何故なんだ
私は家に帰って来てから、食事も取れず、ベッドで泣いていた。
どうしよう。どうしよう。隼人に話そうか。でもそれじゃ、あの写真がネットに流れる。
結局、文化祭当日まで隼人に言う事が出来なかった。
俺は、元よりの駅から電車に乗るといつもの駅の一つ前の駅、星世の通う高校のある駅で降りた。
星世、最近元気なかったけど、文化祭の準備で忙しかったのかな。まあ、いいや今週もあの時以来だし。今日はいっぱい話せる。
そう思いながら長尾高校に向かった。周りは、文化祭に行く子たちなのか、普段より多く感じる。
校門が見えて来た。待合せの十一時にはまだ早い。待って居ればいいだろうと思って近づくと星世がもう居た。早いな。会いたかったのかなと思いながら近づくと俺と同じ身長位の男が側にいる。誰だ。
俺は、星世に近付いて
「星世、来たよ」
と声を掛けると、その男はいきなり星世を抱いた。
「お前が立花隼人か。如月さんは、もうお前とは付き合わない。お前が面白くないんだとよ。これを見ろ」
そう言っていきなり星世の唇を奪った。
「えっ」
「どうだ。これでお前も理解出来たろう」
俺はカッとなって
「ふざけるな。星世に何するんだ」
そいつの胸倉を掴んで殴ろうとした時
「隼人。ごめんなさい」
「えっ、嘘だろう」
「本当なんだよ。この野郎」
男が俺を殴って来たがそいつの腕を取って裏返しにして抑え込んだ。
「星世。嘘だろう。何言っているんだ」
「ごめん。隼人。もう終わり」
「………嘘と言ってくれよ」
「ごめんなさい」
俺は、男の腕を離すと思い切り駅の方へ走った。後ろで誰かの声が聞こえるが、全く耳に入らない。
頭の中が真っ白だった。思考能力を失った様に何も考えられなかった。中学三年の時に見初めて、それ以来、今の今まで星世と一緒だった。
このまま高校を卒業したら籍を入れて二人で大学に行って、どちらかの家の後を継ぐものだと思っていた。
星世の親も俺の親もそう思っていた。何故だ。何故だ。何がどうなったんだ。昨日までいや、今日の朝まで何も変わらなかったじゃないか。
地元の駅に着くと目の前にあるホームのベンチに座り込んだ。何も考えられない。
今日は日曜日だ。少し寝坊したけど、買い物にでも行くか。隼人は如月さんの文化祭に行くとか言っていたし。
改札を通って、ホームに行くと、あれっ、隼人。どうしたの。文化祭じゃなかったの。
近付くと大きな体の顔の下のコンクリートがびしょ濡れだった。
「隼人っ!」
私は、尋常でない隼人の両肩を掴んで声を掛けると顔を上げて来た。そして
「穂香―」
思い切り抱き着かれて大声で泣かれ始めた。
「ちょっ、ちょっと隼人。どうしたの。離れて」
私の肩を押す様に離れると
「星世に振られた」
「えーっ!!!ありえないでしょ」
「でも本当なんだ」
「とにかくここでは、どうしようもないから隼人の家に帰ろ」
「やだ」
「じゃあ、私の家でも」
頭を縦に振った。
私の家について、二年ぶりに隼人を自分の部屋に入れると隼人はぽつりぽつりと話し始めた。
「そうだったのか。辛かったね」
大きな体を後ろから包む様に抱いてあげるとまた泣き始めた。
こいつこんなに涙もろいのか。そう思う位涙を出している。
でもおかしい。如月さんから隼人を振るなんてありえない。あれだけの関係になって身も心も一緒だったはず。如月さんに何か有ったのかも。
隼人は、月曜日学校を休んだ。
私は如月さんをいつもの通学電車で見ていたが、見るのも可哀そうな位の落ち込み様だった。
何が有ったのかは知らないけど口を挟む状況じゃない事だけは分かった。
月曜日の夜隼人からスマホに連絡が有った。珍しい。
『穂香、明日から一緒に通学してくれないか。乗る車両も変える』
『分かった。隼人が望むなら良いよ』
『悪いな。それじゃ明日』
『うん』
形はどうあれ、隼人は私の所に戻って来た。如月さんに何が有ったか知らないけど、隼人のあの姿の責任は取って貰う。その前に隼人は私のもの。
俺は、穂香の家で散々泣いた後、家に戻った。母さんが居て何か言っていたが、答える気にならず、部屋でずっと過ごした。月曜日は、母さんに言って体調が悪い事を理由に学校を休んだ。
スマホには星世からいっぱいメッセージが届いていたが、見る気もしなかった。
「穂香、おはよ。悪いな。付き合わせて」
「ううん、いいよ。隼人の頼みだから」
改札からホームに行こうとすると星世の姿が有った。何か声を掛けたようだが、全く無視して改札を通り、いつもとは違う車両に穂香と乗った。
隼人と全く連絡が取れない。スマホもブロックされている。もっと早く隼人に相談していれば。
あれからの学校生活はひどいものだった。
高田が我が物顔で私を彼女扱いしてくる。偶に体を要求してきたが、それだけは拒否した。私の体は隼人の物。そう決めていた。
白石さんは、カラオケに誘った張本人。後からクラスの子に聞いたが、誰もカラオケには誘われていなかった。
あれ以来、口も聞いていない。席替えで遠のいたこともある。
楽しいはずの高校生活がつまずいてしまった。美緒は部活を楽しんでいるみたいだ。私も入れば気分が変わるのだろうか。
「隼人、一年ぶりのクリスマスね」
「ああ、そうだな」
「楽しみましょう」
あれから一か月半が過ぎ、俺の心も星世の事を仕舞い込む事が出来る様になった。でも忘れるなんて出来ない。
「隼人。今日、家族帰って来るの遅いんだ。うちに来ない」
「良いけど」
穂香が顔を下にして赤くなっている。どうしたのかな。
「隼人。私のクリスマスプレゼント受け取って」
そう言って、穂香は俺の唇に口付けをして来た。
………………。
「隼人。もう私の事だけ考えて」
「……そうするよ。穂香の体を張ったプレゼントを受け取ったからな」
「そうよ。もうよそ見してはだめよ。中学三年の時の様に」
「え、ええー」
「ずっと待っていたんだから」
「わ、分かった」
それから俺達は、学校でも家でも一緒に居た。もちろん勉強だよ………。
―――――
隼人。良かったね。でも如月さんの事、忘れられるの?
次回をお楽しみに。
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