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藤崎くんが、なんだか可愛い  作者: 春田りお
本編
7/10

やきもち

学校が自由登校期間に入った私は、学校のPCルームで3Dソフトの勉強をしたり図書室で専門書を読んだりして過ごすようになった。


今日は放課後パソコン部の活動でPCルームが使えないので、授業の終わりを知らせるチャイムがなると同時に切り上げて帰ることにした。


自転車で走っていると、前方に唯花ちゃんの下校する後ろ姿を見つけて声をかける。


「唯花ちゃん、今帰り?」

「あ!りの先輩!」


今帰りだよーと返事をしてニコニコ笑ってくれる唯花ちゃんが可愛くてしょうがない。

自転車から降りて歩調を合わせる。


「一緒に帰ろうか、送ってくよ」

「うん!りの先輩うちで遊ぼうよー!ゲームしよ!」

「えっ、でも駿くん部活中だし…」

「お兄ちゃんも喜ぶよ!」

「じゃあ、お家着くまでに返事もらえたら遊ぼうか」

「うんっ」


スマホのトーク画面で駿くんに連絡を入れた。


唯花ちゃんを自分の自転車に乗せて私が引く形で帰ることにした。目線が近くなって話しやすい。


彼女は最近あったお友達との何気ないじゃれあいだったり、行事のことだったり、話すことが楽しいという感じで無邪気に喋ってくれる。


「それでねー、先生がメガネがないって言うんだけど、頭に乗せてるから」

「そんなこと本当にあるんだね」

「ね!芸人さんの真似かと思った!」


クスクスと笑い合っていると、スマホに駿くんから返信が来て『唯花がわがまま言ったみたいですみません。俺は大丈夫なのでゆっくりしていってください。』と書いてある。


「返事来たよ!行ってもいいって」

「やったぁ」


2人で笑い合っていると、コンビニから出て来たけーくんと鉢合わせた。


「あー!けーちゃん」

「ん?おー」

「バイトは?」

「今日は休み」

「けーちゃんも一緒に遊ぼうよ!りの先輩いい?」

「うん、いいよ」

「遊ぶって何すんの?」

「うちでゲームするの!」

「いいぜ、ボコボコにしてやるよ」


にやりと笑ってけーくんは唯花ちゃんの頭をワシワシ撫でる。


藤崎家にお邪魔して3人でスマブラで対戦した。ご両親は仕事で帰りが遅くなるらしく今日は会えないそうだ。


けーくんは宣言通り中々の腕前で唯花ちゃんも私も太刀打ちできなくてボコボコにされた。

唯花ちゃんは悔しそうにしていたけど、彼と遊べるのがとても楽しそうだった。


途中唯花ちゃんが私の膝の上で寝てしまったのをけーくんが優しく見つめているので、彼も唯花ちゃんを大切に思っているんだな、と嬉しく思う。


ちょうどそこへ駿が帰ってきたようで、リビングの扉が開いた。


駿は圭がいるのを見ると不機嫌そうに目を細めた。

圭もその様子に気がついたようで不穏な雰囲気を纏う。


「あ、駿くんおかえり」

「……すみません、唯花の相手してもらって」


そう言って莉乃の膝に乗って寝ている唯花の体を持ち上げて圭に渡す。


「部屋で寝かせてやって」

「俺が、連れてっていいの?おにーちゃん?」

「お前こいつには()()()()しないだろ」

「知ったふうに言うんじゃねぇよ」


一瞬2人の間に険悪な空気が流れるが、圭が黙って唯花を抱き上げて彼女の部屋へ連れていった。


「先輩こっち…」

「う、うん」


2人の様子に戸惑いながらも案内されるままに駿の部屋に入る。

高校生男子のイメージと違った綺麗な部屋だ。

サッカーボールと陸上部のユニフォームが壁に吊してあり、棚には教科書や参考書の他に陸マガやサッカー雑誌が数冊となぜか分厚いファンタジー小説の中巻だけが異質に並んでいる。


莉乃を2人掛けほどの座椅子ソファーに座らせて、自身は飲み物を取りに行くと伝えると駿はリビングに戻る。

すると、ちょうど圭が荷物を取りに来たところでかち合った。


「帰るのか?」


キッチンからグラスとマグカップを出しながら圭に話しかける。


「いや、まだ時間あるし唯花が起きるまでいるよ」

「…さっきは感じ悪くしてごめん」

「いいよ、俺の素行のせいだし。それにしてもお前独占欲強すぎー」


そう言って苦笑する圭に居た堪れない気持ちになる。


なんかごめん‥‥


「しょうがないだろ、こっちも必死なんだよ…圭は烏龍茶でいい?」

「ああ、さんきゅ」


グラスに烏龍茶を入れて渡すとそれを受け取りニカリと笑う。


「ったく、とっとと付き合えよなー、お前は俺と違ってまともな恋愛してんだから」

そう言って肩をすくめると圭は唯花の部屋へ戻っていった。



部屋に戻ると先輩が申し訳なさそうに俺の方を向いた。


「ごめんね、急にお邪魔しちゃって」

「先輩はいつ来てもらっても大丈夫ですから…ただ、圭がいるとは思わなかったので」


そう言いながら先輩の前にあるローテーブルにホットレモンティーを入れたマグカップを置く。


「ありがとう、けい君とは近くのコンビニで会って…というか森林マラソンの時に偶然応援に来てて、唯花ちゃんが紹介してくれたんだよ」

「あー…なるほど」


圭は友人としてなら悪い奴ではないが、こと恋愛に関しては来るもの拒まずな所がある上に、かなりモテるので、出来るだけ先輩を近づけさせたくなかった。


駿は苦い表情を浮かべて莉乃の隣に座る。


大きめの座椅子ソファーだが、2人で座ると若干距離が近い。


いつも触れることがあまりない距離感で接してくる駿くんにしては珍しいなと思い、莉乃がそちらを見ると自分をジッと見つめる視線にぶつかった。


初めて話した時もそうだったけど、多分私は彼のこの視線に弱いんだと思う。

何か言いたそうにされると気になって落ち着かない気持ちになってしまう。


そう思いながら莉乃はその視線に目が離せずにいると。


駿は瞳を伏せて気まずげに口を開いた。


「…圭とは、あまり2人にならないでください」


「え?」

「なんというか、あいつは女性関係が色々……厄介なので」

「えっ、そうなの?付き合ってる人がいる、とか?」

「まぁ……」

「そう、なんだ……困ったな」


唯花ちゃんの恋を応援したいと思っていたけど、あの子を悲しませる人を応援するのは本意じゃない。


(唯花ちゃんを見る目が優しかったから悪い人じゃないと思ったんだけど)


渋い表情になった先輩の様子に俺は眉を顰める。


「困る?」

「な、なんでもないっ」

「どういうことですか」

「詳しくは言えないけど、なんて言ったらいいのか…」

(唯花ちゃんのことだから駿くんに無関係のことでもなけど、口止めされてるし……)

「駿くんに心配させるようなことにはならないようにするから…」


この人は俺がなにを心配しているかわかっているんだろうか…


そんな気持ちで言葉を発せずにいる駿を、落ち着かせるように莉乃が頭を撫でて来たので思わず肩が跳ねる。


「……ね、大丈夫?そんなに心配させちゃった?――」


嫉妬と、焦りと、嬉しさがないまぜになって、覗き込んでくる莉乃に、今まで保って来た距離感や理性が不思議なほど簡単に崩れ去るのを感じた。


(だめだ……)


気持ちではブレーキをかけているのに体が言うことを聞かない。


考えなしに彼女の近くに座ったことに今更ながら気がついた。


普段より近い位置にある彼女の唇にそっと自分のそれを重ねると柔らかな感触に触れた部分がかすかに震える。


「すき…」

「……ぁ」


突然の告白と口づけに驚いた様子の先輩は口元に手を当てて顔を真っ赤にして俯いた。


(かわいい…かわいい…)


さっきまであった葛藤が嘘のように何も考えられなくなっていた。


「莉乃せんぱ…」


彼女の手を取り、唇が再び触れる‥

と思った瞬間バーーン!!!と部屋の扉が開いて唯花が勢いよく入ってきた。


同時に駿の動きがピタリと止まる。


「おにーちゃん!りの先輩はー?!」

「……いるよ」

「みんなでマリパしよーよ」


「う、うん!」


唯花は楽しそうにゲームのあるリビングに駆けていく。

莉乃はそれに倣うように慌てて部屋を出ようと立ち上がった。


「先輩、荷物」

「ありが……」


自分の荷物を忘れていたことに気がつき振り返ると駿がすぐそばにいて


あっ、と思った瞬間頬を引き寄せられそのまま額にキスを落とし、軽くため息をつくと


耳元で「帰り送ります」とささやいた。


見ていただきありがとうございます♪

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