逃げ道
いわゆるデスゲームに巻き込まれている。
なんでこうなったのかは、俺にもわからない。
俺は佐藤翔だ。実に平凡なフリーターだ。コンビニの勤務の帰り道、襲われ…気が付いたら、変な真っ白な部屋に閉じ込められていた。
一体どういう仕組みか?
ブゥン、と音がしたかと思うと、空中に映像が映った。子供のイタズラがきみたいな、不気味に歪んだシスター、らしき、イラストだ。そこから音声が流れてくる。
「お目覚めですね、佐藤翔さん、あなたはこの部屋の101人目のお客様です」
パァン!と音が鳴ったので、ギョッとすると何故かくす玉が割れていた。ハラハラと紙吹雪が落ちてくる。
「コングラッチュレーション!あなたは幸運です。特別にヒントをあげましょう。<困ったら右へ行け>です!」
で、現在。俺は死に物狂いで走っていた。後ろからは得体の知れない怪物(子供じみた表現だが、実際、そうとしか言いようがない)が俺を喰い殺そうと追いかけてきている。
で。曲がり角に来ると急にクイズが出される。
全四問、クリアすれば帰れるらしい。
「第一問!あなたのスマホのロックナンバーは?」
どういう仕掛けか、空中に入力画面が現れる。なんでだよ? 俺は入力した。
「正解です!」
ピンポン音と紙吹雪。はっきり言ってウザイ。
少しの間だけ、怪物の動きが鈍った。
走る。曲がり角だ。
「第二問! 『細雪』の作者は? 口頭でお答えください!」
こっちは肺が破れそうなのに。半パニックで記憶のページを捲る。
「た、谷崎潤一郎!」と叫んだ。
「正解です!」
ピンポン音と紙吹雪。
走る。走る。
曲がり角。
「第三問!あなたの元カノの名前は? 口頭でお答えください!」
「さやか!」
ピンポン音と紙吹雪。だからウザイって。
走る、走る、走る。
曲がり角。
「ラスト!右か左か、選んでください。右、あなたは死ぬ。左、あなたは助かる。どっちでしょう!?」
―はぁっ!?なんじゃ、そりゃ!
と俺の脳裏にふと、ある言葉が蘇った。『困ったら右へ行け』…。
右!助かるぞ!!
その先には…。
「あー、この挑戦者もダメでしたねー」と観覧席から声があがった。
つまらないなぁ、と欠伸混じりの声すらある。
映し出されているモニターには、尖った石に体中を貫かれた男の死体があった…。
「最近の挑戦者は無知な者ばかりですね…」と主催者はため息を吐いた。