16.風を操る者
最初のゲームが開始されることになった。祝詞が気づけば、周囲の光景は一変しており、彼は広大な荒野に立たされていた。
乾いた風が吹き抜け、砂塵が舞う中、祝詞は足元の土を踏みしめて、自分の立ち位置を確認した。頭上には青空が広がっているが、どこか不穏な空気が漂っている。
少し離れたところには、黒衣を纏った春らしき人物が静かに立っていた。彼もまたこの荒野の舞台に立ち、祝詞を鋭く見つめている。二人の間に張り詰めた緊張感が漂い、視線が交錯する。
祝詞は深呼吸をし、心を落ち着けた。荒野に立ちながら、彼は氷床ノ宮家の地下での理人先生との会話を思い出していた。
「風の神化は常に風をまとっていると思っていたほうがいいですよ。」
理人先生の言葉が蘇る。
「風をまとっている?」
祝詞はその時の会話を頭の中で反芻した。
「はい。例えば氷柱を飛ばしても風で弾かれる、もしくはそれてしまいます。」
「…なるほど。」
「槍で突こうとしてもそれるでしょう。」
「無敵ですね。」
「そんなことはないです。一番無敵なのは…氷の神ですから。ですが、最初から大技を決めれば、それを見た他の神達が対策を練ってきます。なので…。」
祝詞はその言葉を噛みしめながら、目の前の戦いに集中した。――俺はギリギリの戦いを見せないといけない。
祝詞はゆっくりと姿勢を整え、春に対峙した。彼の心には理人先生の教えが深く刻まれていた。無闇に大技を使わず、慎重に戦うことで他の神々に自分の力を見せつけないようにする。
春は鋭い目で祝詞を見据え、その視線には挑戦的な光が宿っていた。風の神の力を持つ彼は、常に風をまとっているため、祝詞の攻撃を簡単には通さないだろう。
戦いの合図は、まるで除夜の鐘の音のように静かに鳴り響いた。その瞬間、祝詞と春の戦いが始まった。
祝詞は戦場の荒野に立ち、眼前に迫る春の動きを凝視した。春はすでに素早く動き出し、風をまといながら祝詞に向かって突進してくる。彼の動きは滑らかで、まるで風そのものが命を持ったかのようだった。
祝詞は冷静に相手の動きを見極め、瞬時に氷の力を駆使して防御の態勢を取った。風の力で弾かれる可能性を考慮し、氷柱ではなく氷の壁を作り出し、その後ろに身を潜めた。――風で弾かれるかもしれないが、この壁なら少しは防げるはずだ…。祝詞は心の中でそう考えながら、春の攻撃に備えた。
春は勢いを増し、風の力を使って氷の壁を破ろうとしたが、祝詞の予想通り、完全には破れなかった。風の勢いが弱まり、その瞬間を祝詞は逃さず、反撃の機会を伺った。小さな氷の刃を作り出し、それを風に乗せて春に向かって飛ばした。
風の影響で氷の刃の軌道が不安定になったが、祝詞はそれを計算に入れて攻撃を繰り出した。春はその不規則な動きに一瞬戸惑い、祝詞の攻撃がかすった。小さなダメージを受けたが、祝詞はその瞬間を逃さず、次の動きに移る。
――今だ!
全力で春に向かって突進した。彼の目には強い意志が宿り、勝利への渇望が滲んでいた。近距離で氷の刃を放つ決意を固め、力を最大限に引き出した。
しかし、春は負けじと風を操り、強力な竜巻を作り出した。竜巻は猛烈な勢いで祝詞に迫り、彼の氷の刃を吹き飛ばした。祝詞はその激しい風圧に押し戻され、バランスを崩しそうになった。
「くっ…!」
祝詞は踏ん張りながら、どうにかして態勢を立て直そうとした。竜巻の力を目の当たりにし、その威力を実感した瞬間だった。
祝詞は冷静に次の一手を考えた。竜巻を避けながら、再び氷の力を駆使して反撃のチャンスを探った。彼は竜巻の中心に向けて小さな氷の結晶を投げ込み、風の力を利用してその軌道を変えた。
――この風を利用して…。
祝詞は氷の結晶を風に乗せ、竜巻の内部へと送り込んだ。その結晶は竜巻の力を逆に利用し、春の周囲を包み込んだ。
春は一瞬の判断で風の流れを変えることにした。彼の体からさらに強力な風が吹き出し、竜巻をさらに激しく回転させる。その勢いで氷の結晶を弾き飛ばし、再び自らの周囲をクリアにした。
春はさらに強力な風の刃を生み出し、それを祝詞に向けて放った。風の刃は見えないほど速く、祝詞に向かって一直線に飛んでくる。
祝詞はその攻撃を察知し、瞬時に回避行動を取った。彼は風の流れを読み取り、氷の力を使って自らの体を軽くし、その場を飛び退いた。風の刃は祝詞がいた場所を切り裂き、砂埃を巻き上げた。
祝詞は、春が作り出した複数の竜巻に追い詰められ、身動きが取れない状態になりつつあった。竜巻は凄まじい勢いで周囲の砂を巻き上げ、視界を遮ってくる。祝詞は自らを冷静に保ち、次の一手を考えていた。
祝詞は自分の氷の力を最大限に活かすことを決意し、小さな氷柱を次々と生成しては竜巻に投げ込んだ。氷柱が竜巻に吸い込まれると、冷気が竜巻の中で弾け、竜巻の勢いを弱めていく。しかし、春もまたただでは終わらない。
春は風を操り、さらに多くの小型竜巻を生成して祝詞を包囲しようとした。彼の風の動きは複雑で、祝詞の攻撃を巧みにかわし続ける。祝詞はその動きを見切るため、風の流れを読むことに集中した。
春は祝詞の動きを封じ込めるために、さらに大きな竜巻を一つ作り出した。竜巻は祝詞の前に立ちはだかり、強風が彼を後退させる。祝詞はその威力に押されつつも、何とか踏みとどまっていた。
春は、その竜巻を利用して砂煙を巻き上げ、視界を奪うと同時に、見えない風の刃を祝詞に向かって飛ばした。祝詞はその風の刃を感知し、素早く身をかわしたが、風圧でバランスを崩してしまう。
――このままじゃ…!
祝詞は焦りながらも、心の奥底にある強い意志を奮い立たせた。彼は再び氷の力を集中させ、今度は竜巻の中心を狙って強力な氷の槍を生成した。
「これで終わらせる!」祝詞は叫びながら、氷の槍を竜巻に向かって投げ込んだ。槍は勢いよく竜巻の中心に突き刺さり、冷気が一気に広がって竜巻を凍結させていく。
春はその動きに驚き、一瞬動きを止めた。祝詞はその隙を逃さず、竜巻を利用して一気に距離を詰めた。彼の目には、勝利への渇望が強く宿っていた。
しかし、春は諦めず、最後の力を振り絞って風の防壁を作り出し、祝詞の攻撃を防ごうとした。祝詞はその防壁を打ち破るため、氷の力をさらに強く押し出し、攻撃を続けた。
春の防壁は次第に崩れ始め、祝詞はその隙間を狙って再び氷の刃を放った。春はそれを避けるために身を低くし、風の力で祝詞を吹き飛ばそうと試みる。
祝詞はその風の攻撃を受け流しながら、さらに攻撃の手を緩めなかった。彼の中で戦意が燃え上がり、風を突破するための新たな戦略を練っていた。だが、その時、春は祝詞に対してさらに追い詰める攻撃を仕掛けてきた。
春は両手を広げると、彼の周囲に巨大な風の渦を作り出した。風が勢いよく吹き上げ、地面の砂を巻き上げながら祝詞を包囲した。祝詞はその中で必死に姿勢を保ち、次の一手を考えていた。
「これじゃ動けない…!」
風の渦はまるで巨大な牢獄のように祝詞を閉じ込め、彼の動きを制限していた。視界が遮られ、息をすることさえ難しい状況だった。祝詞は氷の力を使って突破口を探し始める。
春はその隙を狙い、祝詞を攻撃する準備を整えていた。彼は風の力を最大限に利用し、祝詞の位置を固定しようと試みる。渦の中心にいる祝詞に向かって、見えない刃のような風を幾重にも放った。
春は容赦なく風の刃を祝詞に向かって連射し始めた。鋭利な風が祝詞の周囲を飛び交い、まるで千本の剣が襲いかかるようだった。祝詞は身をかわしながら、その攻撃の激しさに圧倒されていた。
「くそっ…!逃げ場がない…!」
〆切までに8万文字間に合わなかったウーマン^p^