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~三十五周目~

 そして目覚めたわたしは、再びグレイドを拉致し、そのまま侍従として自分につける。


 今回は回りくどいことなんてしない。

 ただ全力でぶつかるだけよ!




「グレイド、お茶にしましょう」

「いえ、私は仕事が残っていますので」

「雇い主の命令です」

「……」


 こうして無理やり二人でお茶をするのも、当たり前の光景になりつつある。

 未だ渋られるけれど、最初のころに比べたらすんなり言うことを聞くようになった。

 家の者には、一目惚れと言ってある。ネーリや他の下働きも澄ました顔で給仕している。


「明日は最近話題になっている喫茶店に行きます。あなたも付いてきなさいね」

「何故、私なのですか?」

「何故って…あなたが好きだから」


 その気持ちに嘘はない。

 前の周のことで、わたしはグレイドへの気持ちを自覚していた。この悲しい人を、わたしが幸せにしたいのだ。


 グレイドはわたしの気持ちを聞くと、いつも居心地悪そうに困った顔をする。

 信じてもいないだろうし、理解もしていないのだろう。


 それでも関係ない。わたしは嘘偽りない気持ちで、素直に言葉と態度に出すしかない。


「色々食べさせてみたけれど…どのお茶菓子が好きだった?」

「そうですね…甘すぎない方が好きなので、昨日の菓子は好きでした」

「ああいうのがいいのね。似たようなお菓子も取り寄せてみるわ」

「恐縮です」


 一つ一つ、食べ物の好みや休日の過ごし方など知っていくのが楽しい。

 目を合わせてにこりと笑うと、ほんの少し恥ずかしそうにする。

 一緒に出掛ける時に腕を組むと、胸が当たらないように気を付けている。

 ちょっとした仕草が愛おしく思える。

 数十年彼を見続けていたのに、遅い初恋をしているようだった。





 ある日は帝都で流行りの料理店に連れて行った。


「ユルグリを使った料理は迫力がすごいわね」

「こんな大きい魚は初めて見ました。大味かと思ったら結構繊細な味なんですね。出汁はすごく濃厚ですが」

「ドラクレアやレングテックでは、魚の王と言われているのよ。冬でも氷の下で泳いでいるから一年中獲れるし。最高の魚だわ」


 またある日は大陸全土で人気の演劇を観に行った。


「英雄ステイオンの伝記の新解釈ね。聖女もこれまでの解釈より強い女性として描かれているのは、時代の流れかしら」

「ステイオンの時代では女性の立場は弱かったですからね。最近は女性の地位も向上してきましたが、それをより進めるための仕込みかもしれませんね」

「宰相府の思惑なんてどうでもいいのよ。話として面白いじゃない」

「史実とかなり違うように思えますが…」

「あの時代の史実なんて、最初から当てにならないわ」


 領都では一緒に散歩したり、小旅行にも連れて行った。


「ここの湖はアシュトラン領で最も素敵なところなの。あなたを連れてきたかった」

「確かに、こんな美しい光景は初めてみました。魔素の光と樹々の佇まいが幻想的ですね」

「そうでしょう。領民にも愛されているわ。わたしもここが大好き」

「アシュトランの皆様は、こういう場所を守るために生きているのですね」

「そうよ。この景色。ここを愛する人々。それらを守るのが、十剣家の大切な使命です。あなたには、その使命に生きるわたしを支えてほしい」


 そうやって色んなところに連れまわして少しずつ、グレイドの笑顔が自然になっていった。

 真っすぐに愛をぶつければ、ほんの少しずつ、受け入れてくれているような気がすることも増えた。


 わたしとの結婚自体は既に、アシュトランの命令ということにして納得させている。

 いずれわたしの婿に入ってもらう前提で、そのために必要な教育も受けてもらっている。





 そして少し時が流れて、ティティも侍女として働き始め、仕事に慣れてきた頃。


 領都での高級料理店での食事中のことだった。


「ミーシェレータ様。質問をしても?」


 グレイドの方から話を振ってくるのは珍しいことである。

 わたしは内心の喜びを隠しつつ、条件を出すことにした。


「そうね…そろそろミーシャって愛称で呼んでくれるなら、何でも答えるわ」

「いえ、それは…」


 グレイドはぐっと言葉に詰まる。


「嫌なの?どうでもいい質問だったのね。それともわたしに、そんなにも興味がないの?」

「そうではありません。…ミーシャ様、聞きたいことがあります」

「様も要らない」

「今はこれで許してください」

「仕方ないわね。それで、どうしたの?」

「アイエイラ様とデイグリーズ様の関係にちょっかいをかけたのは、何故なのですか?」


 アイエイラは中立派の姫である。もうすぐヴィエラが駆け落ちするので、その前に手を回してアイエイラの縁談を潰したのだ。


「その内分かるわ」

「それは…第二皇妃に関係あることでしょうか」

「どうしてそう思うの?」

「ヴィエラ様の想い人に気付いているのかと」


 わたしは驚いた。最初の周でヴィエラが駆け落ちした際、相手の男との関係を知っている人間は全くいなかったのだ。その後繰り返す中でも、そういった人物には出会っていない。


 確かに、既にわたし自身で開催した夜会に二人を招待して、出会わせている。これは何度かやってきた手法だけれど、どの周でもヴィエラは駆け落ちの当日まで、一切その素振りは見せないはずなのだ。


「やはり、気付いていたんですね。というより、あの夜会で意図的にお二人を会わせたように思います」


 流石、グレイドは目端が利く男だ。

 確かに、その夜会は開催する理由も微妙なものになるし、二人を引き合わせるのも、普段の私の交友関係や立ち居振る舞いを考えれば、僅かに不自然ではあるはずなのだ。ヴィエラはともかく、元々相手の男にわたしは面識がなかった。

 夜会で挨拶をした後、すぐにヴィエラを誘導して、挨拶するように仕向けたのである。


「別に、そんな意図はなかったけれど…。まぁなんとなく、相性が良さそうだとは思ったわね」

「どうしてそう思ったのかも謎なのですが…あの時私は、あなたが第二皇妃の座を狙っているのだと思いました。けれど、そうなるとアイエイラ様に婚約者がいない状態は不都合なはずです」

「第二皇妃なんて、そんなわけないでしょう、面倒くさいことは嫌いだわ。それに、貴方が好きっていつも言っているでしょう」

「…本当なんですか?この国で最も高貴な女性になれるんですよ?」

「元々興味がないわ。そんな立場より、あなたがいいの」


 わたしはグレイドの目を真っすぐに見て、はっきりと言い切った。

 恥ずかしい気持ちがないではないが、この生からは堂々と愛すると決めている。

 五十年も生きれば、度胸もつく。


 グレイドは無言になった。わたしの目を見るその顔は、何かを堪えている様な、そんな顔をしている。

 わたしは何も言わず、そんな彼を見つめ続けた。

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