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第7話〔変態、等級変化における魔物の選択〕①

大変長らくお待たせ致しました。m(_ _)m

ムチャクチャのんびりですが、頑張って更新をしていくつもりはありますッ!








 拝啓――、お姫様へ。


 アナタと約束を交わした日から早くも一月ヒトツキの時が経ちました。


 自分は相も変わらず日々を生き残る事に必死で、鍛練に割く暇がありません。


 昨夜なんかは木の根を啜り飢えを凌ぐ次第です。


 じきに寒さも増します。


 宜しければまた食べ物を送っていただけると幸いです。――敬具。




  ※




 目標を捕捉、――変態開始。


 等級そのままで、種族スティンジーバード。


 瞬間ふっと身体が軽くなる。


 途端に圧縮されて小さくなっていた神経が骨格の様に伸び、新たな感覚を形作る。


 そうして肉付けが進み意識が整ったところで――崖下へと飛び出す。


 目指すは麓の村。


 今日こそは手に入れてみせる。


 否、成功しなければ死んだも同然。


 必ずや食糧を奪い取り、生き残ってみせるっ。


「クァァァッ!」






 ――結果、――収穫は無し。


 種族もゴブリンに戻して天然の洞穴を拡張し作った何も無い我が家へと帰還する。


 バタリ。


「ぅがが……」


 最早限界だ。


 近隣の村は度々襲撃したので警戒網が行き渡り、侵入する事すら至難。


 かと言って遠出をしようにも探索できる程の余裕はない。


 日々の食事は一期一会、木の幹木の皮根を啜る。


 畜生……。


 それなりに広い森の中だと言うのに、発見できるのは悉く毒性の物ばかり。


 だから他の生物をあまり見掛けない道理。


 ただ逆に言うと程よく安全である事は一つの事実。


 もしも食糧豊富な土地に入り込んでいたら最弱のゴブリンなど一週間と持つまい。


 その分、他の脅威も多いのだから。


 そして毒物とはいえ食べたり触れたりしなければ問題のない共存する上では比較的安全な森の生態系と水だけは確保できる状況に、今日まで救われてきた。が。


 最早一刻の猶予もない。


 直に季節が冬となり、自然の猛威がなんとか燻ぶっているこの命をも白く染める。


 そうなれば約束が如何の話ではなく。


 文字通りの死と成り、旅立ちを前に物語が終わる。


 あぁ……。


 こうなるコトが分かっていたなら格好を付けず城に留まって――。


 イヤイヤ何を弱気に。


 ただ最近は音沙汰もない。


 前は一日に何度も遣り取りをしたり、食糧を添えてくれていたのに。


 自分の事なんて如何でもよくなってしまったのだろうか……?


 イヤイヤ、何を馬鹿な。


 ――けれども。


 ……姫さんは、元気にしているのだろうか?




  ※




 思い返す事一ヶ月前、思わぬ出会いから招かれた王城での眩い一夜の出来事は自主的な脱出という形で幕を下ろした。


 まあ要するに引き際を見定めたというところだ。


 ただ予想外だったのはそれを読まれていたというコト。


 しかも相手は天然温室育ちと思われたお姫様御本人だったと。


 とは言え直接ではない。


 ロゼと言う名の若い執事が部屋から脱出したばかりで行く当てのない自分を姫の為にと待ち構えていたのだ。


 ――そうして彼は言った。


「魔物としては物分かりがいいな。本当に元ヒトか? まぁそんなコトはどうでもいい。姫様がもしもオマエがそうした場合にと頼まれた用事をさっさと済ませるぞ」


 そう言って、ロゼは姫様から預かった物と言い道具袋とその内容物が書かれた紙を渡した後に。


「この先に鍵の開いた扉がある、そこから城の外へ出たあと暫く道なりに進めば分かれ道だ。左へと行けば平穏だが二度と姫様とは関係を持てぬ場所に行き着く、右は安全だが過酷な条件もある場所だ。どちらを選ぶかは自由だが、これ以上姫様を困らせたくないのであれば大人しく、何処ぞで生きていろ」


 次いで以上だと言わんばかりの雰囲気を出しつつも不本意だと言いたげな表情でお姫様が久しぶりに楽しそうだった事を告げ、若い執事は去って行った。


 そして城を出た自分は、言われた通りの道を進み分岐点で一方の看板に引っかかっていたある物を見付けて、――現在に至るのだった。




  ※




 ……不味い。


 そりゃ木の皮だし当然だ。


 以前、と言っても人間だった頃――木の皮を水に浸して煮れば食べられると聞いたことがあった。が、所詮は非常な食品、食べれたとしても美味い訳はない。


 これなら食べても問題なさそうな葉っぱを潰して煮た青汁の方が栄養素的にマシか。


 一応これでも冒険者として長年培った知識や精神力で〝純自然食〟には慣れているつもりだったが、さすがに肉の無い生活はツラい。


 ここに来た当初は意気揚々と野生の獣を狩れば済むと思い、深く考えてはいなかったが数日経っても兎一匹見付からない様子に違和感をもっと強く持つべきだった。


 て言うか、そんな森が存在していると思わないだろ普通。


 そういうのはさ、もっと見るからに禍々しくて毒々しい雰囲気が全体からも空気を淀ませ発している感じじゃんか?


 こんなチュンチュンと鳥の鳴き声が聞こえてくる、清々しい風が吹き込む場所じゃ。


 ――え、チュンチュン……?


 よもやっと食べ掛けの皮を放り、住処の洞穴から顔を出して空を見上げる。


 ト、ト、――飯発見じゃッ!


 急ぎ――変態開始!






 着地後くわえていた獲物を一旦地面に置き、種族をゴブリンに戻す。


 次いでニヤける感情を抑えきれぬまま改めて物を天へ掲げ――。


 ――獲ったぞぉっ!


 まさしく奇跡、天が俺に生きよと命じているのだ。


 まあ余り宗教心は厚い方ではないのだが。


 それでも感謝はしておこう。


 神よ貴き命の糧を与えたもうたコト、どうもありがとーうっ。


 ――……こんな感じで、いいか……?


 なら早速、調理開始だ!






 野獣と魔物の違い、それは大雑把に言うと死体が残るか残らないか。


 魔物は第五元素エーテルで構成された世界の不純物、野獣は生命体より産み出される――。


 要するに、人間と同じ生き物と言う事だ。


 ――と、完成だ!


 ジャジャンと言いたくなる程に、ただ解体して焼いただけの肉。


 しかし現状の自分にとっては匂いまでもが黄金に輝く栄養源。


 ぃ、いただきまァスッ!


 ガブリ。


「……」


 ――……ハッ。


 ぃ、生きてる。


 俺は今日もっ生きておりまぁァァスッ!


 そして流れる涙すらも調味料、肉を口に頬張り肉汁の先を行くかの如き涙の感謝が対象を構わず全てのモノに御礼を言いたくなる。


 ああ、本来魔物とは食事をせずとも生きられる筈だが、自分が元人間だからかそれとも知った味を欲しているだけなのか。


 イヤ今はそんな事はどうでも良い。


 この噛み締める味こそ生きている証拠なのだ。


 命の有難味とは本当に些細な――、……ん?


 あ、アレは。


 次いで、久方振りに見る、女神からの連絡が大きく羽を広げて舞い降りる。


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