示に従って足先に集中した。彼は目を閉じて、体内の力を足先へと送り込む感覚を意識し始めた。冷たい力が足の指先から放出されるのを感じ取った。


「その調子、力をさらに集中させて。」古美華は優しく声をかけた。


祝詞は深呼吸をし、さらに集中を高めた。足先に力を集め、その力を地面に向かって放出するイメージを持った。


「そう、いい感じよ。」


古美華は祝詞の背中に手を置き、さらに力を送り込んだ。


祝詞は体全体が軽くなる感覚を覚え、次第に足先から力が放出されるのを強く感じた。突然、彼の体がふわりと浮き上がり始めた。


「う、浮いてる!?」


祝詞は驚きと興奮が入り混じった声を上げたが、その瞬間、バランスを崩して派手にこけてしまった。


「うわっ!」


祝詞は地面に倒れ込み、痛みを感じながらも、すぐに立ち上がろうとした。


古美華はその様子を見て微笑みながら歩み寄った。


「大丈夫?でも、最初にしては上出来よ。バランスを取るのは難しいけど、少しずつ慣れていくわ。」


祝詞は少し恥ずかしそうに頷いた。


「あぁ、ありがとう。でも、難しいな…。テレビでしか見たことないけど、フライボードしてる気分だ。」


古美華は笑いをこらえながら、「そうね。最初はみんなそんな感じよ。でも、諦めずに練習を続ければ、必ずできるようになるわ。」と言った。


祝詞は再び気持ちを整え、地面に立ち直った。


「よし、もう一度やってみる。」


「その意気よ。足先に集中して、ゆっくりと力を放出してみて。」


祝詞は目を閉じ、再び体内の力を足先に集中させた。冷たい力が足の指先から放出される感覚を意識し、ゆっくりと力を解放していった。今度は慎重にバランスを保つよう心掛けた。


再び体がふわりと浮き上がり始める。祝詞は慎重に力の流れを調整し、バランスを保つよう努めた。


しかし、すぐにバランスを崩してしまい、またもや地面に派手にこけてしまった。


「うわっ!」


祝詞は地面に倒れ込み、痛みを感じながらも、すぐに立ち上がろうとした。


「うーん、やっぱり難しいな。」


祝詞は頭をかきながら苦笑いを浮かべた。


「大丈夫よ、榊君。」


その言葉に微かな苛立ちを感じた祝詞は、心の中で反発する気持ちを抑えきれなかった。彼はこれまでの訓練や古美華との時間の中で、自分自身が少しずつ変わってきたことを実感していた。そして、古美華との距離が縮まるにつれ、もっと親密な呼び方を望んでいる自分に気づいていた。


「古美華、祝詞でいい。」


古美華は驚いた表情を一瞬見せたが、すぐに微笑んだ。


「わかったわ、祝詞君。」


祝詞は心臓が一瞬高鳴るのを感じながら、慌てて言い訳をした。


「あ、いや、ほら、なんか堅苦しいっていうかさ。お互いに名前で呼び合う方が練習にも集中できるかなって思っただけなんだ。」


「そうね、その方が確かに自然かもね。」


その後、祝詞は再び訓練に集中しようと気持ちを切り替えた。「よし、もう一度挑戦してみる。」


彼は再び集中し、足先に力を集めた。冷たい力が再び体内を巡り、足先から放出される感覚を意識しながら、慎重に浮き上がろうとした。バランスを取るのは依然として難しかった。


その日の訓練では、結局空を飛ぶことはできなかった。しかし、祝詞は自分が少しずつ成長していることを実感し、何度も転んでも決して諦めることはなかった。彼は明日に向けて新たな希望を胸に秘めながら、訓練に取り組み続けた。


読んで下さってありがとうございます!

お手数かけますが、イイネやブクマをいただけたら幸いです。モチベに繋がります( *´艸`)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ