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2-3

 


 私は、家の外に出る。

 今住んで居るのはオンボロの豪邸。ぼろいけど住むには困らない。

 どこかのお貴族様の別荘らしい。


 ゲームではもっと農家みたいなところだったけど。流石に一家5人は無理がある。それも貴族の。

 だから、この村の村長に借家として貴族様に借りたと聞いた。

 村には何処かの貴族が療養に来たと、伝えておいて。


 ジュリアンナの追放先での貧乏な暮らしは、一変。

 貧乏貴族まで上がり、落ち着いたようだ。


 嫌、逃亡の身だ。家は立派だが。

 これ以上目立つ貴族らしい、贅沢な暮らしは出来ないかもしれないが。


 と、まあ、私の状況は置いておいて。私は村へと出かけた。

 出かけると言っても、走り回る様なことは出来ないので、歩いて。

 直ぐ近くの畑まで足を進めてみたのである。



「やぁ、ジュリア!」

「あら。ごきげんよう」


 畑が見えてきたころ。私の名を明るく呼ぶ声が聞こえた。

 キャベツ畑の中。手を振る青年が目に入る。


 楽しそうに、人懐っこい笑みを浮かべながら走り寄って来た。

 ツンツン髪の茶髪に金目の美青年。パーシバル君である。私より2つ年上だ。

 この村で、自分の畑を持ち。耕し育て、たった一人で生活をしている。

 見た限り、凄くイケメンで。初めて見た時、理解した。


 彼は恐らく、攻略対象者の一人だろうと。

 まあ、残念なことに胸は全くときめかないのですが。

 イケメンとか関係なくてね。「ジュリアンナ」の胸がね。


「今日も青白いなぁ!ちゃんとご飯食べているんだろうな?」

「え、ええ。今朝はリンゴを一切れ……」

「おいおい、そんなんだから。そんな青白い顔をしてんだよ!今から家に来な。上手い物食べさせてやるからさ!」

「いえ、結構です。結婚前の淑女を家に招くのは、いささか問題ですよ」

「ははは、お貴族様は硬いなぁ」


 何にせよ。人の好い青年である。

 ……はい。以上です。


 そんな彼は、大豆と藁を快く売ってくれた方である。

 無償で良いと言ってくれたけど、彼は農夫だ。

 彼の仕事なのだから、お金は払わなくてはいけないと、押し通した。


「で、造りたいものは出来たの?」

「……いいえ、お父様に止められました」


 そんなパーシバル君は、親しげに事の顛末を問いただしてくる。

 彼は知っているのだ。私が大豆と藁で何かを作ろうとしていた事を。納豆までは言ってないけど。

 いや、当たり前よね。出品者ですもの。貴族の娘が自分の作物で何を作るか気になるのは当然だわ。


「お父様に止められたって、何を作ろうとしていたんだよ?」


 だから、こうして当たり前に問いかけてくる。

 私は悩んだ。どう伝えようかしら。

 顎をしゃくり悩む。お父様がアレだったのだ。彼が理解してくれるか、謎だ。

 いや、反対に賛同してくれるか?


 そもそも、今私には難題が掛かっている訳で。

 どうやって、家以外でお父様が納得できる発酵食品を作れるか。それもここ数日のうちで。

 いや、「納豆」を作っても咎められない場所が欲しい訳で。


 ……攻略対象者は、私に自宅の提供をしてくれるだろうか。


「……パーシバルさん。お願いがあるのですけれど」

「ん?なんだよ」

「少々、ご自宅を――。ご自宅のお庭を貸していただけません事?」


 そんな長考するのも惜しくなった私は、思い切って彼に問いただすのである。



 ◇



「お嬢様、淑女は男の家に上がらないんじゃなかったのか?」

「自宅の中には入っていません。庭にいるだけです」

「う、うーん。そうだけどさ」


 こうして、私は今現在パーシバルさんの自宅前にいる。

 何のこと無い、快く了承してくれたのだ、パーシバルさんは。

 それも特に理由も聞かず。

 コレがゲームヒロインの魅力って事?それとも裏がある?


 こんな顔色の悪い娘を襲うのはゲーム攻略対象者として、男として、人間として問題があるけど。

 いや、今はこんな心配をしている暇はない。

 此処は攻略対象者を信じよう。襲われれば、抵抗させて頂きます。


 それよりも私は、先程の続きに勤みたい。

 と、言う事で、私は持っていたカバンから。先ほどの藁苞数個と小さな藁束、それから安物のツボを取り出した。


 一度家に戻り持ってきたのだ。

 納豆作りは時間勝負と言われているけど、下準備は完成しているし、このまま捨てるのはもったいない。だからと言って、このまま食べるのも味気ないので、取って置いた。大丈夫、2時間ぐらいしか経っていない。


 パーシバルさんは、私の後ろから不思議そうに此方を見下ろしている。

 これから多分引く行動をするだろうけど、許して欲しい。


「パーシバルさん、ここら辺穴を掘っても大丈夫かしら?」

「穴?あ、ああ、別に大丈夫だけど?……え、えーと、スコップとかいる?」

「ええ、貸していただけるのなら嬉しいわ!」


 パーシバルさんは、どこまでも親切であった。――ごめんなさい。






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