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臨時パーティ?

「疲れた」

「疲れたわね……」


 冒険者ギルドから出た頃にはすっかり暗くなっていた。

 俺はサリアにこんな提案をした。


「なあ、せっかくだから祝勝会をやらないか? 食材は買い込んであるし、それを使ってファラにご馳走を作ってもらおう」

「へえ、いいわね!」

「ああ。臨時パーティとはいえそのくらいはいいだろ?」


 ぼそりとサリアが呟いた。


「……臨時パーティ」

「ああ、そういう約束だったもんな」

「ええ、そうね。そうだったわね」


 急にサリアが不機嫌になった。

 嘘だろ。こんな祝賀ムード一直線なこのタイミングでなぜ怒りだすんだ。


「あー、その、もし来るのが嫌なら無理にとは」

「行くに決まってるでしょ! ファラの料理美味しいもの!」


 結局来るのか。嬉しいけども。

 よくわからないまま、俺は怒りのオーラを放つサリアとともに家に向かった。





「お二人はこのままでいいんですか」

「「えっ?」」


 ファラが腕によりをかけてくれた料理を食べ終えたあと、俺とサリアは唐突な質問に目を瞬かせた。


「ファラ、どういう意味だ?」

「決まってるじゃないですか! 兄さん、サリアさんとこのままお別れするつもりですか? こんなにいい人なのに!」

「いや、だってもともと臨時パーティって話だったし……」


 俺が言うと、ファラはジト目で見てきた。


「じゃあ、兄さんはサリアさんと今後もパーティを組むのが嫌なんですか」

「そんなわけないだろ。サリアは話しやすいし、頼りになるし、一緒にいて楽しいし……そりゃあ、これからも一緒にいられたら嬉しいよ。でも、サリアはパーティを組む気がないって言ってるんだから、俺の都合を押し付けたら迷惑だろ」


 サリアがパーティを組まないのは元の仲間に裏切られたのが原因だ。

 そのこととどう向き合うかはサリアがゆっくり決めるべきだと――


「痛い! サリア、なんで俺の足を踏むんだ!」

「うるさいこの天然たらし!」

「身に覚えがないんだが!?」


 どうして急にこんな罵倒を受けているんだろう。

 よく見るとサリアの顔は赤く染まっている。

 待て。考えろ。冒険者ならどんなときでも冷静に判断するんだ。

 宴会+酒+顔が赤い。

 なるほど。


「酒乱、というやつか……」

「あんたなんか馬鹿なこと考えてない?」


 祝勝会ということで酒も買ってきていたんだが、サリアは酒が入ると攻撃的になるのかもしれない。

 ファラが今度はサリアに尋ねる。


「サリアさん、兄さんと一緒では嫌ですか?」

「……まあ、そりゃ、嫌だったら一緒にダンジョンなんて潜らないし」

「私、サリアさんともっとお話ししたいです。これでお別れなんて寂しいです」

「うっ」


 うるうると目を潤ませるファラにサリアがたじろぐ。


「ぐあああああああ!」

「なんであんたが胸をおさえて吹っ飛ぶのよ!」


 俺の妹はなんていじらしいんだ。願いを告げられたら命を懸けてでも叶えたくなってしまう。世が世ならファラをめぐって世界に戦争が起きていたことだろう。


「ファラ、何が望みだ? 望むなら世界だって持ってくるぞ」

「言ってることがやばすぎるでしょ」

「兄さん、話の邪魔になるので大人しくしていてくださいね」


 しまった。妹への愛が溢れて暴走していた。


「……ええと、こんな変な兄ですみません」

「まあユークが変なのはもうわかってたし……ええと、それでパーティだっけ? そ、そこまで言うなら組んでもいいわよ」

「本当か!?」


 俺が思わず顔を上げると、サリアは静かに告げた。


「けど、一つだけ条件があるわ。あたしはSランクを目指す。パーティを組む以上はあんたにも付き合ってもらうわよ」

「ああ、いいぞ」

「ずいぶんあっさり言うわね」


 拍子抜けしたようなサリアに俺は言った。


「もともとSランクにはなるつもりだったんだ。……行きたい場所があるからな」


 超高ランクの冒険者にしか入ることが許されない秘境というのがこの世界にはある。

 その中にはあらゆる病を治すアイテムが眠る場所があるらしい。

 そこに行き、ファラの病気を治す手段を手に入れる。

 メタルサーペントを倒し、転移の指輪を手に入れて行動範囲を増やそうとしたのもそのためだ。


 Sランクパーティを目指すのはいばらの道だろう。

 だが、ファラのために俺は絶対にそれを成し遂げる。


「本気みたいね」

「ああ」

「ならいいわ。それじゃあパーティを組みましょう」

「よろしく頼む」

「ええ。……あ、もう一つだけ条件があった」

「なんだ?」


 サリアは言いにくそうに視線を落とすと、それから上目遣いで俺を見た。

 どこか不安を押し隠すような声で、


「……あたしのこと、裏切ったりしないでね」


 ……


「…………わかった」

「な、なんで返事に間があるのよ!」

「なんでもない。本当になんでもないんだ」


 サリアは前のパーティをいきなり追い出されたらしいから、不安に思う気持ちは理解できる。

 けど……急にあんな可愛い姿を見せられたら心臓に悪い。

 あんな心細そうな顔をされたら守ってあげたくなるだろ。

 勘弁してくれ。


 俺はしばらくファラとサリアから不思議そうな顔をされるのだった。

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