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奈落の野菜

作者: 古びた望遠鏡

窓のレールに腰掛けるとびゅーびゅーと生暖かい風が吹き込んだ。太陽は雲に隠れたり、出てきたりと反抗期の中学生のようだった。俺は額にほんのりと汗を流し、ベランダの外をなんとなく眺めていた。

大学生になって2ヶ月。一人暮らしをする時に植えたミニトマトやピーマンなどの夏野菜たちは揃って生気を失っていた。その姿はまるで俺の変わり身を表しているようであった。

清少納言は春はあけぼのという。確かに長い長い受験戦争を終えて、春がやってきた時は間違いなく、俺の人生の夜明けに違いないと思っていた。長い冬は終わりを告げ、ウグイスが鳴く暖かい春、夜明けの春として捉えていた。自嘲気味にほんの数ヶ月前の過去を掘り返す。

そうしているとさっきまで正体を現わさなかった日差しが息を吹き返すように燦々と俺の膝を照らした。膝の辺りは生暖かく、半身浴に浸かっているような気がした。半身浴に浸かりながら再び、穴を掘り返す。

この2ヶ月で俺が得たものは今俺の額を流れる汗から抽出できる塩くらい微々たるものであった。高校生の自分と今の自分を検査しても99パーセント一致することだろう。変化といえばバイトを始めたことによる腰の痛みと労働をするという痛みであろう。俺的には後者の方がずっと応えた。しかし、得られたものは5万円ちょっとと客に言われた嫌味くらいだろう。

本当に俺はこの2ヶ月間何をしていたのだろう。そして陽の光は消えていった。予報ではこれから少し雨がぱらつくらしい。そして今夜の深夜には止み、明日は30度を超える暑い日になるという。その暑さとは裏腹に俺の心はますます冷めていく。この暑さに気づくのは必死に俺の体温を下げようと汗を出す体だけだろう。

俺は窓を閉めて、再び部屋に戻り、ストップ中のゲーム画面を開いた。何も変わらず、何も変わらず。


ーーーーーーー


翌日、目を覚ましてカーテンを開けると雲ひとつない青空が広がっていた。カンカン照りとはこのことだろうか。

ベランダの外に咲くアジサイは深夜の雨で水滴が落ちていた。その顔を晴天に向けて喜んでいるようにも見えた。

そして枯れたように見えていたトマトやピーマンは心なしか昨日よりも色がよく見えた。一度死んだと思っていた光は再び俺に降り注いだ。


「ああ、あいつらもがんばっている。」


俺は水を汲んで発展途上の野菜にまんべんなくかけた。彼らは奈落の野菜じゃないんだ。たとえ枯れてしまうとしても一花咲かすために精進しているのだ。たった1パーセントでもその変化をプラスに変えようと思って外に飛び出した。

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