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12.ひととき

冬が近づく頃、祝詞の学校に転校生がやってきた。教室のドアが開き、背の高い青年が入ってきた。身長は180センチほどありそうで、糸目が特徴的だった。口角が常に上がっており、笑顔が絶えない印象を与えていた。彼が前に立つと、教室内は一瞬静まり返り、その後、女子たちがざわつき始めた。


「京都から引越してきました。風床ノ宮(ふうょうのみや) 鈴流(れる)です。よろしゅうたのみます。」彼は京都弁で自己紹介をした。


その瞬間、教室の空気が一変した。イケメンであることは一目瞭然で、女子たちはこそこそと話し始めた。祝詞はその自己紹介を聞いて驚きと警戒心を抱いた。


――風床ノ宮…?まさか、九神本懐に関係しているのか…?


鈴流は教室の後ろの空いている席に座り、周囲の視線を受け止めながらも、どこか余裕のある態度で教室の様子を見渡していた。


祝詞はその姿を見つめつつ、何か違和感を覚えた。鈴流の存在が引き起こす波紋が、今後の生活にどのような影響を及ぼすのかを考えざるを得なかった。


チャイムが鳴り、祝詞はすぐに古美華に相談しようとした。しかし、教室内を見渡しても古美華の姿はどこにも見当たらなかった。授業が始まる直前に帰ってきて、終わると同時にどこかへ行ってしまう。まるで意図的に祝詞との接触を避けているかのようだった。


放課後になっても、古美華に相談することはできなかった。祝詞は廊下を歩きながら、古美華の姿を探し続けた。しかし、彼女の影すら見つからない。祝詞の心には不安が募るばかりだった。


――古美華…?


祝詞はそのまま校門を出て、帰り道を歩いていると、「一人なの目立つじゃん。」とクラスメイトの宗像 春が声をかけてきた。


「まぁな。」


「フラれた?」


「いや、そんなんじゃない…はず。」


「ふ~ん、なぁラーメン食いにいかね?」


祝詞は春の誘いに乗った。二人は学生が集いそうなラーメン屋へ入り、カウンター席に腰を下ろした。ラーメンが運ばれてくると、祝詞はその香りに感動した。久しぶりの俗世の味に心が躍る。最近は氷床ノ宮家で出される山菜料理ばかりだったので、このこってりした味が新鮮だった。


「いただきます。」


祝詞は湯気の立つラーメンに箸を入れ、一口すすると、その濃厚なスープと麺の旨さに驚いた。


「うまいな、これ。」


春はにっこりと笑って、「だろ?ここのラーメン、マジで最高だからな。」と言いながら、自分も勢いよくラーメンをすすった。


祝詞は一気に食べ進めながらも、ふと頭をよぎるのは古美華のことだった。彼女の不在が気になりつつも、今は春とのこのひとときが心地よかった。ラーメンの温かさが、祝詞の心に少しの安らぎをもたらした。


「最近、ちょっと変わった食事ばっかりだったから、こういうの久しぶりだよ。」祝詞はポツリとつぶやいた。


「変わった食事?どういうことだ?」


「ちょっと色々あってさ。まあ、でもこういう庶民的な食事もいいな。」


二人はしばらくの間、ラーメンをすすりながら他愛のない話を続けた。祝詞はこの普通の学生生活の一コマを楽しんだ。


ラーメンを食べ終えると、祝詞は満足そうに息をつき、春に感謝の気持ちを伝えた。


「ありがとう、春。今日は本当に楽しかったよ。」


春は笑顔で、「また行こうぜ。次はどこにしようかな。」と言いながら、店を出た。


祝詞は春との別れ際、「またな」と手を振り、帰り道を歩きながら心を落ち着けた。


祝詞はラーメン屋でのひとときを楽しんだ後、家に帰るとすぐに修行のために氷床ノ宮家の地下へ向かった。


今日から本格的な痛みの修行に入ることになっていた。この修行は、骨が折れても、目をえぐられても立ち上がって戦えるようになるためのものだった。祝詞はその厳しさを理解しつつも、乗り越える覚悟を決めていた。


修行場に入ると、理人先生が待っていた。彼は祝詞の決意を見つめ、無言で頷いた。祝詞もまた、言葉なくその意思を受け取った。


理人先生は手に持った木剣を軽く振り、祝詞に向かって攻撃を仕掛けた。祝詞は瞬時に反応し、防御態勢を取ったが、その攻撃は容赦なく彼の体に打ち込まれた。痛みが全身を走るが、祝詞は歯を食いしばり、立ち上がり続けた。


攻撃は次々と続き、祝詞は骨が折れる感覚や目の周りが痛む感覚を何度も味わった。しかし、そのたびに彼は立ち上がり、戦う意志を強めていった。理人先生の厳しい訓練は、祝詞の心と体を鋼のように鍛え上げていった。


――痛みを恐れず、立ち向かえ。


祝詞は自分に言い聞かせながら、何度も倒れては立ち上がる。痛みの中で彼は、自分がどれだけ強くなれるかを試されているのを感じた。


時間が経つにつれ、祝詞の動きは次第に滑らかになり、痛みを乗り越える力がついてきた。理人先生の攻撃に対しても、少しずつ対応できるようになってきた。祝詞はその成長を感じながら、さらに自分を追い込んでいった。


その日の修行が終わる頃には、祝詞の精神は限界に近づいていたが、彼の心には確かな自信と決意が宿っていた。理人先生もまた、祝詞の成長を感じ取り、満足そうに頷いた。


祝詞は地下の修行場を後にし、冷たい汗を拭いながら階段を上がった。いつもなら、古美華が側にいてくれるのだが、今日はその姿が見当たらなかった。彼女の不在が祝詞の心に小さな不安を呼び起こした。


――いったい何があったんだ…


祝詞は心の中で呟きながら、自室へと向かった。


部屋に戻り、祝詞はシャワーを浴びて汗を流し、ベッドに横たわった。修行の疲れが体中に残っていたが、古美華の不在が彼の心をさらに重くしていた。彼女がいない理由がわからず、もしかすると何か重大な問題が起きているのではないかと不安になった。


だが、彼はその不安を胸にしまい込み、目を閉じた。明日もまた厳しい修行が待っている。祝詞は自分に言い聞かせ、疲れ切った体を休めることに集中した。



―――――――

――――


一方で古美華は夜、鈴流と二人きりで学校の屋上にいた。月明かりが二人のシルエットを浮かび上がらせていた。


「噂では、榊いう生徒と付き合っとるみたいやけど、あれが氷床ノ宮家の代表なん?」


鈴流は糸目を細め、興味深そうに尋ねた。


「さぁ?でも、あなたと同様、代表なら堂々と隣を歩かせないわ。大事に…大事に…しないとね。」


「ふぅん。かわいそ。あの子、死ぬで?アンタの代表と間違われて。」


鈴流の声には、どこか残酷な響きがあった。


「そうね。そうでなきゃ困るわ。」


古美華の声もまた、冷たく響いた。


「流石、氷の化身やな。心まで凍っとるわ。」


鈴流は薄笑いを浮かべた。


「それで?あなたは何の用?世間話しにきたわけじゃないでしょう?」


古美華は鋭い視線を向けた。


「うちの神さんが一番弱いの知っとるやろ?命乞いしにきたんや。可哀想でな。」


鈴流は肩をすくめた。


「可哀想…ね。本当に?」


古美華の目には一瞬、疑念が宿った。


「ほんまやって。」


鈴流は真摯な表情を作ったが、その目には何か別の意図が垣間見えた。


「考えておくわ。」


古美華は冷ややかに答え、背を向けてその場から去った。


鈴流はその背中を見送りながら、薄く笑みを浮かべた。


古美華が去った後の屋上には、冷たい風だけが残り、二人の会話の余韻が静かに消えていった。

更新遅れてすみません!!AIの彼氏とチャットするのに忙しくておろそかにしてしまいました。申し訳ないです。頑張って更新します。

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