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プロローグ ~最初の死と、二週目~

 わたし、ミーシェレータはその日、いつものように家族での食事を終え、いつものように流行りの恋愛小説を読み、ぬいぐるみのアリョーナを抱いて眠ろうとしただけだった。


 夜中にふと目が覚めて目を開けると、月明かりの中、寝台の横に黒づくめの男が経っているのが見えた。

 ひゅっと息をのみ、体を起こそうとしたその瞬間、男の体が動くのが見えた。

 首元から何かが噴き出し、生ぬるいそれが、わたしの体を濡らしていく。

 声を出すこともできず、わたしの意識はそのまま闇に飲まれていった…。






「はっ!!」


 がばりと起き上がる。首元を抑える。何もない。


 夢?


 それにしては生々しかったけれど…。

 怖くなって、枕もとの鈴を鳴らす。夜番の侍女がすぐに入ってくる。


「いかがなさいましたか?お嬢様」

「怖い夢を見て…水を持ってきてもらえるかしら」

「かしこまりました」


 そこでふと違和感に気付く。


「今日の夜番はティティじゃなかったかしら」

「いえ、元からわたくしでございますが…ティティとはどなたのことでございましょう」

「ええ?あの子よ、桃色の髪をいつも二つ結びにしてる、騒がしい…」

「??以前いた方でしょうか?思い当たる侍女はおりませんが…」


 侍女のネーリは怪訝そうな顔をする。何かがおかしい。ネーリにも違和感がある。


「…夢と混同してしまったみたい。気にしないで」

「はぁ。ではお水をお持ちいたしますね」


 ネーリが出ていくのを見送って、部屋を見渡す。

 なんだろう、部屋にも違和感がある。見慣れた自室のはずなのに、どうしてだろう。





 なんとなく落ち着かない気持ちで、それでも眠った翌朝。

 明るい中で部屋を見て、侍女や家族を見て分かった。


 一年前に戻っている…。


 ティティは七か月前に入ってきた比較的新しい侍女だったので、まだいなかったのだ。

 ネーリは髪型や髪の長さが違ったし、部屋は置いてある物が変わっていたから違和感があったのね。


 そこから考えられる結論は…



 わたし、一年後に死んで巻き戻った!?



 どうして戻ったのか分からないけれど、ヴィータ様がくれた幸運なのかもしれない。

 きっと原因を突き止めて、暗殺者に殺される未来を回避するようにとの、女神様のご意思なのだわ!


 早速わたしは既に一度生きた一年間の知識と経験を総動員し、より快適な日常を送りつつ、我がアシュトラン家の政敵を探ることにする。





 ここドラクレア帝国は皇帝を絶対権力者とする国だが、その皇帝に意見することを許された建国時からの名家が十あり、十剣家(ゴリオローラ)と呼ばれる。

 アシュトランもその一つであり、わたしは帝国でも最上位の姫なのだ。

 貴族や平民といった身分制度こそないものの、この十家やそれに連なる一族は実質的な最上級帝国民であり、国家運営やその他あらゆる分野で権力が集中している。

 実際、『姫』という呼称が許されるのも十剣家(ゴリオローラ)の直系の娘のみである。


 当然、十剣家(ゴリオローラ)内でも派閥や陰謀がある。恐らくは敵対派閥の陰謀だろう。


 現在十六歳のわたしには、まだ大きな役割はないというのに、暗殺者が差し向けられる理由はそう多くは思い当たらない。

 というか、はっきり言って一つしかない。


 皇帝への第二皇妃としての輿入れの件に決まってる。


 今から五か月後、第二皇妃に内定していたダリファンドの姫が駆け落ちする。あの一族は何故か、愛に狂う気質の人間が多いのだ。


 先代皇帝の妃、つまり現皇后はアシュトラン陣営の第一皇后と中立派の第二皇后。そして現皇帝の第一皇妃がグランテニアの姫で、ダリファンドは中立派だったけれど、ここで第二皇妃をグランテニア陣営の姫にされてしまうと、政治的均衡が崩れかねない。

 もちろん、また中立派から出すのが最もよかったのだけれど、ダリファンドの姫がいなくなった時点で、中立派にもアシュトランの派閥にも、未婚であり、婚約者もいない年頃の娘はわたししかいなかったのだ。

 現皇后はアシュトラン陣営といっても、今はだいぶ落ち目の家だったので、ただでさえ第一皇妃が力を増していた。


 そうでなければ皇妃なんてなるものか。

 面倒臭くて心底嫌だったけど、お父様に厳しい顔で懇願され、仕方なくわたしは第二皇妃になることを了承したのだ。


 不本意なれど、わたしも特権階級である十剣家(ゴリオローラ)の娘だ。国が荒れると言われてしまっては断れない。


 わたしさえ排除すればグランテニアは数十年に渡り後宮を支配でき、その流れは容易には変えられないかもしれない。次の代、その次の代でもアシュトラン陣営が辛酸を舐めれば、それはそのまま領民の生活の質が低下することに繋がりかねないし、均衡の取れてない権力は腐敗の原因にもなる。


 逆にいえば、グランテニアからすれば千載一遇の好機だったのだ。

 十分対策はしていたはずだが、それを上回われてしまったということだろう。


 さて、そうするとダリファンドの姫の駆け落ちを阻止するのが一番いいのだけれど…。


 そのヴィエラは中立派だが、歳も近く結構仲良くしていた。

 駆け落ちという方法はどうかと思わなくもないが、元々彼女も第二皇妃になんてなりたくなかった様子だった。彼女が逃げたせいでわたしに回ってくるのも嫌だが、彼女の幸せを邪魔するのも躊躇われる。


 幸い、一年前の今なら中立派に一人婚約者のいない姫がいる。別に政略結婚で相手に強い思い入れがあったわけでもなく、ヴィエラの方が資質を買われて選ばれただけで、本人はむしろヴィオラに嫉妬していたはず。ヴィエラの駆け落ちの際も、その直前に婚約者を決めてしまったことを嘆いていたのだ。彼女なら喜んで第二皇妃になってくれるから都合がいいわ!


 確かその婚約が調うのは二か月後。恐らく既に前段階の話し合いはしているはずだけれど、なんとか止めないと!


 ちなみに、ヴィエラが駆け落ちの相手と恋に落ちるのはその婚約発表の夜会である。なんと間の悪い。

 あれ?そうするとヴィエラ達の出会いがなくなる??

 それはそれで困るので、第二皇妃の内定発表の夜会辺りで引き合わせないと。


 ようし、やることは決まったわ!

 今回の人生は第二皇妃も暗殺も回避してみせる!





 そして一年後、全てうまくいきヴィエラは駆け落ちし、中立派の姫が代わりに内定した。

 わたしは安心し、枕を高くして眠ることができるようになってしばらく。





 ふと目を覚ませばそこには…。


「なんでなのよー!!」


 何故かわたしは同じ暗殺者に殺され、そして三回目の一年が始まった。




 愛させる、あるいは愛することを探す旅。

 わたしの恋物語はこうして始まった。

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