試験と志願者
第五話 試験と志願者
3人は少し走りながら、暗闇を進んでいた。
「でも、どうして俺たち合格なんだろうな?」
ドリーが眉を顰める。
「あれは、単純なゲームだ。ババを引くなと言っていたからな。カードを引かなきゃババは引かない」
「なるほどなぁ。全然気づかなかったぜ」
「んじゃ、なんで俺は合格だったの?」
「さあ?それは私にもわからない」
ライゼンはハッとした表情で咳払いをする。
「俺にもわからない」
暫くすると暗闇に薄暗い光が見え始めた。そして、その周りには人の気配が集まっている。3人が目を凝らすと武装した人、何かの達人のような人、あるいは変な人たちが大勢集まっていた。
「すげぇ、これが全員参加者か?」
「恐らくな」
「間に合ったみたいだね!」
3人は腰を下ろすと周囲を見渡す。すると凛と同じ身長くらいの男の子が近づいてきた。肩にはショルダーバッグをかけている。
「君たちも初めての試験?」
リンは元気よく頷く。
「良かった〜。あんまり見た目で行くのはよく無いかなって思うんだけど同じ年くらいの人探してたんだよ」
「いくつ?」
「16」
「んじゃ、同い年だね」
リンが笑う。男の子も口角を上げた。
「僕は、ウィック・スウィフト。ウィックって呼んでね。宜しく」
「俺はリン。リン・タイムズ。宜しくね」
2人は握手を交わす。リンは後ろにいたドリーとライゼンに顔を向ける。
「二人も」
二人は立ち上がるとウィックに手を出した。
「俺はドリーだ。宜しく」
「俺はライゼンだ。宜しく」
ウィックは二人の手を握ると軽く挨拶を交わす。
「処でさ、三人は誰がヤバそうだと思う?」
ウィックがワクワクしながら3人に顔を近づける。3人は再び周囲に目を向けるすると3組の男性が目に入った。
「あれかな?」
リンが1組を指差す。そこには人側を作り、中心にカエルのコスチュームを見にまとった人とスーツに身を包み、顔に傷のある男が立っていた。
「おい、お前ぶつかっといてその態度はねぇんじゃねぇか?あぁん?」
刀を持った男がカエル男の肩を掴む。カエル男は静かに振り返るがコスチュームのせいで顔が見えない。
「ふざけた格好しやがってよ」
刀を持った男はカエル男の頭のコスチュームを剥がそうと手を伸ばす。すると奇妙なことが起こった。刀の男が手を上げた瞬間、刀の男の首が綺麗に飛んでいったのだ。その場が一瞬凍りつく。ゲコゲコ 不気味な笑い声を上げて帰る男が笑い始めると隣のスーツ男も拍手した。
「確かにあれはヤバそうだな」
ドリーが額の汗を拭う。
「あれは、カエルの方がフロート、スーツの方がガルトロって言うらしいよ。カエルの方は前回の試験を勝手に抜け出して不合格になったみたい。スーツの方はわかんない」
ウィックが小声で3人に語る。
「それじゃ、あれはどうだ?」
ドリーが別の組に指を刺す。そこには少年と小太りのおじさんがいた。1人は缶の飲み物を飲み、もう片方が飲み物やおやつをあげていると言う感じに見える。
「少年の方は多分初めての人じゃ無いかな?名前までは分からないや。おじさんの方はオオモリさんだね。受験者をいたぶるのが好きらしいんだけどあの子とずっと一緒にいる感じだね」
「なるほどな」
ドリーは腕を組む。
「じゃあ、あれはどうだ?」
次にライゼンが指を刺す。そこには1人の男が立っていた。
「あの人は僕も気になってたんだよ。何者かは分からないんだけど、情報ないし、多分初めてなんじゃ無いかな?」
リンはウィックの顔を覗き込む。
「めちゃくちゃ情報持ってるね」
「まあ、情報通だからね」
ウィックは口角を上げた。4人は各々ストレッチを始める。すると直ぐにジリリリリ と大きな音が鳴った。そして、大きな時計を担いだ細い男が姿を現す。
「はい、締め切りね。これから試験始めるけど、見た感じ新顔多いみたいだから簡単な説明から始める。適当に聞くように」
周囲が一気にざわつく。男が時計を置くと時計から腕と足が生え最後尾についた。
「全員で、404人か。まずまずだな。」
男は受験者を一瞥すると一瞬で正確に数を告げた。
「まずは此処まで来れたことに誇りを持っていい。俺は第一次試験の試験官 カスだ。試験は試験管の独断で行われる。つまり、年によって難易度を変えるって事だな。勿論、幾つあるかも言えない。まあ、面倒だからもう始めるが、一次試験はハイタッチだ。俺の手とハイタッチしたやつ、早いやつから100人が合格とする。因みにあの時計の長針が再び12を指した時終了だ」
カスの声と共に次々と受験者がカスへと襲いかかる。しかし、その場から動かないものも何名か存在した。
「おい、どうするよ。俺たちも早くいかねぇと落ちちまうぜ?」
ドリーが焦り気味に3人に声をかける。するとライゼンが首を横に振った。
「大丈夫。それは無い」
「俺もそう思う」
リンも続く。
「僕もそう思う」
ウィックも冷静に続いた。
「おいおい、お前ら頭大丈夫か?いくら手練れだってよあんなに一気に襲い掛かられりゃ、イチコロだろ!」
ドリーは人が密集しているところを指差す。3人は顔を見合わせた。
「作戦が必要だね」
「ああ 俺が誘導しリン、ウィックの2人がかりで押さえつけると言うのが妥当だと思う」
「俺たち2人がかりでも不安だよ」
リンの言葉にドリーは頭を掻く。
「合格者第一号ー!」
後方から声が響く。その場にいる全員が後方を向く。するとそこにはカス1人の姿があった。空気が固まる。しかし、動かなかった何人かの人物は思考をギリギリ留めていた。
「試験官の手を叩く音がして、振り向いたらガルトロとフロートがあの時計の後ろに歩いていくのが見えたんだ」
「音?」
「うん、確かに聞こえた」
リンがそう言うとその話を聞いていた何人かが時計の後ろに走り出した。すると次の瞬間、時計がものすごい勢いでその連中を突き飛ばす。
「おいおい、ルール違反はダメだぜ?まあ、あんまり関係ないんだけど。取り敢えず君たちは、不合格」
カスは不合格者の頭に不合格と書くと手を鳴らす。